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悪の嚢  作者: 髪槍夜昼
第二圏 アンテノーラ
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第四十九話


「ヴェンデッタ。よくぞ、トロメーアとアンテノーラを倒してくれた。こっちも魔道具を横流ししたりして協力した甲斐があったと言うもの」


ルビカンテは嘲るような笑みを浮かべて告げる。


「きっとジュデッカも喜んでいるよ。お陰で、邪魔な魔王は全て消えたからねぇ」


「…魔王の排除、それがジュデッカの目的か」


四大魔王は互いを敵視していた。


トロメーアの死後、アンテノーラがジュデッカの排除を目論んでいたように。


ジュデッカもアンテノーラの排除を企んでいたのだ。


いや、そもそもルビカンテはヴェンデッタの結成以前から送り込まれていた。


ジュデッカは誰よりも先に他の魔王を排除するべく動いており、その為にずっと前からヴェンデッタを利用していたのだ。


「アアアアアアアァァァー!」


巨大な蟲の怪物と化したアンテノーラが咆哮する。


「女王様が呼んでいるよ。お前達の命がご所望らしい」


屋敷を破壊しながら、アンテノーラはヴェンデッタへと襲い掛かる。


目に映る全てを破壊しようと、無差別に攻撃を始めた。


ヴェンデッタも反撃しているが、自我も心も捨てたアンテノーラの体は異様な硬度と再生力を持ち、生半可な攻撃では無意味だった。


「さてさて、オジサンはこの辺で…」


「逃がすと思うか?」


その場から立ち去ろうとするルビカンテの行く手をネロが阻む。


「これだけ好き勝手やって一人だけ無傷で逃げるなんて無しだろ?」


「…好き勝手、ねぇ」


武器を向けるネロを眺めながら、ルビカンテは笑った。


ネロの言葉を嘲るように。


「好き勝手ってのは、こう言うことかなぁ?」


ルビカンテは懐から小さな魔道具を取り出す。


懐中電灯のような形状をしたそれのスイッチを入れると、壁にどこかの映像を映し出された。


天井も床も真っ白な何もない部屋。


そこに、意識を失ったビーチェが寝かされていた。


「さっき偶然ビーチェに出会ってねぇ、オジサンつい彼女のことを…」


「“ファルチェ”」


「おおっと…!」


その挑発は想像以上の効果を発揮した。


一瞬で激怒したネロは両手で巨大な鎌を握り、ルビカンテの首へと振るった。


ルビカンテは慌てて後方に飛び退き、それを躱す。


「ビーチェに、ビーチェに何をした!」


「あはは。良い反応だなぁ、オジサンびっくりだよ」


「質問に答えろ! 彼女はどこにいる…!」


かつてない程の怒りのままにネロは鎌を振るう。


その体がざわざわと不気味に蠢いていた。


許せない。絶対に。


殺す。確実に。


本気の殺意と共にネロの鎌がルビカンテへと振り下ろされた。


「良い殺気だ、ぞくぞくするよ! でもねぇ、オジサンこう見えても……クソ強いんだよねぇ!」


サッとルビカンテはその手をネロへ向けた。


「汝の罪は邪淫と背徳! 我が炎は退廃の都を焼き尽くす!」


叫び声と共にルビカンテの手の中に炎が揺らめく。


熱く、昏い、奈落の如き炎。


何もかも呑み込んで焼き尽くす地獄の具現。


「『インフェルノ』」


瞬間、ルビカンテの手から昏い炎が放たれた。


ネロの鎌をその腕ごと呑み込み、灰すら残さず焼き尽くす。


「何、だ…!」


両腕を失ったネロは、ルビカンテから距離を取りながら叫ぶ。


炎でありながら、触れた際には冷たさすら感じた。


痛みを覚えるよりも速く、両腕が骨まで消えていた。


あと数秒逃げるのが遅ければ、全身が呑み込まれていただろう。


「…ッ」


ネロは失った両腕へ視線を向ける。


魔王並みの再生力を持つネロならば、十秒もあれば腕を元通りに再生できる。


それなのに、先程から腕の再生が始まらない。


ルビカンテの炎に触れた部分だけが黒く焦げ、死人のようだった。


(今のは、本当に魔爪なのか…?)


ルビカンテの力は異質すぎた。


大気中の魔素を利用しているのではなく、周囲の魔素すら呑み込む炎を発生させた。


悪魔の再生力すら阻害する性質。


まるで、魔爪とは真逆の性質を持つ力だった。


「若者と遊ぶのはオジサン大好きだけど、もういい加減帰らないといけないんだよねぇ」


本気で名残惜しそうに言いながらも、ルビカンテはネロへ背を向けた。


咄嗟に追い掛けようとしたネロだったが、その腕はまだ治っていなかった。


「生きていたら、また会おう」


そう言ってルビカンテは何らかの魔道具を発動させ、姿を消した。

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