お風呂場の外の動揺
僕は、あまりの衝撃に動揺した。
その動揺で足がぐらつき、乗っていた箱のマキがグラッと動き、「ガタン」という音が出た。
僕は「しまった」と思い、慌てて、箱から飛び降りそこに身を伏せた。
興奮が尋常ではなく、冷静に動ける状態ではなかった。
その音に気付いたおっちゃんは、おばさんに「なんや?誰かおるんか?」と聞いた。
誰かが窓のところに来た雰囲気を感じ、僕が、恐る恐る窓の方を見上げると、こちらを見ているおばさんの「ギョッ」とした目があった。
僕は、思わず顔を伏せた。「見つかった」と思い、全身に震えが走った。
「どうしたんや、誰かおったんか?」おっちゃんの図太い声が響いた。
おばさんが、僕がいたことをおっちゃんに告げて、おっちゃんにコテンパンに殴られるという恐怖で寒くもないのに歯がガチガチと鳴った。
その僕の予想を裏切り「誰もおりません。きっと、山根さんとこのタンゴやわ。ようウチの庭に入ってきよるけん」とおばさんが答えたのが聞こえた。
「ああ、あの黒猫か。ウチの店にもよう入ってきて、困っとるんじゃ。一回言うちゃらないけん」「まあ誰もおらんかったんならええわ。早うこっちゃ来い。後ろからあんたのお尻見よったらまたやりとうなってきたわ」とおっちゃんが言った。
僕はそのやり取りを聞いて、「もしかすると見つからなかったかもしれない」と少しだけ安心した。
そして、こうしてはおれんと、おばさんが窓からいなくなるのを見計らい、そうとその場を離れ、土塀の隙間から外に出て家に逃げ帰った。
這う這うの体で家に逃げ帰った僕は、ズボンのポケットに入れていた玄関のカギを取り出し、玄関の木製ドアを開けようとした。でも、がくがくと手が震え、なかなか開けることができなかった。
僕は、震える左手でさらに震える右手を抑え、やっと玄関のカギを開けることができた。
家の中に入ると、一目散に自分の部屋へ行き、すでに敷いてあった布団の中に潜り込んで、全身をがくがくと震わせながらカブトムシの幼虫のように身を丸めて泣いた。
すでに、夜の魔物に対する恐怖心などはどこかに消え去っていた。