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僕と彼女の限定魔術  作者: 十神 礼羽
Boy Meets Arts

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18/27

実技∪実務

 

 翌日は祝日なので、午前中から高尾家で家事手伝い(アルバイト)をしていた。

 接客をするだけで、魔力が回復していくので非常に便利だった。裏を返せば、僕が一向に対面でのやりとりに慣れていないという事でもある。

 午前中でだけで、昨日消費した分ぐらいは余裕で回収できそうだと思いながら、書棚の整理をしていた。


 美玖は相変わらず今日も大学へ課題をしに行ったので不在。達也さんも朝から出かけてしまったので、いまは僕と茉莉さんだけしかいない。


 僕は仕事の合間に昨日の動きや、魔力操作のイメージトレーニングをしていた。

 思い返しても昨日の最上先輩はすごかった。あんなにスムーズに魔力を移動するなんてどうやってもまだ僕にはできない。


 魔力をコントロールするには明確なイメージが大切だというのは、昨日の練習の中でよくわかった。

 後は、僕の魔術(アーツ)が判明すれば魔力操作はよりイメージがしやすくなるとのことだった。


 原点(オリジン)か...強さのイメージといわれても、僕にはいまいちピンとくるものが見つかっていなかった。子供の頃に何かにはまった覚えもないし、せいぜい本を読むのが好きだった位だ。かといって亜子先輩のようにおとぎ話の主人公のようになりたいと思ったこともない。


 何か思い当たることが無いかそのあとも考えていたが、結局、特にこれだと思いつくものはなかった。

 そうこうしているうちに、お昼になり美玖が帰ってきた。


 一緒にお昼を食べ、一息ついたところで何とはなしに聞く。


「なぁ...強いってどういう事だと思う?」


 美玖はまたはじまったという顔をした。


「なに?また例の『悪魔』絡みの話?」

「...まぁそうだな。」

「今度は何、武闘会でも始まるわけ?」

「いや、そういう事はないが。なにか子供の頃に憧れてた強さってものを考えてるんだ。」


 美玖の顔に疑問符が浮かぶ。


「...昔の憧れなんて思い出してどうするの?」

「いや、もしかしたら強くなるヒントになるかもしれないんだ。」

「そんなもので?」

「そんなもので、だな。自分でも考えたんだがあんまり思いつかないんだ。」


 ふ~んとあんまり興味のなさそうな顔で美玖は言う。


「強さって具体的になにをさすの?精神的な話?肉体的な話?」

「う~ん...どちらでもないかな...。例えば、『魔法使い』とか...『本に出てくる主人公』とか...バラバラだな。『自分が憧れたもの』という事ではあるらしい。」

