表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/202

11,不可解。

 


 女剣士のミリカさんは無事治療を受けられ、私の誤解も解けた。


 その後、実に実に面倒なことに、ハーバン伯爵直々にお礼がしたいとか何とかで、お城のような邸宅の客室に案内された。

 やだなぁ。早く【覇王魔窟】に戻りたいのに、貴族の人とお茶するなんて。


 あとせっかくカブを贈ると言ったのに、断られたし。ちなみにハーバン伯爵の領土は、私のカブ畑の近くではあるけど、カブ畑があるのは王領であり、税金も王政府に納めているので、これまでハーパン伯爵とは無縁だった。紋章も知らないくらいだったからね。


 ところで40代後半のハーバン伯爵は、気さくに私の両手を握り、感謝の言葉を述べた。


「我が娘を助けてくださり感謝するよ」


「お嬢さまは、大丈夫でしょうか」


「まだ意識を取り戻していないが、命に別状はないということだ」


「それは良かったです。私もホッとしました」


「だが傷は残るだろう。それに右眼が……あの子が〈挑戦者ディファイアンス〉を目指すと言い出したとき、もっと本気で止めるべきだった。だが〈開華のタネ〉によりスキルツリーを覚醒させてから、あの子は常に【覇王魔窟】を目標としていた。だから今回、【覇王魔窟】の経験豊富な猛者たちとともにパーティを組ませ、送り出したのだが。まさか魔物によって、あのような深い傷を負うことになるとは」


 深い傷? あぁ寄生型魔物を取り出すさい、私が切り裂いたところか。魔物の仕業と誤解されているようだ。ここで隠しておいて、あとでミリアさんの口から聞いたら、また面倒そうだ。


「いえ、右乳房の下を切り裂いたのは私ですよ。魔物を取り出すために致し方なく。ざくっと裂いて、内部に両手を突っ込みました。魔物が肋骨の外側にいて、まだ肺などに入り込まなかったのは運が良かったです。そこまで切り裂かねばならなかったら、おそらく死んでいたでしょう。

 あ、それとお嬢さまの右眼球ですが、あれは魔物のせいで、眼球蟲的なものに変化してしまいまして。たぶん今も、【覇王魔窟】の床を這いまわっているのではないかと、カサカサと。あれ、ハーバン伯爵? 顔色が良くないようですが? 吐かれますか? 誰か―、伯爵が吐きまーす!」


「だ、大丈夫だ。わが娘の眼球が蟲と化したところを想像してしまい、少々、気分が──」


「分かります分かります。蟲って、可愛いですものねぇ」


「……う、む?」


 これは高価だぞ! ということだけは分かる、変てこな味のする紅茶をすする。

 するとハーバン伯爵が、是非ともという感じで持ちかけてきた。


「そなたは、ただ者ではないようだ。いや、何も言うな。わしには分かるぞ。あの【覇王魔窟】にソロで挑むとは──それに我が私兵も、簡単に吹っ飛ばして伸してしまったという話ではないか。おお、そうだ。そのさいは、うちの者たちが失礼したな。だが兵たちも事情を知らなかったのだ、許してやってくれ。

 そして、アリア殿よ。どうだろうか。そなたには、是非ともわしが要する【覇王魔窟】攻略パーティに参加を──」


「お断りします。ご馳走様でした。さようなら」


 制止を振り切り、客室を飛び出る。パーティなんてものに組み込まれては、ソロプレイの心地良さと気楽さが台無しになってしまう。


 しかし、ふむ。パーティ? そっか。引っかかりはこれか。

 客室に引き返すと、落胆していたハーバン伯爵が顔を輝かせた。


「考えなおしてくれたのかね?」


「いえ。パーティ参加は断固としてお断りですが。先ほどお嬢さまには、【覇王魔窟】の経験が豊富な者たちとパーティを組ませた、とおっしゃいましたね? 彼らは、一体何階まで攻略した猛者だったのですか?」


「うむ。最高で33階だが──残念ながら、娘以外は全滅してしまったようだ」


「最高で33階も? しかしお嬢さまは、それほど高い階から逃げてきたとは思えません。〈寄生操魔パペットマスター〉という寄生型魔物に、どの階で寄生されたのでしょう? いずれにせよ、寄生型の魔物がいることは分かっていたはずなのに、なぜ全滅するようなことが?」


「油断していた、としか思えんな。娘が意識を取り戻したら、聞いてみるとしよう」


「それが良いと思います。では、私はこれで──」


 うーん。油断してたのかなぁ? 

 何か、想定外のことが起きたような気がする。思いがけないことが──だってそうじゃないと、これは不可解だ。


 おそらく〈寄生操魔パペットマスター〉がいるのは、そんなに上層階ではない。今日はもう遅くなったから、家に帰るけれど。


 明日は、会えるかな、〈寄生操魔パペットマスター〉さん?


ブクマ登録、評価など、よろしくお願いしますー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