第七十五話
「勝った…!」
魔王カイーナは塵一つ残さずに消滅した。
最初にして最強の魔王を遂に倒したのだ。
「やった…! やったぞ…!」
「遂に全ての魔王を倒したんだ!」
ヴェンデッタの面々から歓声が上がる。
四大魔王を打倒する。
それがヴェンデッタの悲願だった。
長く苦しい道だったが、悲願は果たされた。
全ての魔王は滅び、魔王の支配は終わった。
ヴェンデッタは真の自由を手に入れたのだ。
「…ネロ。よくやった」
「ウェルギリウス…」
「まさか、お前が俺の剣を使うとは思わなかったぞ」
ウェルギリウスは未だネロの手に握られている剣を見つめながら言った。
純白の剣。
それはウェルギリウスの能力であり、全ての魔素を喰らうと言う性質上、彼以外には扱えない剣だった。
特に、魔爪から生まれたネロにとってはカイーナ同様に天敵となる筈の力。
それをネロが握り、ウェルギリウスの代わりに振るうなど、流石に想定外だった。
「無我夢中だっただけさ」
そう言いながらネロは手にした剣をウェルギリウスに返した。
「それより、怪我は大丈夫か?」
「…問題ない。腕もその内、生えてくるだろう」
失った右腕を眺めながらウェルギリウスは無表情で呟く。
高い生命力を持つ悪魔ならそれも不可能では無いが、元通りになるまでは時間が掛かるだろう。
「どのみち戦いは終わったんだ。ゆっくりと傷を癒せばいいさ」
「………」
ネロの言葉には答えず、ウェルギリウスは左手で握った剣を眺めていた。
何度か軽く振って調子を確かめている。
「ネロ。ウェルギリウス」
「ビーチェか。そっちも大活躍だったようだな」
笑みを浮かべながらネロはビーチェに手を振った。
「そうそう、オレっちってばビーチェちゃんに見せ場取られちゃってさ! 頼もしいやら不甲斐ないやらで凄い複雑だよ!」
「…結構あっさり負けちゃいましたね。アリキーノ様」
「ぐはっ…!? 役立たずとは言わないでくれ!」
チリアットの鋭い指摘に、アリキーノは大袈裟に仰け反った。
「俺は活躍したがな!」
「ぐ、グラッフィ…」
「俺はバッチリ活躍したがな!」
「何で二回言ったんだよ!?」
最後の最後でネロをアシストしたのはグラッフィなので、否定は出来ない。
悔しさでアリキーノは歯噛みした。
「…魔王を倒したばかりだと言うのに、緊張感ないわね」
呆れたように息を吐き、ビーチェは言う。
その顔には安堵が浮かんでいた。
もう戦いはうんざりだった。
「さて、これからは何をしようか。ビーチェ、何か希望はある?」
「そうね。世界を見て回ると言うのはどうかしら?」
「旅をするってことか?」
「今まで魔王が支配していた世界を自由に見て回る。それって、結構楽しそうだと思わない?」
もう魔王に怯えてディーテに引き篭もる必要はない。
誰の目を気にすることも無く、どこへだって行けるのだ。
「いいね。それは楽しそうだ」
「はいはーい! オレっちも参加したいよ!」
「アリキーノ様が行くなら、私も…」
アリキーノを筆頭に、次々と手が上がっていく。
二人きりの旅かと思えば、このままヴェンデッタが全員ついてきそうだ。
彼ら彼女らも、魔王のせいで不自由を強いられた者達である為、外の世界には興味を持っていたのだ。
「復讐は終わっても、ヴェンデッタと言うチームは解散できそうにないな」
笑いながらネロはウェルギリウスの方を向いた。
「なあ、ウェルギリウス」
「…そうだな。俺達の復讐は終わった」
そう言い、ウェルギリウスは左手で純白の剣を握り締める。
その視線の先には、皆の反応に苦笑するビーチェが居た。
「だが、俺の復讐はまだ終わりではない」
「…ッ!」
瞬間、甲高い金属音が辺りに響き渡った。
振り下ろされた純白の剣を、影の剣が受け止めている。
「…何を、するんだ! ウェルギリウス!」
「見ての通り。言っての通りだ」
表情の無い顔で、ウェルギリウスは告げる。
「俺の復讐は、お前達を殺すまで終わらないのだ」
戦いは、まだ終わらない。




