第四十五話
「さあ、私の愛しい眷属達。私に力を貸して下さいな…!」
笑みを浮かべながらアンテノーラは自身の魔爪を発動する。
自身の支配下にある眷属達から魔爪を奪い、自在に振るう。
左手からは凍てついた槍が、右手からは燃え盛る矢が、異なる魔爪が同時に放たれた。
「………」
二種類の攻撃を回避しながら、ウェルギリウスは手にした剣を振り被る。
攻撃を放った直後の隙を狙い、純白の剣でアンテノーラの首を刎ねた。
「一つ」
「…ははは! 諦めの悪い子ね! 無駄だと言うのが分からないのかしら?」
すぐさま首を再生しながらアンテノーラはウェルギリウスの努力を嘲笑う。
アンテノーラは眷属の数だけ命を持つ。
一度や二度殺した程度では何の意味も無い。
しかし、それを理解しながらもウェルギリウスの戦意と殺意は少しも衰えない。
戻る刃で再びアンテノーラの首を断ち、それの再生を見届けながら心臓を突き刺した。
「二つ、三つ…」
「…くッ!」
不気味に呟くウェルギリウスを見て、アンテノーラは右手から火球を放った。
爆発する火球がウェルギリウスの体を吹き飛ばし、距離を引き離す。
「…お前の眷属の数は百か? 二百か?」
焼け焦げた傷を再生しつつ、ウェルギリウスは告げる。
「望む所だ。百だろうと、二百だろうと、何度だって殺してやる…! お前の存在が塵となるまで!」
底知れぬ憎悪。
アンテノーラに因縁があるアリキーノでさえ、ここまでの憎しみは抱いていない。
それはアンテノーラ個人に向けられた感情ではなく、魔王と言う存在そのものを否定する感情。
四大魔王の全てに対する殺意だ。
「どれだけ強がった所で、個は群には勝てないのよ!」
自分に言い聞かせるように叫びながら、アンテノーラは手の平をウェルギリウスへ向けた。
目の前に居るのは、アンテノーラのどんな眷属よりも強い悪魔だ。
一対一で戦えば、きっと全ての眷属が倒されるだろう。
だが、それだけだ。
ウェルギリウスの強さは個の強さ。
個にして群であるアンテノーラの能力の前には勝てない。
「魔爪『メテオリーテ』」
アンテノーラの手の平から光り輝く球体が生成される。
全ての眷属の能力の中から、最もウェルギリウスに有効と判断した能力を発動した。
この光球を解放すればこの部屋全てを消し飛ばすことが出来る。
アンテノーラ自身もただでは済まないが、一度の死くらい何でも無い。
能力が剣に依存しているウェルギリウスでは、コレを防ぐことは出来ない。
「死になさい!」
光球が炸裂する。
手にした剣ごとウェルギリウスの体が蒸発する。
その筈だった。
「…何?」
解放しようとした瞬間、光球がボロボロと崩れ始めた。
攻撃は不発に終わり、アンテノーラの手の中から光球が跡形も無く消滅する。
「何、が…?」
混乱しながらアンテノーラはウェルギリウスを見た。
未だウェルギリウスとは距離が離れていた。
ウェルギリウスが剣を使って攻撃を阻止した訳では無い。
だとすれば…
「能力が、消えた…?」
再度発動しようとしても、能力を使うことが出来ない。
それどころか、アンテノーラの中にあったこの能力を宿した眷属の感覚が消えている。
と言うことは、つまり、
「…まさか」
「………」
同じ頃、ビーチェは一人で行動していた。
他の仲間達と同じように転送に巻き込まれたが、運良くビーチェは敵の居ない場所に送り出された。
自分がどこに居るのかも分からず、仲間と合流する為に走っていた。
(とにかく、まずはネロを見つけないと)
この作戦の前に言われたことだが、ネロの力はビーチェの有無で変動する。
単純なモチベーションなのか、それ以外の理由なのかは定かでは無いが、ウェルギリウスからは共に行動するように指示されていた。
それ故に、ネロやウェルギリウスと共にビーチェもアンテノーラ襲撃のメンバーに入れられていたのだが、罠の影響で引き離されてしまった。
ビーチェ自身はアンテノーラと戦う上で役に立たないかも知れないが、ネロの力になると言うなら早く合流しなければならない。
「…ん?」
ネロを探して走っていると、ビーチェは物音を聞き、足を止めた。
敵か味方かは分からないが、誰かいる。
ビーチェは息を潜め、恐る恐る壁の向こうを覗き込んだ。
「…何、これ」
思わず、ビーチェは呟いた。
それは異様な光景だった。
色で言うなら、赤。
真っ赤に燃え盛る灼熱の槍に何人もの悪魔が串刺しとなっている。
旧時代に於ける魔女狩りのように、赤熱する槍によって磔にされた者達が火炙りにされている。
その数は十や二十では足りず、何十もの悪魔の遺体が悪趣味なオブジェのように並べられていた。
「アンテノーラの眷属、だけじゃない…」
遺体の殆どはビーチェの知らない顔だったが、中には見覚えのある顔もあった。
名前までは覚えていないが、同じヴェンデッタのメンバーだ。
この殺戮がヴェンデッタのメンバーによるものなら、仲間まで手に掛ける筈がない。
「一体誰が、こんなことを…?」
ビーチェの疑問に答える者は、この場には居なかった。




