地区の親睦旅行の日
それからというもの、僕はまたあのような情景が見られるのではないかと思い、リョウちゃんと遊ぶ気もないのに、毎日リョウちゃんの家に続く小道のあたりで一人で遊ぶようになった。
いつも同じところで一人でいる僕を見て不思議だったのか、近所のおばさんが「どしたん?・・・リョウちゃんおらんの?」と声をかけてきたりした。
「うん、今はリョウちゃんおらんて・・・」僕はそう答えると、変に疑われないよう、その場を走り去った。
僕が待っていたのはリョウちゃんではなく、まさしく白石のおっちゃんだったのだ。
白石のおっちゃんの店の前にも行って、おっちゃんには見つからないよう、そっと外から中をうかがって、おっちゃんがいるかどうかを確かめたりもした。
どうも、白石のおっちゃんがリョウちゃんの家に行くのは、当然と言えば当然なのだが、リョウちゃんもリョウちゃんのお父さんも家におらず、しかも、自分の奥さんもいない時なのだという事が分かった。
そんなことが何日か続いたのち、毎年夏休み中の恒例行事となっている地区の親睦旅行がある日となった。
僕の住んでいた地区では、毎年、夏休みになると、地区の人たちの希望者が寄り合って、バスを貸し切り、土日を利用して一泊二日の近場の温泉旅行に行くのが恒例となっていた。
僕も、去年までは母や父に連れられて参加をしていた。でも、今年は、行ってもつまらないので、その日は五つ年上の姉と二人で留守番することにしていた。
母たちも本当は行きたがってはいなかったが、それでも当時は近所づきあいを大切にする時代だったので、父と母二人でイヤイヤ参加をしていた。
その旅行にリョウちゃんもお父さんと二人で参加するというのをリョウちゃんから聞いていた。
お母さんは、何か用事があって行けないということも・・・
僕は、白石のおっちゃんが旅行に参加をしなければ、おそらくリョウちゃんの家に行くに違いないと思い、母が持って帰っていた旅行の参加者名簿を確認した。
その名簿には、白石のおっちゃんの名前はなく、白石姓は二人の女性の名前が載っているだけだった。
それを見て、僕は、その旅行の日、必ず前と同じように、白石のおっちゃんはリョウちゃんの家に行くと思った、そうして前と同じように、またリョウちゃんのお母さんを裸にし、オスとメスの交尾を始めるだろうと思った。
それからというもの、その日が待ち遠しくてたまらなくなった。毎晩その光景を想像しながら、覚えたてのオナニーを繰り返して、何度も何度も言葉では言い表せない快感に浸った。
とうとう、旅行当日となった。
母は、僕を姉に任せて自分たちだけ旅行に行くということに罪悪感を感じているようで、こまごまと、高校生の姉に、僕の食べ物のことや戸締りのことを指示していた。
母があまりにも僕のことを心配して、こまごまと指示するものだから、最後には姉も半分キレ気味に「分かっとるけん」とつっけんどうに答えていた。
僕は、リョウちゃんとお父さんが本当に旅行に行くのか、白石のおっちゃんが本当に旅行に行かないのかを最終確認するために、父と母についてバスが停まっているところまで行った。
「どしたん?見送ってくれるん?」「ケンジも一緒に行かんか?」僕が父と母について行ったので、本当は旅行に行きたかったのではないかと思ったのだと思う。父と母がしきりにそんなことを訊ねてきた。
しかし、そんな気でついて行ったのではないから、僕は父と母のそうした誘いに頭を横に振って「行かん」と答えた。
バスに乗るところには、すでに近所の人たちが集まってきていた。
僕はその中にリョウちゃん家族と白石のおっちゃんの姿を探した。
リョウちゃんは水色の麦わら帽子をかぶり、背中にリックを背負って、お父さんに手を引かれ、ちょうどバスに乗り込むところだった。その後ろに普段着のお母さんが立っていて、小さく手を振っていた。
白石のおっちゃんも白いランニングとステテコ姿で来ており、明らかに旅行に行く恰好ではなかった。
おっちゃんは近くにいたどこかのおじさんと楽しそうに話をしていた。
「白石さんは行かんのかい?」「おう、ワシはどうしてもやらんといかん仕事があるけん、残念やけど行けんのじゃ。ウチはおばあ二人が行くけん、よろしゅうな」
白石のおっちゃんところには、おばあさんがおり、白石のおばちゃんはそのおばあさんの付き添いで旅行に行くようであった。
僕は、その漏れ聞こえた会話の内容から、今晩自分が想像したとおりのことが行われるであろうことを確信した。
白石のおばちゃんがバスに乗るときおっちゃんに向かって「あんた行ってくるけん。浮気せんと、おとなしいに待とりよ」と大きな声で、笑いながら言った。
それを聞いた周りの人はみんな大声で笑った。「わかっとるわ。クソ婆、早よ乗って行けや」そのおっちゃんの答えを聞いて周りの人はまた大笑いをした。
僕は、特におかしくもなく、皆が笑う意味が分からなかった。それで、リョウちゃんのお母さんの方を見ると、リョウちゃんのお母さんも、やはり下を向いたまま笑ってはいなかった。
バスが出発すると、見送りに集まってきていた人たちもそれぞれに帰り始めた。
白石のおっちゃんは「あのクソ婆、要らんことばっかりぬかしやがって」とブツブツ言いながら、案の定リョウちゃんのお母さんのところに行き、何か耳元で話しかけていた。
そして今度はうれしそうな顔をして自分の家の方に帰って行った。
その様子を見届け、僕も帰ろうとしたとき、リョウちゃんのお母さんが僕に気づき、声をかけてきた。
「あら、ケンちゃんは行かんかったん?」僕は、この前の光景を盗み見たことへの罪悪感と裸を見た女性への恥ずかしさから、目を伏せたまま「うん」と答えて家に走って帰った。




