10,女剣士さん。
仕方ないので、まずは【覇王魔窟】の3階に駆け降りる。
静かなものです。〈牙高身魔〉の復活はなかった。少なくとも上階から下階へと引き返す分には、魔物の復活はないようだ。
ただし、別の〈挑戦者〉が下階から来ていた場合、どうなるのだろう。たとえばこの3階で、鉢合わせしていた場合。
まず魔物がいない、ということはないだろう。その場合は、下階から上がってきた〈挑戦者〉が優先されるはずなので。
だから上階から降りる身としては、考えられる可能性は2つ。
仮説1,その階の魔物を下階から上がってきた〈挑戦者〉が殺すか、またはその〈挑戦者〉が全滅するまで、その階へ降りることはできない。
仮説2,その階の魔物と下階から上がってきた〈挑戦者〉が交戦中だろうと、こちらもその階に降りることができる。
そこでハッとした。仮説2の場合、気をつけなきゃけないことがある。『ひとつの階に同時に入れる人数は5人まで』ルールだ。
うーん。つまりさ仮定として、次の2階に5人のパーティがいるとする。私が3階から降りていったら、2階の人数が6人になっちゃう。
その瞬間、誰か一人が肉団子となってしまう。
うわぁ、それは困る。しかもこの【覇王魔窟】、降りるまで下階の状態が分からなそうということ。通常の建物なら下階で激しい戦闘とか行われていたら、音とか振動で分かる。けど【覇王魔窟】では、たぶん全く分からない。そこはこのダンジョン内が異空間だからなぁ。
「肉団子……肉団子……肉団子……私は、お腹が空きました、よっと!」
今晩は、肉団子を食べよう。もちろん肉は人肉ではなくて、豚肉で。
別の〈挑戦者〉と遭遇することもなく、無事1階まで降りたので、外に出る。ジェシカさんの姿はなく、女剣士さんが転がっているだけ。裸で。
「女剣士さん! 大丈夫ですか!」
私が女剣士さんを抱えようとすると、前方から数人の騎馬がやってきた。皆さん、軽装鎧を装着している。また鎧の紋章から、ハーバン伯のところの兵士さんたちと分かる。助かった。女剣士さんを医療院へ連れて行ってもらおう。
兵士さんたちは私と女剣士さんを取り囲み、一人が長剣を抜いて、こちらに付きつけてきた。
「貴様! ハーバン伯爵令嬢ミリカ様に何をした!」
ふーむ。私はハーバン伯爵令嬢ではないので、この女剣士さんのことかぁ。
「はぁ。この方、貴族のご令嬢さんだったんですか。どうりで肌が絹のようななめらかさ。すべすべです」
女剣士ミリカさんのわきを、すべすべだなぁ、と愛撫していたら、なんか怒鳴られた。
「貴様ぁぁ! 下民の汚らわしい手で触れるなぁぁぁ!!」
これには文句を言いたい。
「あのですね、全てはこの方、つまりミリカさんを助けるためだったんですよ。そりゃあ、私は女の子が好きだけれども。あれ、いま余計なことを口走った?」
「貴様、さては女の強姦魔か!!」
いやそれは酷すぎるっっっ! 私はセシリアちゃん一筋なのに! あんまりすぎる!
しかもあんまりなことに、いきなり兵士さんが長剣で斬りかかってきた。馬上からの攻撃だったので、私の頭にぶち当たる。とたん、光粒子が発動し、長剣を弾いた。防御パネル『使用者の防御力UP』が機能したようだ。
ところで武器も使わず弾いてしまったので、兵士さんは傷ついたようだ。たぶんプライド的なものが。
「な、なんだと! 貴様、小癪なことをしやがって! 死ね!」
とりあえず魔改造鍬〈スーパーコンボ〉で防御しといたほうがいいのかなぁ?
兵士さんの動きが、あんまり速くないというか、緩慢というか。〈蠍群魔〉の鋭い毒針攻撃に目が馴れたせいかな?
とにかく、楽々と〈スーパーコンボ〉で、剣を弾いた。そう、こっちは剣を軽く弾いたつもりだったのだけど、なんか剣を振ってきた兵士さんを馬上から吹っ飛ばすことに。打撃パネル『武器の打撃力をUPする』効果が、こんなときにも出るんだね。
「あ、すいません! 本当に悪気はなかったんです!」
別の兵士たちが騒ぎ出す。
「コイツも〈挑戦者〉か! おそらく、どこかのギルドで鍛錬に鍛錬を積んだ生きる戦闘兵器に違いないぞ」
「いえ、ただの農家の娘なんですが。カブ畑を耕すしか能がないものでして。けど、うちのカブはやればできるカブですよ」
「とにかく貴様、我々に同行し、事情を説明してもらう」
「分かりました。早くミリカさんに治療を施してもらわなければいけませんし」
こらちが大人しく従ったので、ひとまず兵士さんたちからも殺気が消える。兵士さんの一人が馬上から降りて、私の〈スーパーコンボ〉をつかんだ。
「武器は預からせてもらうぞ」
「私の鍬から手を離せ間抜けがお前の内臓ぶちまけてハラワタで絞殺するぞクズが」
「ひぃっ!」
と兵士さん、尻餅をつく。
「あっ! 暴言をすいません。ただこの〈スーパーコンボ〉、いえ鍬は、曾祖父から伝わる家宝なものでして。私から奪おうとする方は、たとえ誰だろうとも頭をかち割ります」
「……」
あれ? なんか怯えられている? もしかして、嫌な空気を作ってしまった? ここは場をとり直すのだ。
「あの、カブをプレゼントしましょうか?」
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