第二話
俺は今まで自分がしてきたことを反省してる。ルチルとは、昨日パーティーを解散した。圧倒的に俺だけが悪いことをした。冒険者は日銭を稼ぐために危険なことを繰り返すことが多く、信頼関係が無いとやって行けない。このことを漸く知った。本当なら、ルチルに見限られる前に気づくべきだった。まあ、過ぎたことはどうしようもない。切り替えよう。
俺は今日もダンジョンに潜る。
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今日は真剣に一階層の攻略をする。普通に大人なら、そんなことは自然とできるんだが、昨日まで俺は大人のフリをした子供だったからできてなかった。俺は今日で子供を卒業する。
ダンジョンに入ってみると、昨日と同じ光景があった。それも、当然か。ダンジョンの構造は満月の日にしか変わらないからな。逆に考えると満月の日には変わるんだけどな。おっ、壁にヒカリゴケが生えている。取ろうっとー。
(昨日は偶々ルチルの真似をしたら何か知らないけどかっこいい魔法が使えたな・・・)
あれは一体何なんだろー。分からんな。まあ、いっか。
俺は、うだうだと昨日のことを気持ちの面では引きづって歩いているとゴブリンと思わしき足音が聞こえた。
スタ、スタ、スタ、スタ
大体4匹か?
俺はダンジョンの岩陰に隠れてゴブリンの行動を注意深く見守った。これには訳がある。ゴブリンは基本的に複数で行動していたからだ。俺が初めてダンジョンに潜った時もゴブリンは複数で動いていた。初めてのダンジョンはこのことを知らずに挑んだ。知っていれば、お守りは壊れなかっただろう。だが、ルチルに怒られていなかった。
俺はゴブリンの様子を見続けた。黙って、何もせずに。じっと見ていればゴブリンについて気付くことが沢山ある。ゴブリンは人間が思っているほど頭が悪くない。例えが見つからないから大体省くが、大きな音には反応を示すし、音の中心を取り囲むように動いている。だから、音を立てない方がいいのはこのことが理由だったんだな。
「俺は世間知らずだったんだな」
これで、ルチルが何で薄っすらと涙を浮かべていたのか合点がいった。俺の行動で今までの警戒が全て無駄になったのか。これは誰でも怒るよな。
俺は昨日のようにファルシオンに魔力を通して、遠くからゴブリンに向かって剣を振った。
ギャギャー
変な音を出しながら4匹のゴブリンは魔石に変わった。俺は昨日と同じことが出来た。確かルチルは・・・通刃って言ってたよな。通刃を覚えた。ルチルの弓みたいなことは俺にはできないけれど確かに成長した。
(あっ、これが冒険の喜びか)
そう思っていたのも束の間の出来事だった。気づいたら俺はゴブリンに囲まれていたのだ。それも、20匹程のゴブリンに。
「や、ヤバい。どうしよう」
俺はゴブリンしかいないのに動揺して自然と独り言を漏らしていた。正直、通刃が何回俺に使えるのかまだ知らないから、無暗に矢鱈と使って死にかけたくない。ここは、何も知んなかったら死ぬだけだ!!
仕方ない。やるか。そう思ってファルシオンに魔力を通したら・・・。
「隅によって、ギーラ」
俺はいきなり聞こえてきたルチルの声にすぐに反応して目の前のゴブリンを切って避けた。
シュパァッ。音が鳴って気づけばゴブリンは全て魔石になっていた。まるで昨日と一緒の光景だな。ルチルも近くにいるからな。
「どうして、ルチルがここに?」
俺が誰でも言いそうなことを言うと・・。
「私は冒険者よ?質問の相手を間違っているわ」って言われた。正直どういう意味か分からなかった。だからまた聞いた。
「誰に聞けばいいんだ?」
「そもそも聞かなくてもわかるでしょ。私は冒険者だからダンジョンに潜ることは何ら不思議なことでは無いわ」
それもそうだな。
「納得した。ありがとう」
「貸し1個ね」
貸しか・・・。
「なあ、ルチル。もう一回パーティーを組んでくれないか?」
「嫌よ。私あなたのことが大嫌いだもの」
改めて大嫌いなんて言われると傷つくなー。まあ仕方ないか。
「分かった。少しでも好かれてから、また・・・パーティーに誘う」
「ええ。そうしてちょうだい。でも私はあなたのことが大嫌いだけどね」
「知ってる、何回も聞いた。だけど、俺はもっとお前のことが好きになったよ。ありがとう」
俺はルチルのことがドンドン好きになるなぁ。まあ、俺は嫌われているけどな。だけど、俺もルチルのアホ毛は親近感が異様に沸くから嫌いだ。
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俺は取り敢えずルチルと別れて一階層の攻略を再開し始めた。一階層はゴブリンの迷路と呼ばれており、攻略するためには何回かゴブリンと鉢合わせする。ちなみに、一階層にはボスがいるのだが・・・マジックゴブリンだ。マジックゴブリンは名前の通りだが魔法を使う。使う魔法は個体差が出るとルチルに言われた。
俺はゴブリンと幾度も戦闘を繰り広げながらも、漸く2階層へと行くゲートを見つけた。ただ・・・。
「やっぱり聞かされた通りマジックゴブリンがいるな。これを倒さなきゃクリアにはならないんだろうな」