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悪の嚢  作者: 髪槍夜昼
第三圏 ジュデッカ
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第五十七話


一つの戦いが終わっても、まだまだこの戦いは終わらない。


ルビカンテを倒しても、まだ無数のアンジェロと魔王ジュデッカが残っている。


研究所の外ではヴェンデッタとアンジェロが戦っている最中なのだ。


ネロとビーチェはすぐにまた出口を目指して走り去っていった。


「………」


二人の背中が見えなくなった頃、ぴくりとルビカンテの首が動いた。


閉じられた瞼が、ゆっくりと開く。


「…やれやれ、死んだふりも楽じゃないねぇ」


首だけの状態のまま、ルビカンテは平然と口を開いた。


ニヤニヤとした笑みを浮かべ、自身の体へ目を向ける。


「体ぁ! さっさとこっちに来い!」


叫び声が聞こえているのか、のろのろと体が近付き、ルビカンテの首を拾い上げた。


そして無理やり押し付けるように、その傷口に乗せる。


グチャグチャと嫌な音を立てながら、刎ねられた首が癒着し始めた。


「んー。んんー? まだ首に違和感があるなぁ」


首の骨を鳴らしつつ、ルビカンテは呟く。


完全に復元するまでにはまだ時間が掛かりそうだ。


「ま、ジュデッカに色々と体を弄られてなければ、そもそも首を刎ねられた時点で死んでいたけれど」


悪魔特有の再生能力ではない。


ルビカンテが首を刎ねられても生きているのは、ジュデッカによる肉体改造の結果だった。


「感謝してますよぉ、お父様。ははははは!」


馬鹿にするように笑いながらルビカンテは言う。


「…さて、そろそろオジサンも行くとしますか」


そう言ってルビカンテはネロ達が去っていた方とは別の方向へ歩き出す。


レディ(・・・)を待たせるのは、悪いからねぇ」








「銀の槍に気を付けろ! 掠っただけでも危険だ!」


ウェルギリウスの指示に従いながら、ヴェンデッタはアンジェロと交戦していた。


白銀の槍。


全てのアンジェロが握るそれは、一刺しで悪魔を浄化する凶器だ。


戦場に散らばる幾つかの塩の山は、その犠牲となった者達の遺灰である。


「…やり辛いな。本当に人形みたいだ」


アンジェロの頭部を撃ち抜きながら、アリキーノは呟く。


既にこちらも何人かアンジェロを倒しているが、他の者に動揺は見えない。


どれだけ傷を負っても、本当に動かなくなる時まで顔色一つ変えない。


仲間がどれだけ死んでも、その動きが一切衰えない。


戦っている側からすれば、最悪の相手だった。


「『パラディーソ』」


「チッ…!」


突然目の前に出現したアンジェロに、アリキーノは舌打ちをした。


空間転移。


アンジェロの持つもう一つの能力だ。


魔道具を体に仕込んでいるのか、アンジェロは空間を自在に移動しながら戦うことが出来る。


正面から迫る槍を見て、アリキーノは手にした銃を向けた。


「魔爪『リカントロポ』」


その時、アンジェロの背中を狼の爪が切り裂いた。


翼を傷付けられ、アンジェロの動きが鈍る。


「アリキーノ様!」


そう叫んだのは、手足を人狼化させたチリアットだった。


その視線を受け、アリキーノは無言で頷く。


「撃ち抜け!」


水の弾丸がアンジェロの心臓を貫き、その命を絶った。


「…チリアット、君は逃げておくように言った筈…」


「私だって戦えます! 守られるだけではなく、私も戦いたいんです!」


チリアットは真っ直ぐアリキーノを見つめて言った。


以前とは違う眼だった。


無力感に打ちひしがれ、ただ庇護を求めていた頃のチリアットとは違う。


「…そうだね。頼もしいよ」


ならば、アリキーノも変わらなければならない。


チリアットは守られるだけの愛玩動物ではない。


共に助け合う仲間なのだと。


「頼りにしている! 行くよ、チリアット!」


「はい!」








「………」


三人のアンジェロを纏めて切り捨てながら、ウェルギリウスは空を見上げる。


空に浮かぶアンジェロの数は最初とそれほど変わっていない。


既に半数以上を倒した筈だが、それと同じだけ新たなアンジェロが補充されているのだ。


ヴェンデッタも善戦しているが、このまま数で圧されれば先に滅ぶのはこちら側だろう。


(だが、その程度か?)


ウェルギリウスはその推測に疑問を抱く。


本当にこの程度の戦力でヴェンデッタを滅ぼす気なのか、と。


このまま続ければ確かにヴェンデッタは壊滅するだろう。


だが、全滅ではない。


ウェルギリウスとアリキーノ、他にも何人かは生き残るだろう。


それだけ生き残れば、時間は掛かるが、またヴェンデッタを再結成できる。


魔王ジュデッカの作戦にしては、随分と杜撰だ。


(…ジュデッカが姿を見せないのは何故だ? 何か別の狙いがあるのか?)


恐らく、ジュデッカはアンジェロを使ってヴェンデッタを滅ぼす気は無い。


コレはただの時間稼ぎだ。


ジュデッカの進める何らかの計画の邪魔をさせない為の。


(だとすれば、それは…)


「ウェルギリウス! アリキーノ! 無事か!」


その時、研究所の扉が開き、中からビーチェを連れたネロが現れた。


「…そちらは上手くいったようだな。ジュデッカはどうした?」


「会ったが、ビーチェを連れて逃げてきた」


「…ふむ」


ウェルギリウスは視線をビーチェへ向けた。


てっきり、ジュデッカの計画に必要だからビーチェは誘拐されたと思っていたが、それほど重要では無かったようだ。


ビーチェが居ても居なくても、ジュデッカの計画に支障は無いのだろう。


「まあいい、考えるのは後だ。お前も手を貸せ、ネロ」


今まではアンジェロを倒せるのがウェルギリウスとアリキーノだけだったから膠着状態が続いていたが、戦力が増えれば状況は変わる。


援軍が来るよりも先に、アンジェロを全滅させることが出来るかもしれない。


「…ネロ、空を見て」


「どうした…?」


ビーチェに言われ、ネロも空を見上げた。


空に浮かぶアンジェロ達。


その全てが槍を消し、動きを止めていた。


陶器のような無機質な目は、全て一点を見つめている。


「全員、揃ったようですね」


そこには、最後の魔王が立っていた。


「たった今、全ての準備が整いました」


擦り切れた白衣をなびかせながら、舞台俳優のように両手を広げる。


「さあ、刮目なさい。世界が、変わる時です」

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