102,〈幽魔殺しのスイカ〉。
〈黒膜幽魔〉さんが言うわけだ。
「人間、我が主の覇道を邪魔するならば、ここで死ぬがいい。《闇膜》!!」
こっちが何も言う前から、戦闘に入るなんて。この魔物さんは、コミュ障かな。
〈黒膜幽魔〉さんの身体から、薄い黒膜が拡散する。この薄膜、見た目とは違って、異常な耐久力。というか破壊不可能。
しかも空中を覆い尽くすと、太陽の光も遮り、周囲がすっかり闇黒と化してしまった。視界を奪うタイプか。
〈黒膜幽魔〉は、この漆黒の中でも、私のことがよーく見えているのだろう。一方で、私は何も見えない。
そこでこちらも《視界滅界》を発動。スキル内容は、『33秒のあいだ、確実に敵の視界に入らなくなる』。おそらくその原理は、強制的に敵を盲目状態にするのだろうけども。
さて。これでお互いに、相手の姿は見えなくなった。だがこちらは、33秒で時間切れだ。その後は、一方的に攻撃を受けるとになる。
ひとまず、《怠惰心地》で周囲の時間の流れを緩慢にする。
つづいて、《大地愛暴》の攻撃範囲を、この《闇膜》内に広げようか? だけど致命的なダメージとなるかな? それが分からないと、むやみに発動はできないが。
おお、この歯ごたえを見よ。やはり魔物との戦いは、こうでなくては。目をつむっていても倒せるような魔物は、魔物とは言わんのですよ。
〈黒膜幽魔〉さんは久しぶりにヒリヒリさせる敵。ヒリヒリはさせるが──すでに《耕作:熟練者》は発動しており、スキル実の収穫も近い。
だがその前に、33秒が終わり、《視界滅界》が切れた。再発動までには、しばらく時間があく。
その間、とりあえず《視界不良》を使っておく。どこまで効果があるかは疑わしいが、何も使わないよりはいい。
ところで──私は先ほどから二択を迫られていた。防御スキルは《鎧装甲:地獄》にするべきか、《鎧装甲:状態異常》にするべきかと。同時発動はできないのが、悩みどころだ。
《:地獄》ならば物理攻撃に強い。だが状態異常を起こさせる系の攻撃には、無防備。対して《:状態異常》ならば、状態異常系にはかなり強い(絶対的に防御できるわけではないけども)。ただし物理攻撃には弱くなる。
とはいえ、私には基礎力としての(防御Lv.55)があるのだ。それを信じて、《:状態異常》を使っておいた。
さて──《視界滅界》が切れたとたん、〈黒膜幽魔〉に見つかったようで、連続して攻撃を受ける。
その物理攻撃スキルは重たく、何発目かで肋骨が折れた。
ただ《鎧装甲:状態異常》が言うには、先ほどから物理攻撃スキルと並行して、『発狂』の状態異常が起こるスキル攻撃も受けており、こちらは《:状態異常》が防衛しているという。
ふーむ。発狂せずに済んで良かったぁぁぁ。
そして、スキル実の収穫のときだ。
〈幽魔殺しのスイカ〉を収穫したよっ!
スイカなので、いきなり齧ることはできない。〈スーパーコンボ〉でスイカ割りしてから、齧る。
食すことで、《幽魔殺し》のスキルを会得。
その効果とは、『固有スキル《闇膜》による闇黒状態を解除し、また《闇膜》を使った者の視力を破壊する』。
さっそく発動。
瞬間、《闇膜》による視界ゼロの闇黒が消え、太陽の光が降り注ぐ。そして〈黒膜幽魔〉が両手を天空へと突き上げながら、
「目がぁぁぁ目がぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
と絶叫している。
私はそんな〈黒膜幽魔〉に歩み寄り、【打撃領域】から、《地滅嵐打》→《毒ノ国》→《地滅嵐打》→《桜氷雪打》→《地滅嵐打》→《地滅嵐打》と連続発動。
途中で【射程領域】より《阿吽竜巻》なんかも挟みつつ、やはり破壊力型《地滅嵐打》の連打で連打。こうして目が潰れた〈黒膜幽魔〉さんに対して、破壊の破壊の破壊の限りをつくさせていただき──撃破した。
「さらばですっ」
〈黒膜幽魔〉さんの強化素材を採取。
それから改めて、オルト城砦付近に《大地愛暴》を発動。岩石が魔物連合軍をすりつぶしていく。そのあとは、まだ生き残りの魔物たちを狩らせていただいた。
一仕事を終えたところで、オルト城砦内に《操縦》で戻る。城砦の守備隊や、避難場所から出てきていた領民たちが、大歓声を上げる。
そんなことはどうでもいいけど──。オルト侯ユリちゃんが、中庭で出迎えてくれているではないか。
「幼女さんっっ!!」
と、激しくハグ。
そばにいた守備隊長さんが、疑わしそうに言う。
「やはり、この『生き物』はわが主にとって危険ではないだろうか」
私が解放すると、ユリさんはしばしフラフラしてから、こほんと咳払いした。そして舌足らずに言う。
「アリアお姉さん! あなたを、このオルト侯爵の騎士に任命しますっっ!」
「騎士ですか。ふーむ、いいですよ」
ミリカさんあたりが知ったら、大いに叱られそうだが、幼女の要求には逆らえまい。
ところで、私は〈魔創造人〉さんの重要な配下であろう〈黒膜幽魔〉を撃破したわけだけども。
〈四ツ魔〉というのだから、あとまだ3体いる計算。つまり、なかなかに手ごわい敵と、同時に3体戦う可能性もあるわけだよね。
そろそろ、貯めていたスキルポイントを使い、スキルツリーを開拓するときが来たようだね。
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