最終話
戦いは終わった。
四大魔王は完全に滅び、その支配は終わった。
その裏で暗躍していた復讐者もまた、復讐を遂げることなく命を落とした。
もう何者にも怯えることの無い平和な世界が訪れる。
魔王の目を気にすることない自由な世界が。
「…とは言え、楽観視は出来ないだろうな」
ネロは一人呟く。
本質的には悪魔ですらないネロだからこそ、気付くことがある。
悪魔の本質は強欲だ。
他者を殺してでも己の欲を満たそうとする。
その様が醜悪だったからこそ、ウェルギリウスは復讐を止めなかったのだろう。
いずれ、新たな魔王が現れるかもしれない。
四大魔王に比べれば遥かに弱いだろうが、彼らのように他者を支配することを望む暴君が再び現れる。
それはきっと仕方のないことなのだろう。
「…そう、仕方のないことなんだ」
良い奴がいれば、悪い奴もいる。
それは当たり前のこと。
この世を人間が支配していた頃から変わらないこと。
ネロ達に出来ることは、その悪に対して立ち向かうことだけだ。
「そうだろう? ウェルギリウス」
「うわあ! 見てアレ! 城があるわ!」
「ちょっと欠けているが、立派な城だね」
興奮した様子で遠くを指差すビーチェに対し、ネロは興味深そうに呟く。
指を差す先には大きな石造りの城がある。
恐らくは旧時代、人間達によって作られた城だろう。
「トロメーアの野郎が使っていた城よりデケェな」
「あれだけ立派な城が、どうして今まで放置されていたのだろう?」
少し離れて歩いていたグラッフィとアリキーノも呟く。
「考えてみれば、たった四人で世界全てを管理するなんて無理な話だ。魔王も把握しきれていない場所は世界に幾らでもあるんじゃないか?」
「なるほど。確かに」
ネロの言葉にアリキーノは深く頷いた。
千年以上世界を支配してきた魔王達だったが、彼らは己の眷属や己の欲望にしか興味を示さなかった。
この広い世界をもっと調べようと思うような魔王は一人も居なかったのだろう。
「ってことは、だ。あの城は見つけた者が自分の物にしていいってことだよなァ?」
「グラッフィ?」
「よォし! 今日からあの城は俺の城だァ! グラッフィ城と名付けてやるよォ!」
悪童のような表情を浮かべ、グラッフィは城へと走っていく。
愉し気に走るグラッフィの背中を、ミリオーネが呆れた目で眺めていた。
「あの男、本当に即物的ですね。あれだけ色々なことがあったのに、全然変わってないじゃないですか」
「ま、まあまあ、グラッフィさんも良い所はありますよ」
ため息をつくミリオーネにチリアットは苦笑を浮かべていた。
戦いが終わった後、ネロ達は約束通り、旅に出ていた。
外の世界を見て回る旅。
ビーチェが提案したそれに、皆がついてきたのだ。
「………」
旅にはヴェンデッタの皆がいる。
ネロ、ビーチェ、アリキーノ、グラッフィ、チリアット、ミリオーネ。
ただ一人、ウェルギリウスの除いて。
「………」
この世界で唯一の人間だった彼は、本当に全ての悪魔を憎んでいたのだろうか。
共に過ごしたヴェンデッタに対しても、何の心も抱いていなかったのか。
こうして皆と笑い合いながら続ける旅。
そこに、ウェルギリウスも共に居ることは本当に出来なかったのだろうか。
「ネロ」
考え込むネロの不安を読み取ったのか、ビーチェは複雑そうな表情で呟いた。
「そんな顔をしていたら、むしろウェルギリウスは怒り狂うわよ」
「…そう思うか?」
「ええ」
ビーチェは迷いなく頷いた。
「私達の本質は悪。己の欲望のままに生きる」
「………」
「だからこそ、それを悔いることは駄目よ。そんなことをしても殺された者は蘇らないし、報われない」
少なくとも、ウェルギリウスはそんなことは望んでいない。
彼を殺したことを悔いて、ネロが足を止めることなど。
「…ビーチェ、君はこれからどうなると思う? 新たな魔王が現れるのか? またヴェンデッタが結成されて戦いが始まるのだろうか?」
「そんなこと、その時になって見ないと分からないわよ」
きっぱりとビーチェは告げた。
弱肉強食の考えは変わらず、また魔王が現れて戦いが始まる可能性はある。
また同じことが繰り返されるのかもしれないし、そうでないかもしれない。
「だけど、悪魔は変わりつつある。それが良い変化であれ、悪い変化であれ、ずっと変わらないことは出来ない」
特殊な生まれであるネロの影響か、魔王を倒した影響か。
悪魔の変化に関してはウェルギリウスも気付いていた。
「それに、さ」
ビーチェはネロの目を見つめながら呟く。
「人が悪魔になったのだから、悪魔が人になってもおかしくないと思わない?」
全ての悪魔が人の心を取り戻し、他者を想うようになる。
そんな世界には、もう魔王は生まれない。
本当の意味で、平和な世界が訪れるだろう。
「…楽観視は出来ない」
「………」
「…でも」
ネロはビーチェの目を見つめ返しながら呟く。
「俺も、そうなったら良いと思うよ」
ウェルギリウスが守りたかった世界。
魔王に滅ぼされる前の世界。
それが見てみたいと、心から思った。




