たとえふりだしに戻っても
小畠愛子様主催『カドゲ・ボドゲカフェ企画』投稿作品です。
職場で実際に作ったゲームを元にして話を組み立てました。
と言っても小学生向けのシンプルなすごろくですので、身構えずに楽しんでもらえたら嬉しいです。
「……と、藤和さん、い、今、暇?」
「……見ての通りよ」
「じゃ、じゃあお邪魔します」
思いっ切り不機嫌な対応をしたのに、三枝君はそのまま入って来る。
クラスメイトという以外に接点のない彼が、どうして……?
「……何の用」
「あの、テストプレイに付き合ってもらいたくて……」
「テスト、プレイ……?」
「う、うん。これ、なんだけど……」
そう言うと、三枝君は何やら名刺大のカードを私の前に並べ始めた。
「あー、三枝君、ボードゲーム同好会だっけ」
「そ、そう。そこで僕が考えたゲームのテストプレイを一緒にしてもらえたらって、思って……」
「ふーん……」
並べられたカードには、『ポイントゲットすごろく!!』と赤い派手なフォントで印刷されている。
文字の後ろには黄色の針吹き出しのおまけ付きだ。
……おっとり、というよりおどおどに近い三枝君に合わない感じだなぁ……。
「何これ、すごろく?」
「う、うん。カードでコースを作って、サイコロを振って進むんだ。カードだから場所とか遊べる時間に応じて枚数で調整できるんだ」
「へぇ。あ、これがスタートで、そっちがゴールね」
「う、うん。これがコマ」
三枝君はスタートと書かれたカードの上に、プラスチックのコマを置く。
「これ、チェスのコマ?」
「う、うん。さすがにそこまでは作れなくて、間に合わせ、なんだ……」
ホントに手作りって感じね。
「で、このポイントゲットってのは何なの?」
「そ、それは、やればすぐわかるから。は、はい、サイコロ……」
手渡されたサイコロ。
バカバカしい気もしたけど、暇なのは事実だ。
机から落ちないように、軽く振る。
「あ、2だね」
「1、2っと」
「じゃ、じゃあそのカードをめくって」
「これ?」
自分のコマの着いた場所のカードをめくると、『3ポイント!』の文字。
「……何これ」
「そ、それ藤和さんのポイント……。じ、自分の前に置いておいて」
「え、マス減っちゃうけどいいの?」
「う、うん。そういうゲームなんだ」
次は三枝君がサイコロを振る。
「あ、6かぁ」
残念そうに言うと、私のコマのいるところを飛び越して進んでいく。
「ちょっと、7進んでない?」
「あ、このゲーム、カードを取り除いたら、そこのマスは飛ばせるんだ」
「何それ。じゃあ後の方が有利じゃない」
「えっと、そうじゃなくて、と、とりあえずめくるね?」
カードをめくるとそこには『6ポイント!』と書かれている。
「こ、これは僕のポイントになるんだ……」
「……そう」
何だかよくわからない。
別に今始めたばかりのゲームで、勝とうが負けようがどうでもいいけど、よくわからない遊びというのはストレスがたまる。
「つ、次、藤和さん、振って……」
「……1」
1進んでカードをめくる。
「1ポイント……」
「あ、うん、も、持ってて……」
何なんだこれ……。
「あ、また6……」
すいすい進む三枝君。
私はスタート近くでもがいている。
「は、はい、振って……」
「……」
今度も2。三回振っても三枝君の最初の一回に届かない。
めくったカードは4ポイント。
だんだんミジメな気分になってくる。
「これ、楽しいの……?」
「しょ、勝負は最後までわからないから……」
私のいらだちを感じたのだろう。
三枝君は慌ててサイコロを振った。
4の目が出て、私との差は更に開く。
「私は……3ね」
今度めくったカードは7ポイント。
「す、すごい、高得点……」
「……そう」
そう言われてもピンとこない。
さっき三枝君がめくったカードは8と4だから。
もうこれだけ差がついたら、追いつけるわけがない……。
「あ、僕、ゴール……」
また6を出した三枝君のコマが、ゴールに到着する。
「そ。じゃあおしまいね。三枝君の勝ち」
「あ、あの、違うんだ。こ、このゲームは、貯めたポイントが高い方が勝ちなんだ」
「……あぁ、これ?」
私が自分の前を指さすと、三枝君はうんうんと頷く。
「い、今僕が18ポイントで、藤和さんは15ポイントだから、4ポイント以上取れば藤和さんの勝ち……」
「あぁ、そういう事……」
サイコロを振って5の目。進んだ所のポイントは……。
「きゅ、9ポイント! すごい! 藤和さんの勝ちだね!」
「……ありがと」
そう言われても、勝ったという実感はない。
「で、このゲーム、どうかな!? 普通のすごろくは早く上がれば勝ちだけど、遅い方がたくさんカードを拾えて勝てる可能性が高いってコンセプトで作ったんだけど!」
「正直に言っていい?」
「う……、うん……」
私の前置きに、急に元気がなくなる三枝君。
「正直コンセプトしか面白い所がない。単なる運ゲーだから達成感もないし」
「……うん」
「カードのポイントに人生ゲームみたいなイベント性があればまだマシだと思う」
「あ、そうか……」
「あとポイントが大き過ぎて、遅い方が有利って要素が感じられない。今回三枝君は三枚で18ポイントでしょ? 1とか2とかを多くして、5以上のポイントは減らしたら?」
「そ、そうする……」
「あと……」
「う、うん……」
一息吐いて、三枝君を見つめる。
「これ、私を励ますために作ったの?」
「……」
私と三枝君の視線が、ギブスをはめた私の右足で重なる。
「骨折で全国に行けなくなった私に、遠回りに見えてもきっといい事あるよって?」
「……ご、ごめん……」
「あぁ、怒ってるんじゃないの。こんな手の込んだ、遠回しの応援って初めてだったから……」
私が骨折してから三日。
この短い時間で一から作ったって事は、きっと大急ぎで作ってくれたんだろう。
病院のベッドに備え付けの、小さな机でも遊べるように工夫して。
どうしよう、じわじわ嬉しく、そして恥ずかしくなってきた……!
「私、明日退院するの」
「う、うん」
「でもしばらくはギブスだから、暇なの」
「う、うん」
「……だからさ、もし良ければ、だけど」
「う、うん」
「このゲーム、改良したら、また遊ばせてくれない、かな」
「う、うん!」
嬉しそうに笑う三枝君。
私は少しだけ、ほんの少しだけ、骨折した事に感謝した。
読了ありがとうございます。
はい、実際に作りました。
子どもの反応はお察しです。
理由は作中で指摘した通りです。
勿論子どもはそんな事は言いません。
ただ次遊んでくれないだけです。
シビア。
そんな反省を生かして作った次の作品『カードdeすごろく ねこ勇者の冒険』、実際のイラストと共に次回お届けしますので、よろしくお願いいたします。
画力には期待せずお待ちください(懇願)。