十蔵の指導 現実編4
「一旦休憩にしようかのぉ」
「押忍!!」
パンッパンッ
「何か御用でしょうか?」
また執事が現れた。
「飲み物を二人分持ってきてくれんか。」
「畏まりました。」
お辞儀をすると居なくなり、しばらくするとスポーツドリンクを持って戻ってきた。
「うむ。やはり運動の後はこれじゃのぉ。」
そういうとゴクゴク飲み始めた。疾風も一緒にゴクゴク飲む。
「しかし、お主も体力があるのぉ。全然バテんではないか。十色より体力があるんではないかのぉ。」
「そんな事ないですよ。十色さんなんて一日中戦っていられそうです。」
「ふぉっ。ふぉっ。ふぉっ。それもそうじゃのぉ。スイッチの入ったあやつはしつこいのなんの。何度倒しても起き上がってきてゾンビみたいじゃ。」
すると後ろから
「じいさん、ゾンビは酷いんじゃないかい?それが孫に言うことかね。」
「ふぉっ。ふぉっ。ふぉっ。優しい言葉が欲しいならそれらしい態度をせんか。」
「ハッハッハッ!それは無理なこったさ!」
笑いながら十色が言う。
「じいさんに扱かれてどれだけ成長したのか、私が見てやろうじゃないのさ。」
「お願いします!」
気合を入れると立ち上がって二人で向かい合う。
「号令だけかけてやるかのぉ。」
二人が見つめ合い、構え合う。
静寂の中、集中力を高める疾風。
気配が良く感じ取れる。動きが全てわかりそうだ。
「始め!!」
「シッ!!」
最初に攻撃を繰り出したのは疾風であった。射程ギリギリの所から上段突きを放つ。
すんでのところで、首を振り避けられる。
「エイヤァ!」
十色が空いている胴体へ蹴り込む。
サッと後ろに下がり疾風が躱す。躱されるのをお構い無しに攻めてくる十色。
「ハァッ!」
強い踏み込みの後に鋭い中段突きが放たれる。回避が遅れる疾風。なんとか腕を差し込む。
バキッ!
「フッ!!」
疾風が隙を見て回し蹴りを放つ。綺麗に決まるかに見えたその時。
十色が更に懐に踏み込んで来た。
クルリと蹴られた勢いで回転すると。
ガツンッ!!
疾風は、訳の分からないうちに死角から攻撃を受けた。吹き飛びながら倒れ込む。
ズシャァ!
「それまで!!」
「っつぅっ」
顔にモロにくらった疾風は膝をついて痛がっていた。
「すまん。大丈夫か?暑くなってしまってつい本気になってしまった」
十色が頭を掻きながら近づいてきて謝る。
「本気を出させたことは嬉しいです。しかし、最後は何をされたか分かりませんでした……。」
「ふぉっ。ふぉっ。ふぉっ。そうじゃろうて。高校生相手に十色が大人気なく裏拳なんか使うからじゃ」
「裏拳ですか…………。」
落ち込む疾風に励ます十蔵。
「高校生の競技では使わんのではないか? 意表を疲れたのじゃ。攻撃を受けてもしょうがないじゃろう」
「だれか、冷やすものを持ってきてくれんか。」
「ただ今!」
ドタドタッ
屋敷の使用人が慌てて冷やすものを取りに行く。
「ちと、座って待っておれ」
「はい」
すぐに使用人が戻ってきた。
「冷やしながら少し話をしようかのぉ」
三人で座りながらゆったりと、話をする。
「今日は楽しかったわい。ワシの娯楽に付き合ってくれて感謝するぞい。」
「いえ、俺も色々ためになりました。」
「ふぉっ。ふぉっ。ふぉっ。そいつは良かったのぉ。これで疾風君は一皮剥けたと思うのじゃ。さっきの十色との手合わせを見てもわかるのぉ。」
「いえ、まだまだです。」
疾風は謙遜しながら言うと
「謙遜するのはいいがのぉ。自分の実力は客観的に図らなければならんぞ。お主は十色に一瞬でも本気を出させた。それはすごい事じゃ。十色は今世界で戦っているのじゃからの。」
「えっ!? そうなんですか!?」
「まぁな。まだ頂きには行けていないがな。」
驚く疾風に胸を張ってドヤ顔する十色。
「今日の所はこんな所で終わりにするかのぉ」
「はい!有難う御座いました。」
深く礼をする疾風。この日でどれだけ自分が成長できたのか分からないくらい色々あった。
またリムジンで送られ帰っていく。
帰って殴られたあとを見た母が騒いだのはナイショの話。




