11,不可解。
女剣士のミリカさんは無事治療を受けられ、私の誤解も解けた。
その後、実に実に面倒なことに、ハーバン伯爵直々にお礼がしたいとか何とかで、お城のような邸宅の客室に案内された。
やだなぁ。早く【覇王魔窟】に戻りたいのに、貴族の人とお茶するなんて。
あとせっかくカブを贈ると言ったのに、断られたし。ちなみにハーバン伯爵の領土は、私のカブ畑の近くではあるけど、カブ畑があるのは王領であり、税金も王政府に納めているので、これまでハーパン伯爵とは無縁だった。紋章も知らないくらいだったからね。
ところで40代後半のハーバン伯爵は、気さくに私の両手を握り、感謝の言葉を述べた。
「我が娘を助けてくださり感謝するよ」
「お嬢さまは、大丈夫でしょうか」
「まだ意識を取り戻していないが、命に別状はないということだ」
「それは良かったです。私もホッとしました」
「だが傷は残るだろう。それに右眼が……あの子が〈挑戦者〉を目指すと言い出したとき、もっと本気で止めるべきだった。だが〈開華のタネ〉によりスキルツリーを覚醒させてから、あの子は常に【覇王魔窟】を目標としていた。だから今回、【覇王魔窟】の経験豊富な猛者たちとともにパーティを組ませ、送り出したのだが。まさか魔物によって、あのような深い傷を負うことになるとは」
深い傷? あぁ寄生型魔物を取り出すさい、私が切り裂いたところか。魔物の仕業と誤解されているようだ。ここで隠しておいて、あとでミリアさんの口から聞いたら、また面倒そうだ。
「いえ、右乳房の下を切り裂いたのは私ですよ。魔物を取り出すために致し方なく。ざくっと裂いて、内部に両手を突っ込みました。魔物が肋骨の外側にいて、まだ肺などに入り込まなかったのは運が良かったです。そこまで切り裂かねばならなかったら、おそらく死んでいたでしょう。
あ、それとお嬢さまの右眼球ですが、あれは魔物のせいで、眼球蟲的なものに変化してしまいまして。たぶん今も、【覇王魔窟】の床を這いまわっているのではないかと、カサカサと。あれ、ハーバン伯爵? 顔色が良くないようですが? 吐かれますか? 誰か―、伯爵が吐きまーす!」
「だ、大丈夫だ。わが娘の眼球が蟲と化したところを想像してしまい、少々、気分が──」
「分かります分かります。蟲って、可愛いですものねぇ」
「……う、む?」
これは高価だぞ! ということだけは分かる、変てこな味のする紅茶をすする。
するとハーバン伯爵が、是非ともという感じで持ちかけてきた。
「そなたは、ただ者ではないようだ。いや、何も言うな。わしには分かるぞ。あの【覇王魔窟】にソロで挑むとは──それに我が私兵も、簡単に吹っ飛ばして伸してしまったという話ではないか。おお、そうだ。そのさいは、うちの者たちが失礼したな。だが兵たちも事情を知らなかったのだ、許してやってくれ。
そして、アリア殿よ。どうだろうか。そなたには、是非ともわしが要する【覇王魔窟】攻略パーティに参加を──」
「お断りします。ご馳走様でした。さようなら」
制止を振り切り、客室を飛び出る。パーティなんてものに組み込まれては、ソロプレイの心地良さと気楽さが台無しになってしまう。
しかし、ふむ。パーティ? そっか。引っかかりはこれか。
客室に引き返すと、落胆していたハーバン伯爵が顔を輝かせた。
「考えなおしてくれたのかね?」
「いえ。パーティ参加は断固としてお断りですが。先ほどお嬢さまには、【覇王魔窟】の経験が豊富な者たちとパーティを組ませた、とおっしゃいましたね? 彼らは、一体何階まで攻略した猛者だったのですか?」
「うむ。最高で33階だが──残念ながら、娘以外は全滅してしまったようだ」
「最高で33階も? しかしお嬢さまは、それほど高い階から逃げてきたとは思えません。〈寄生操魔〉という寄生型魔物に、どの階で寄生されたのでしょう? いずれにせよ、寄生型の魔物がいることは分かっていたはずなのに、なぜ全滅するようなことが?」
「油断していた、としか思えんな。娘が意識を取り戻したら、聞いてみるとしよう」
「それが良いと思います。では、私はこれで──」
うーん。油断してたのかなぁ?
何か、想定外のことが起きたような気がする。思いがけないことが──だってそうじゃないと、これは不可解だ。
おそらく〈寄生操魔〉がいるのは、そんなに上層階ではない。今日はもう遅くなったから、家に帰るけれど。
明日は、会えるかな、〈寄生操魔〉さん?
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