プロローグ
「...はっ?」
目の前で人が食べられた。
僕の少し前を歩いていたはずのOLさんの上半身が目の前の化け物に飲み込まれている。
まさしく咀嚼されていますという感じで、絶賛食事中である。
人間あまりに衝撃的な事に出会うと、思考が止まるらしい。
目の前の現実があまりに突拍子もないので、いまいち現実感がわかないのだ。
だってそうだろう。アルバイト帰りにコンビニに寄って、家への近道であるこの路地を通るなんて5分前はただの日常だったんだ。
いつも通りの帰り道をだらだらとスマホを見ながら歩いていて、ふと前を歩いている人の足が止まったから顔をあげただけだったのに。
全く現実感のないまま目の前の「捕食」が続いていく。
直径1.5メートルぐらいの球体に、大きな口だけがついているだけの化け物の造形は、
いささかシュールですらあるが、そこに人が飲み込まれているとなるとただただ猟奇的だ。
5分にも10分にも感じるが、実際の時間ははまだ1分もたっていないのだろう。
恐怖感で体感時間が間延びしていく。
モグモグと動いていた口から、ボトリと女性の体が吐き出された。
そのまま化け物はフヨフヨと浮いたまま反芻するかの様に口を動かし続けていたが、
ゴクリ と何かを飲み込んだ。
そしてグルンっとこちらを見た。
「......ひっ!」
尻餅をついた。逃げなければ。
目なんてついていないのに確実にこちらを向いているのがわかる。次に喰うのはお前だと、
目の前の化け物からありありと伝わってくる。
逃げなければと思うが、腰が抜けてしまって全く立ち上がれない。
背中を汗がだらだらと伝う不快な感覚と、ドクドクと激しい心臓の鼓動がうるさいだけで、
僕の体は一つもいう事を聞かず、一ミリたりとも後ずさりすることもできない。
無慈悲に近づいてくる化け物の姿から目をそらすこともできず、死の感覚が迫ってくるのをただ茫然と眺めていた。
――――――――そして僕は「彼女」と出会った。
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