オーパーツカレー(甘口)
「なっ! ……なんてこと!」
地層の奥深くから発掘したソレを目にして、私は愕然とした。
発見された場所や時代にそぐわない遺物の異物、オーパーツ。
「水分が無い、ミイラ化? ……そうか、この環境」
かさかさに乾いた固形物、それを包む霜柱。
低温環境下でミイラ化、これは一般常識だ。
薬品を顆粒にする際、低温で乾燥させる製法もある。
それにしても、何故、今日この時まで放置されていたのか。何度も調査されて、一度くらい人目に触れていて当然。まるで「見つけてくれ」と語りかけるように、真っ先に掴んでいた。
我に返って時計を見る。
あまりにも奇妙な出来事に、随分時間が過ぎていた。
「このままではマズイ!」
決意も新たに、扉を閉めた。
この邂逅、無駄にできない。
◆
結婚から10年。
主人は帰宅すると無言でダイニングテーブルに座った。
すぐにテレビでニュースを眺め、特に会話は無かった。
ゴトリ、と手元に大ぶりな深皿を置く。
「はい、今日はカレー」
いつもどおり無言でスプーンを手に取った。
「今日は具沢山だな?」
「え? ……そ、そうね! 野菜は体に良いのよ?」
1つずつ調べ始めた!?
「人参、じゃがいも、ブロッコリー、カリフラワー」
「健康志向、でしょ?」
ブロッコリーとカリフラワーの違いを知っていた。
でも首を傾げて皿へ戻した、キクラゲは知らない。
所詮その程度の知識。
よぉし、そのまま……
「この人参の波型、どうやって切ったんだ?」
「えっ?」
「どうやったら、こんなに綺麗に切れるんだ」
気付かれたか?
否、断じて否。
「百均だったかな? ……どうして?」
「キャラ弁に凝ってる若い子がいてさ」
女子ウケを狙っただけか。
さぁいけっ、そのまま……
「お前は食べないのか?」
「え? 私?! ……洗い物があって」
「じゃ、お先」
食べた! 咀嚼している。
どうだ?
9年前の野菜ミックスを煮込んだ、カレーの味は?
……なんの感想も無し?
味気ない男、無味乾燥。
夕食と文句だけは一人前の配偶者め。
「お味は?」
「カレー味」
「そうよね」
さて、と。
泡を吹いて倒れたりしない。
どうやら毒じゃないらしい。
「でも、新婚当時っぽい味がする」
「……っへ?」
「共働きで時間無くてカレーとか多かっただろ?冷凍野菜をチャッチャと炒めて、丁度こんな感じだった。不景気で給料上がらないのに、そっちは倒産したからな。来年40になる、だから10年か。なんてカレーだ?」
……それ?
「オーパーツカレー」
「初耳だ、新商品?」
「そんなとこ」
「……ところでさ。この、気色悪い物体はなんなんだ?」
「キクラゲ」
「あぁ、これがキクラゲ?!」
「そう」
「クラゲだからグニャグニャ。中国人なんでも食うな?」
「キノコよ」
やっぱり知らなかった。
「おかわり」
「こっちは2人前!?」
「こっち……なにが?」