僕の欲しいもの
「そんなん、いらん」僕は、頭を横に振った振った。
「じゃあ、何が欲しいん?・・・おばさん、ケンちゃんの欲しいもん何でも買うてあげるよ」
今考えると、体のいい買収である。僕は、そんなおばさんの僕への提案を退け、その時本当におばさんにして欲しいことを正直に答えた。
「もう一回おばさんの裸が見たい」おばさんは、一瞬、驚いた顔になった。
僕は立て続けに「おばさんの裸を見て、白石のおっちゃんがしとったように、おばさんのお尻に僕のおちんちんを入れたい」と言った。
今から思うと、よくあの状況でこれだけのことが言えたと思うが、その時は本当にそれが僕の正直な願いであった。小学生だったからこそ恥ずかしげもなく言えたことかもしれない。
おばさんは絶句した。
返す言葉に迷っているのか、長い長い重苦しい空気が辺りを包んだ。
僕は、今度こそ本当におばさんに叱られるかもしれないと思った。
でも、おばさんは僕に自分の弱みを握られているという負い目からなのか?それとも、本当に優しいのか、静かにこう言った。
「ええ、ケンちゃん、白石のおじさんがおばさんにしとったことは、大人にならんとしたらいけんのよ」
「なんで?」僕はおばさんが怒らなかったことをいいことに、間髪入れずに質問した。
「なんでって・・・・・・あれは、赤ちゃんができるかもしれん大事なことなんよ」
「ケンちゃん、今、自分の赤ちゃんができたら育てていけんやろ?」
「じゃあ、白石のおっちゃんの赤ちゃんができるん?」
「それは・・・・・・」おばさんは言葉に詰まった。
「それは違うけど、白石のおじさんは、もう立派な大人やから、もし赤ちゃんができても育てていけるやろ?」おばさんは動揺したのか、よく分からない言い訳を口にした。
「赤ちゃんができるんなら、おっちゃんとおばさんがしとったんはコウビなん?」僕は、自分の中で今一つ確信が持てていないことを訊ねた。
「セックス」という言葉も、もう知ってはいたが、あまりにも恥ずかしく「コウビ」という言葉でごまかした。
「へえ~、ケンちゃんは、コウビなんていう難しい言葉知っとるん?学校の理科で習ったん?」ここぞとばかりに、おばさんが話の本筋をそらそうとしてきた。
僕は、その言葉を聞いてもっと知ってるということをアピールしたくて、さっきは恥ずかしくて言えなかった「コウビのこと、セックスっていうんだってことも知っとる」と言った。
おばさんは、再び顔を真っ赤にして黙った。
そこまで行くと僕の頭の中は相当に暴走しており「僕はおばさんの裸を見ておばさんとセックスしたいんや。そしたら、白石のおっちゃんとセックスしとったこと誰にも言わんから」と一気にまくし立てた。
その言葉を聞いて、おばさんは再び口を開いた。「ほんとう?ほんとうにずーっと黙っとけるん?」
おばさんの真剣な問いかけに、我に返った僕は一瞬「本当に黙っていれるだろうか?」と自信が無くなったが、とりあえずコクリと体育座りの体勢で、下を向いたままうなずいた。
それを見たおばさんは、「ええわ、本当にケンちゃんが昨日のこと誰にも言わず黙っとってくれるんなら・・・・・・」僕は、予想していなかったその返答に思わずおばさんの顔を見た。
「ねえ、ケンちゃん、おばさんと一緒にお風呂入ろ。おばさんも汗かいたし」と言ってきた。
「なんぼなんでも、ここでおばさんが一人だけ服脱いで裸になるのは恥ずかしいわ。一緒にお風呂入ったら、おばさんの裸も見れるやろ?」とおばさんは少しぎこちない笑みを浮かべながら言った。
僕は、どうせ無理だと思っていた願いが叶って、うれしい反面、急に不安にもなった。
「そしたら、おばさんお風呂沸かしてくるわ」
「もうそろそろ、お昼やから、お昼食べたら、またウチにおいで。それまでには、お風呂沸いとると思うけん」
そう言って、おばさんは庭に降りって行った。
今から思えば、この“ドスケベのクソガキが”とでも思っていたかもしれない。
僕は、ついさっき朝ご飯を食べたところだったので、正直、おなかはすいていなかったが、昼に帰らないと、また姉が不機嫌になると思い、おばさんに言われるまま、「それじゃ、お昼食べてきます」と言って、一旦リョウちゃんの家を出た。
家に帰ると、案の定、姉は朝の食器を洗わず遊びに出たことを怒っていた。
それでも、夕べ、(姉は優子ちゃんちと言っているが)誰かの家に泊りに行ったことへの後ろめたさからか、ぎこちのない作り笑いを浮かべて、「あんた、さっき朝ごはん食べたところやから、お昼はいらんやろ?」と聞いてきた。
「もし、おなかがすいたら、そこに、おにぎり握っとるけん、それでも食べて」と言うと、「姉ちゃん、ちょっと、友達のとこ行ってくるけん。留守番しとって」と言った。
僕は、この後、すぐにまたリョウちゃんちに行かなければならなかったので、おとなしく留守番はできなかった。
「僕だって、また、遊びに行くけん」と言うと、「どこ行くん?」と聞いてきた。
「どこでもええやん」僕が、少し不機嫌に答えると、姉は、もしかすると夕べのことを母にしゃべられてもいけないと思ったのか、僕の予想に反し、穏やかに「それなら、ちゃんと鍵かけて行ってな」と言ってきた。こういう時、鍵は玄関にかけてある牛乳の配達箱の中に入れるのが我が家のルールであった。
僕は、その予想外の姉の態度に、素直に「うん」と答えた。
この後、リョウちゃんの家に行くのを邪魔されさえしなければ、何でもよかった。