知識≠知恵
その後、講義は始まったが涼は相変わらず寝ていた。
今日は早起きしすぎて疲れていたらしい。
お昼を挟んで、3限迄の講義の後僕は学生棟に向かっていた
3階まで階段で上り、行動心理研究会の部屋のドアをノックする。
「あいてるぞ~。」
ドアを開けると、室内には亜子先輩一人だった。
「伊吹か、お疲れ。」
「お疲れ様です、亜子先輩。」
「今日は他の皆さんは?」
「青葉は今日は用事があるはず。姫は4限だか5限だかまで講義だな。あと2人の予定は知らん。来てるのか来てないのか。」
まぁそのうち会う機会もあるだろ との事。
「...全部で何人いるんですか?」
「今は私含めて5人だな。伊吹を入れれば6人。」
亜子先輩がニコニコという。
「せっかく早く来たんだ。伊吹は今日は何かしたいことはあるか?」
「そうですね...今日も起動の練習はするつもりでしたけど。他に何をしたらいいのかわかりませんし。」
「なるほどな、まぁ魔 術が解明できるまではそうなるよなぁ。」
亜子先輩がうんうんと頷く。
「伊吹はなんか自分の魔 術について心当たりはあるか?」
「いえ、今のところこれだと思うものは思いつかないです。」
「...子供の頃の記憶を思い出していくしかないな。何か強さに憧れたものがモチーフになることが多い。残念だがこればっかりは助けてやれない。その先ならやりようはあるんだが、、、。」
すまんな、と亜子先輩が言った。
僕はふと思い出して、聞いてみることにした。
「...亜子先輩、適合者以外の人に『魔 術』とか『悪魔』を認識させることってできますか?」
「出来るぞ?まぁ厳密にはそのものが見えるわけじゃないから、見る側が信じる気が無かったら意味がないけどな。」
「...具体的にはどうやって?」
ん?と亜子先輩が首をかしげる。
「...そうだな。簡単な所だと起動状態で動いて見せれば明らかに動きがおかしいからな。後は『魔 術』で何かをするとか。過程が認識できない分、突然変なことが起こるからそれで信じる人もいる。」
「.........でも起動状態だと認識阻害かかりますよね?」
「...別に認識阻害は切れるぞ?普段はやる意味が全くないからやらないが、起動状態でもアウラを格納してしまえば存在の認識はされる。」
なんと。
「ちなみにここまで説明してなんだが、見せびらかしたりしたいだけならおすすめはしないぞ?。私たち以上に、相手の為にならない。なにせ露見しても証拠が残らん。騒ぎ立てられても、世間的には騒いでいる側の頭がおかしくなったと思われるのがオチだ。」
まぁ伊吹が目立ちたいとかでそんなことをするとも思えないけどな。 と先輩は笑った。
「そういう気になることがあったらどんどん聞けよ?。情報は大事だ。知らないというだけで、対応が変わってくることだってある。経験から学ぶことも多いが、知識があれば避けられることだってあるんだ。」
幸い私は物知りだぞ と亜子先輩がドヤった。
亜子先輩にはそのあと魔力の操作やイメージについての話をしてもらった。
魔力の集中による部分活性法などは面白かったが、魔力の移動のさせ方ををつかみ切れていない僕ではまだ実践できなかった。
「まぁまだ無理だな。魔力があるのが当たり前だと思えるぐらいに魔力を自然に捉えられるようになったら動かし方もわかってくる。」
「...全然動く気がしないです。」
「そういうイメージを持っていると余計に動かしづらいぞ。後で姫に見せてもらうといい。魔女だけあって魔力の操作は上手だしな。」
「...魔女?ですか?」
亜子先輩がふとニヤニヤしだした。
短い付き合いだが、アレはろくでもないことを考え付いた顔だ。
「そうだな、姫が来たらまずその辺の話から始めよう。可愛い後輩の為のレッスンだ。姫も嫌とは言えないな。」
嫌な予感しかしない。
そんなタイミングで、ちょうど最上先輩が部屋に入ってきた。
「姫~。お疲れ。お前を待ってたんだ。」
ニコニコと手を振る亜子先輩に対して、
最上先輩が警戒心をあらわにした。
「......会長。何ですかそんな楽しそうな顔で。」
「いや~。伊吹に魔力のイメージづくりのレクチャーをしてたんだけどな~私はもう魔 術が使えないからな~困ったな~どうしようかな~。誰か魔力を使うのが得意な人材はいないかな~。」
すごく白々しい感じでじりじりと最上先輩に近づいていく。
「そういえばいたなぁ~。魔力特化の魔 術保持者で操作が得意な魔女がうちの会には所属していたなぁ~。」
「......はぁ。そんなことですか。いいですよ。」
最上先輩はため息をついて首肯した。
「そうかそうかありがとう、姫!。伊吹もいろいろと疑問もあることだろう。わからないことも多いはずだ。しっかりと答えてやってくれ。」
若干、最上先輩が訝しんだ顔をしていたが、こちらに歩いてくる。
「......それで伊吹くんは、何が聞きたいの?魔力操作の感覚とか?」
「...まずあの、『魔女』って何ですか?。」
最上先輩が固まった。
後ろで亜子先輩が、無言で笑いをこらえているのが見える。
「......あの?先輩?」
亜子先輩が肩を震わせて後ろを向いた。
能面の最上先輩が振り向く。
「......会長?」
「私は何も言っていないぞ。それに他人の魔 術の詳細を本人以外にするのはマナー違反だろう?」
明らかに笑いをこらえた声だった。
「......あの、これは聞いちゃまずかったですか?」
「......まずくはないわ。伊吹くんに悪気が無いのはわかるしね。」
心の準備をしてからにしたかった。と呟いた。
「『魔女』っていうのは私の魔 術につけられた二つ名よ。正式には『虹の魔女』。去年魔 術が判明したときに会長が付けたの。」
説明するのがすごく嫌そうだった。
「これ以上に適正なネーミングを思いついたらそっちにするって言われて、期限までに出なかったのよ。だから恥ずかしいけど登録名はそうなっているの。
あと一般的に、自分で自分の能力を誰かに説明するっていうのはちょっと気まずいの。子供の頃の憧れたイメージはこれですってアピールしているみたいなものだから。」
なるほど。
「あとはそうね。限定条件とかはあまり公にするものではないわ。会長みたいな魔 術だってあるし、知られると大変なこともあるから。」
だからあまり知らない相手にそのあたりを聞くのはマナー違反になることもあるから気を付けて。と最上先輩が言った。
「...すみません。知らなかったとはいえ聞いてしまって。」
「いいえ。その辺りをしっかり説明する立場の人が、それを放り投げたのがいけないから。」
と言いながら、亜子先輩を睨んでいる。
亜子先輩は、なぜかまだニヤニヤしている。
「...姫は説明が上手いな~。」
「......何のことですか?」
「いや。うまく説明すると思って感心しただけさ。嘘はついてないもんな。」
...僕には亜子先輩がなにを言いたいのかがいまいちピンと来なかった。
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