第七十二話
「………」
ネロ、ウェルギリウス、グラッフィの三人による猛攻を前にカイーナはほぼ無抵抗だった。
カイーナは最強の魔王だが、それ故に戦闘経験が不足している。
今までただ爪を振るうだけで敵を殺して来た為、戦いと言うものを経験したことがない。
だから、どうすればいいか分からなかったのだ。
反撃する余裕もなく、再生が間に合わない速度で攻撃され続ける。
敵に追い詰められる経験が無かった為、それにどう対応すればいいのか分からない。
「『アイネイアース』」
ウェルギリウスが純白の剣を振るう。
ネロとグラッフィの攻撃でダメージを負ったカイーナに剣が振り下ろされ、削り取るようにカイーナの肉体が消滅した。
肉体が魔素であるカイーナがどんな攻撃を受けても再生するが、その魔素そのものを削られてしまえば段々とその力も衰えてくる。
「………」
カイーナは再生速度の落ちた自身の肉体を見下ろした。
塔の精神干渉で肉体の再構成に集中できない。
不安定な肉体を破壊され、霧散した魔素をウェルギリウスの剣が削り取っていく。
このままでは、いずれカイーナの肉体は完全に消滅する。
(…死、ぬ…?)
不老不死として生まれ、死とはカイーナにとって実感できない概念だった。
痛み、苦しみ、そして死。
限りある命と言うものが理解できなかった。
だが、今この瞬間にカイーナは理解した。
肉体が少しずつ削られていく感覚。
指先から命の熱が消えていく感覚。
「…は」
コレが、この感覚が…
「ははははははははははははははは!」
突然、カイーナは狂ったように笑いだした。
実感した死の感覚。
敵に追い詰められる恐怖。
そう、敵だ。
目の前にいる彼らはただの獲物ではなく、カイーナの命を脅かす敵なのだ。
「コレが、恐怖か! コレが、戦いか! はははははは!」
笑いながらカイーナは大きく息を吸い込んだ。
「ァァァァァァァァァァァァァー!」
瞬間、この世の物とは思えない咆哮が辺りに響いた。
「な、何だ…?」
「…コイツ…!」
困惑するネロの隣で、グラッフィは顔を歪める。
「電磁波だ…! コイツ、俺の能力を解析して同じ電磁波を放って…!」
「何だと…!」
カイーナの肉体は魔素そのものだ。
グラッフィの魔爪も元を辿れば、カイーナの魔素である為、理屈の上ではそれを真似ることも可能だ。
だが、それは今までのカイーナの戦い方ではない。
敵を勝つ為に己の能力を応用すると言う方法は、今までのカイーナでは有り得ない。
「く、そ…! 塔の制御を乗っ取られて…!」
「収束」
小さくカイーナが呟くと同時に、塔を包むように魔素が集まっていく。
巨大な塔の全てを包み込むように、魔素は塔の表面を覆った。
「圧縮」
一言、そう告げた瞬間、塔は呆気なく拉げた。
まるで巨大な腕で握り潰すかのように、巨大な塔が潰れ、完全に崩壊する。
「塔が…!」
「…ふう。ようやく壊れたか」
精神干渉が途切れ、カイーナはスッキリしたように頭を振った。
コレで調子は元通り。
いや、以前よりも調子が良いくらいだ。
「恐怖が生物を強くする。私は今まで恐怖を感じたことが無かった。千年経とうと成長しない筈だな」
カイーナはそう言って笑みを浮かべた。
最強故に変化が無かった。
その必要が無かった為に、成長することが無かった。
「だが、お前達と言う敵を得て、私は今、成長したぞ」
今のままでは勝てないと理解したから。
このままでは殺されると恐怖したから。
カイーナはかつてない自分になることが出来た。
「魔素を操る力を、手に入れたのか…」
ウェルギリウスは苦虫を嚙み潰したような顔をした。
元々厄介な魔王が、更に厄介な存在となった。
既に不死身でありながら、強力な武器を得てしまったのだ。
「さあ、戦いを続けよう。もっと私の知らないことを教えてくれ!」




