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僕と彼女の限定魔術  作者: 十神 礼羽
Boy Meets Arts

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14/27

変化∪変節

 その後は、起動して歩く練習をしたり、飛び跳ねてみたりと体を動かす練習をした。

イメージしてスムーズに起動と停止を切り替えられるように練習もした。


 合間に「魔力回復」をちょくちょく挟みつつ1時間ぐらいは練習していた。


 最後に起動状態で、青葉先輩にタッチをするという訓練をやってみたが、これは全く追いつけず直前で躱され続けてしまった。

 付け焼き刃の身体強化では歯が立たないということらしい。ちょっと悔しかったので密かにリベンジを誓った。


「さてと、今日はこんなところにしておこうか。」


 と亜子先輩が言う。


「今週はとりあえず、トレーニングをしながら魔 術(アーツ)の性質や限定条件が何かを探していく感じだな。それでいいか?」


「はい。大丈夫です。」


 そうだ と思い出したように手を打つ。


「今週末の予定は空いているか?何もなければ巡回予定があるから、参加してみないか?」

「...ちょっと確認しておきます。多分大丈夫だと思います。」

「まぁ強制じゃないからな、予定が合えばで大丈夫だ。じゃあ今日は解散にしよう。」


 というとくるりと背を向けて、学生棟に向けて歩き出した。

僕は青葉先輩と、正門に向けて歩き出した。


「どうでした?訓練の感想は」

「難しいです。全く追いつけませんでしたし。正直ちょっとぐらいは何とかなるかと思ってました」


 青葉先輩が笑った。


「強化度に差がありますから、まだ無理ですよ。伊吹君は概ね2倍ぐらいになっていますけど、僕は3~4倍ぐらいまでありますから。後は意識的に強化すればもう少し調整できます。これは訓練を重ねたり、魔力量が増えたりしないとどうにもなりません。」


「意識的な強化ってどうやるんですか?」


「まぁそのうちやりますけど、魔力操作の応用ですね。イメージを作り上げることになるので、魔力が増えたらやりましょう。」


 そのためにも「対面」を意識しましょうね。さっきの魔力回復の際に亜子先輩に遊ばれていたのをとからかわれた。


「今日眷属になったばっかりなんですから、そんなに焦らなくても大丈夫です。時間がかかるので今日明日にはどうしようもないですよ。」


 地道な訓練あるのみということらしい。


 正門までついた所で、先輩と別れ僕は実家の書店(アルバイト)に行くことにした。




「ただいま、茉莉さん。」

「おかえりなさい。幸人。」


 とりあえず手早く着替えて、茉莉さんに声をかけた。


「茉莉さん、ちょっと相談があるんだけど。」

「なに?どうかした?」

「あの、今日『表』やってみたいんだけど...いいかな?」


 茉莉さんが固まった。


「茉莉さん?」

「ごめんなさい。聞き間違えたかと思って...どうしたの急に?」

「いや、ちょっとやってみようかと思って。駄目かな?」


 茉莉さんが大分訝しんでいる。まぁ今までやっていなかったことを急に言い出したのだから困惑もするだろう。


「それは......駄目って事はないけど。幸人、大丈夫なの?」

「とりあえずは。やってみて駄目だったら辞めるよ。」


 すっと手を伸ばされて、熱が無いかどうか確かめられた。


「...茉莉さん??」

「.........熱はないみたいね。まぁとりあえずやってみなさい。」


 勝手はわかる?と聞かれたので、大丈夫と答え一つ深呼吸をして、店内に入った。



 最初は心配そうにじっと見ていた茉莉さんだったが、僕が何件か接客やレジなどをこなしているのを見るとそのうち裏に引っ込んでいった。

 僕も初めは緊張はしたものの、『愉悦』の権能のおかげで何とかなることが分かったので、今は普通に対応ができている。

 やはり長年見ていたので、やることが分かっているというのが大きい。


 ふと裏から人影が見えたと思ったら美玖が出てきた。

そのままレジに入ろうとしたところで、ようやく僕が立っていることに気づいた美玖はピタッと固まった。


「......おかえり。美玖。」

「...何してるの?」

「見ての通りだけど...。」


 すると美玖はくるっと振り返り裏へ走りこんでいった。

ドタドタと足音がしていたと思ったら、茉莉さんを引っ張って連れてきた。


「......お母さん。あれ、何?幸兄ぃに見えるけど別人?」


 茉莉さんは大分ニコニコしながら答える。


「ん-?本人よ。私も最初ビックリしちゃったけど、やりたいっていうからやってもらってるの。」


 すると美玖がつかつかと近づいてきておでこに手を当てて熱が無いか確認し始めた。さすが母娘なだけある。対応が全く同じだった。


「ちょっと出来るか心配だったんだけど、問題なかったわ~。」


 やっぱり一人暮らしを始めて成長したのね。男の子は独立させた方がしっかりするって達也さんも言ってたのが正解だったわね~と茉莉さんは、ほわんほわんしながら裏に戻っていった。


美玖はじっとこっちを見て何か考えている。


「...美玖?」


 プイっとそっぽを向くと美玖も裏に戻っていった。


 その後も特に変わったこともなく、そのまま20時に閉店した。

 片づけを終えて裏に戻ると、ちょうど伯父の達也さんが仕事から戻ってくるところだった。


「おかえり。」

「ただいま。幸人。ご飯は?」

「まだ、これからだよ。」


 そうか というと荷物を置きに行った。


 僕は洗面所で手を洗いリビングに入った。

 茉莉さんが鼻歌まじりにご飯を並べている。


「お疲れ様、幸人。」


 茉莉さんが笑う。


「手伝うよ。」

「いいのよ。座ってなさい。」


 達也さんが、部屋に入ってきた。


「ただいま、茉莉。」

「おかえりなさい。あなた。」


「今日はご機嫌だな。」

「ん~。今日はちょっといいことがあったから。」


 茉莉さんが僕を見ながらニコニコした。


「そうか。それはよかったな。」

「そう。よかったの。」


 ちょうどその時、美玖が2階から降りてきた。


「...おかえりなさい。お父さん。」

「ただいま。美玖」


 じゃあご飯にしましょう、と茉莉さんが言った。


 食事が終わると、美玖はすぐまた2階に戻っていった。


  僕は食事の後片付けをしていた。

 それも終わったので、帰ろうかと思ったがふと思い出して話しておくことにした。


「茉莉さん。ちょっといい?」

「...なに?」

「...実はちょっと知り合いに誘われてアルバイトをしようかと思ってて。」

「...今日はサプライズの連続ね。」


 というと茉莉さんは笑った。


「幸人はやってみたいんでしょう?私はいいと思うわ、ね?あなた。」


 達也さんはお茶を飲んでいたが、こちらを見た。


「いいんじゃないか。学業に影響が出ないようにな。」

「...大丈夫だよ。ありがとう。」


 お礼を言ってリビングを出て、玄関で靴を履いていると、

 階段から駆け下りてくる足音が聞こえた。


 目を向けると美玖が肩に小さなボストンバッグを下げて降りてきた。

 こんな時間にどこに行くつもりか聞こうとしたら、美玖が先にリビングに声をかけた。


「お母さん。私今日、幸兄ぃの所に泊まるからー。」


 ...は?


「......は~い。いってらっしゃ~い。」


 リビングからは茉莉さんの暢気な返事が聞こえた。


「...ちょっと美玖。いったいどういう...。」

「ほら。ごちゃごちゃ言わない。さっさと行くよ。」


 そういうと美玖は僕を無理やり玄関から押し出した。

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