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悪の嚢  作者: 髪槍夜昼
第四圏 カイーナ
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第六十七話


「グラッフィ、上手くいきそうか?」


『何とかやっているよォ。チクショウが』


金のピアスを使った通信機からグラッフィの声が響く。


『つっても、コレは俺の専門外なんだから、失敗しても文句を言うんじゃねェぞ』


「それは作戦の要の一つだ。必ず成功させてくれ」


『チッ』


ウェルギリウスの言葉にグラッフィは大きく舌打ちをする。


『勘違いしてるよォだが、俺はテメエの部下じゃねェんだ。気に食わねェと思えば前の時と同じように出てっても良いんだぜェ?』


不機嫌そうにグラッフィは言った。


命令する態度が気に入らなかったのか、噛み付くように苛立ちを口にした。


グラッフィは他のヴェンデッタのようにウェルギリウスに心酔している訳では無いので、その気になれば何度でも脱走するつもりだろう。


「お前は見た目より賢い。今の状況が分かっていない訳では無いだろう」


『…見た目より、は余計だ。馬鹿が』


そう言いながらもグラッフィはウェルギリウスの言葉を否定しなかった。


魔王を自分の手で倒すことがグラッフィの野望だったが、アレは想定外だ。


魔王カイーナ。


アレだけは、どんな手を使っても勝てる気がしない。


ヴェンデッタが滅びれば次はグラッフィの番だ。


生き残る為にはヴェンデッタに協力するしかないのだ。


「…ああ、それからな」


『…?』


「状況が切迫している故、一度目は見逃したが…」


ウェルギリウスの声が重く、低いものに変わる。


「二度も裏切るのなら、カイーナの前に俺がお前を斬り捨てる」


『ッ…!』


通信機越しでも、その冷たい殺意が伝わり、グラッフィは絶句する。


脅しではなく、本気だった。


ウェルギリウスは魔王へ向ける憎悪にも似た、裏切りへの怒り。


もしグラッフィがまたヴェンデッタから去ることがあれば、その時は白刃が向けられることだろう。


『…チッ』


舌打ちをしてグラッフィは通信を切った。


「………」


それを確認すると、ウェルギリウスはピアスをテーブルの上に置く。


小さく息を吐きながら部屋の椅子に腰掛けた。


「外まで殺気が漏れていたぞ。何を苛々しているんだ?」


「…ネロか」


部屋へ入ってきた男の顔を見て、ウェルギリウスはまた一つ息を吐く。


「俺は『裏切り』が嫌いなんだ。この世の何よりも唾棄すべきことだ」


「言っては何だが、そんなものは悪魔の常じゃないのか?」


「…それもそうだな」


「まあ、俺がビーチェを裏切ることは絶対にありえないが」


「………」


「どうした?」


急に黙ったウェルギリウスにネロは首を傾げる。


ウェルギリウスは難しい顔をして、ネロを見ていた。


「自分の正体を思い出したらしいな」


「…ああ、俺がビーチェの魔爪だってことか? それがどうした?」


少しも気にしていないように、ネロは呟く。


それを見ると、ウェルギリウスは静かに瞼を閉じた。


「お前は能力の一部。形を変えた魔素のような物だ」


言いながらウェルギリウスは腰に下げた純白の剣を抜く。


「…なるほど。その剣を見る度に鳥肌が立つのは、そのせいか」


「そうだ。この剣は魔素を殺す。お前にとってこの剣は天敵と言う訳だ」


ビーチェが生きている限り何度でも復活できるネロ。


しかし、この剣は魔素そのものを殺す為、恐らくこの剣で斬られればネロでも死ぬだろう。


「そしてそれは、カイーナも同じだ」


「…ある意味、俺とカイーナは似ていると言う訳か」


「そうだな。元が人間では無いと言う意味では同類だ」


カイーナもネロも、魔素から生まれた存在だ。


成り立ちから人間では無く、人間の名残を持たない。


「…だが、奴とお前は決定的に違うものがある」


「それは?」


「心、だ」


断言するように告げた言葉にネロはポカンと口を開ける。


あまりにも目の前の言葉が意外だったのだ。


「…お前、そんなに熱いことを口にするキャラだったか?」


「茶化すな。前々から思っていたが、お前は人の心を持っている」


「人の、心…?」


「お前が発端だ。お前の影響を受けて、ヴェンデッタは『心』を得た」


欲望に溺れた悪魔から、心を持つ存在となった。


互いを想い合えるようになった。


「…俺だけでは魔王討伐は成せなかった。礼を言うぞ、ネロ」


そう、ウェルギリウスだけでは千年掛けても魔王討伐は果たせなかった。


魔王を討伐することが出来たのは、ウェルギリウスだけの力ではない。


「何だか今日は饒舌だな、ウェルギリウス」


「…少し、気が昂っているだけだ」


そう言ってウェルギリウスは苦笑を浮かべた。


「千年掛けた復讐…やっと、終わることが出来るのだからな」


「………」


どこか遠い目をして呟くウェルギリウスを見て、ネロは少し嫌な予感を覚えた。


「…お前、カイーナを倒したら死ぬつもりじゃないだろうな?」


ここではない遠く見つめるウェルギリウスにネロは思わず呟く。


「…まさか、そんな筈は無いだろう」


ウェルギリウスは苦笑を浮かべながら否定した。


「カイーナを倒した後も、俺にはやらねばならないことが…」


言いかけて、ウェルギリウスは言葉を止めた。


真剣な顔を浮かべ、ネロの方を向く。


ネロも同じような表情で上を見上げた。


「…来たか」


「予想していたよりも早かったな」


地上から感じる強大な気配。


死が形を持って地上に堕ちてきたかのような存在感は、あの魔王の物だった。


「カイーナだ。準備は大丈夫か?」


「やるしかないだろう…コレが最後の戦いだ」


二人は顔を見合わせた後、地上へと向かった。

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