「なにそれ、幸兄ぃが子供の頃に何に憧れてたかってこと?それこそ自分しかわからないんじゃない?」

「そうなんだけどな。その頃に何か憧れたものがあったかって言われてもな。そういうファンタジー系の話はあんまり読んでなかったし。」


 あまり正直ピンとくるものはない。


「強さっていうとスポーツ選手とかはどうなの?そういうのだって強さでしょ?」

「...確かに。でもそういうのも僕はないからなぁ。」

「まぁ幸兄ぃはスポーツって柄じゃないもんね。」


 別に引きこもりの類では無い筈なのだが…。

 それでふと思い出した。


「そういえば、悪魔の証明になりそうなこと一つあったぞ。」

「...なに?」

「ちょっとまってな。」


 そういって僕は台所から、リンゴを一つ持ち出してきた。


「...リンゴがどうかしたの?悪魔に差し出すの?」

「......それは死神な。いいから見てなって。」


 そういって僕は起動状態になった。アウラは出さないように意識したので美玖にも僕が認識できているはずだ。


「えい。」


 グシャア っとリンゴがつぶれた。


 どうよと、美玖を見た。


「......幸兄ぃ。」

「ほら。魔法で強化してみたんだ。」


 すると頭をゴンと殴られた。


「馬鹿なことしないで。リンゴがもったいない。」

「...はい。」

「責任をもって、その潰したリンゴは幸兄が食べて。」

「...はい。」

「あと私の分もついでに剥いてきて。」

「...はい。」


 僕はすごすごと台所に戻ってつぶしたリンゴ以外にもう一つの皮をむいた。

 どうぞ。と差し出す。


「わざわざリンゴなんか潰さなくても、他に方法があるんじゃないの?」

「...わかりやすいかな と思いまして。」

「わかりやすさに食べ物を使わないで。」

「...はい。気を付けます。」


 おばあちゃんに怒られるよ と言われた。

 確かに食べ物を粗末にしたら怒られるだろう。反省した。


 ちなみにそのあと庭で垂直飛びを披露したら納得された。最初からこれでよかったんじゃないと言われた。その通りだった。


 __________________________


 土曜日


 僕は横浜駅にいた。


 昨日、亜子先輩からメールで今日の集合時間と場所が送られてきたのだ。

 今日の14:30集合との事だったので、早めに家を出て14時からここにいる。

 14:20を回ったところで、改札から最上先輩が出てくるのが見えた。

 アウラのおかげで、すごく見つけやすかった。


「おはようございます。最上先輩。」

「伊吹くん、おはよう。早いのね。」


 じゃあ行きましょうかと先輩が言い、歩き出す。


「とりあえず今日の流れね。依頼されてるポイントは3か所だから順番に回っていきましょう。アウラ、探知(サーチ)よろしく。」

「「了解しました~」」


 アウラが反応すると頭上を周回し始めた。


「巡回は基本的にアウラで探知(サーチ)しながら動くことになるから。妖魔を見つけた時の感覚はそのうちわかるわ。」

「...わかりました。」


 僕は若干緊張気味に返した。

 最上先輩にはそれが伝わってしまったようだ。


「...そんなに緊張しなくても大丈夫よ?予測通りに見つからないことだって多いし、見つかったところで問題はないわ。今日は一緒についてくることだけ考えていて。」


 私はそれなりに強いから心配しなくても大丈夫。と先輩がクスリと笑った。



 15分歩くと、オフィス街についた。


「さてと、最初のポイントはこの周辺ね。適当に歩いてみましょう。」

「何か見つけるポイントとかあるんですか?」

「う~ん...特に決まった法則というのはないわ。全く人がいないところには現れないとか、そんなに高度のある所には現れない、位はあるけれど。」


 あとは反応があってもどうやってたどり着くのかわからない所とかの場合はあるわ。との事。


「だからまぁ、適当にこのエリアをうろうろしてみて、反応があるならよし。無いなら無いで仕方がないわ。後は人を襲おうとしなかった場合なんかは、見つからないこともあるしね。」


 もらってる予測は予測でしかないからと最上先輩は言った。


「...予測ですか?誰がそんな予測を?」

「『協会』よ。正式には何だったか、、、何かダミーの名称はあるって会長は言っていたけれど、保持者(ホルダー)間で『協会』と言えば一つしかないわ。こういう妖魔の出現予想とか、巡回の手配とか、あとは重篤な霊的被害者の保護とかね。実質的な能力のサポート要員がアウラだとしたら、保持者(ホルダー)の社会的なサポートを取り行っているのが『協会』ね。」


 ちなみに巡回に費用を支払っているのも協会よ と最上先輩がいう。



「『協会』ってすごいんですね。どうしてそんなことが出来るんですか?」

「詳しいことは私も知らないわ。会長がそういうの好きだから、聞いてみるといいんじゃない?」


 そこで、あ とふと思い出したように言った。


「『協会』の母体は『色欲の眷属』というのは聞いた覚えがあるわ。」


 ...ぜひとも会長に詳しいことを聞こう。と僕はそう決意した。



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