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悪の嚢  作者: 髪槍夜昼
第二圏 アンテノーラ
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第四十四話


自分の居場所はどこにもなかった。


近付く者全てを傷付ける針。


触れる者全てを蝕む毒。


生まれつきそんな力を持っていた自分は、誰からも疎まれ、憎まれてきた。


長い長い、孤独の日々。


いつしか自分は仮面を被るようになり、誰にも素顔を見せなくなった。


誰も信じられない。


誰にも心を許せない。


自分は永遠に一人で生きていくのだろう。


そう、思っていた。


『あなた、私の眷属になりなさい』


それは魔王からの命令。


拒絶を許さない傲慢な一言。


もし拒否すれば、無理やりにでも眷属にすると告げていた。


『………』


だが、それは自分にとって救いだったのだ。


『またトロメーアの所の眷属がちょっかいを出して来たみたいね』


『あなたが居てくれて助かったわ。皆を守ってくれてありがとう』


生まれて初めて、誰かに必要とされた。


『いつも助けてくれてありがとうございます、カルカさん!』


『私達もいつかカルカさんのように強くなって、アンテノーラ様の為に戦いたいです!』


生まれて初めて、家族と呼べる者が現れた。


もう孤独ではない。


もう一人ではない。


ここが、俺の居場所なのだ。


俺は、この方に会う為に生まれてきたのだ。








「うおおおおおおおおおお!」


咆哮を上げながら、カルカは獣のように地を駆ける。


全身から生える毒針で貫かんと襲い掛かった。


「はああああああああああ!」


それを迎え撃つべく、ネロは両手で影の鎌を振り被る。


肉も骨も断ち切るべく死神の如き大鎌を振るった。


「カァ!」


ズン、と地面を踏み締め、カルカの体が空高く飛び上がった。


手足から伸びる毒針を使って壁や天井に張り付き、重力を無視して走り続ける。


「“ピストーラ”」


縦横無尽に駆けるカルカを見て、ネロは武器の形を変えた。


黒い銃口をカルカへ向け、影の弾丸を連射する。


次々と放たれる弾丸を躱しながら、カルカは全身に力を込めた。


「射出!」


「な…」


瞬間、カルカの体から毒針が射出された。


咄嗟のことで反応が遅れたネロの手足を毒針が貫く。


「ぐ…う…!」


刺さった針から毒が注入され、ネロの体が麻痺する。


体内を巡る魔力で解毒しようとするが、それでもしばらくは動くことが出来ない。


そしてカルカはその隙を見逃さなかった。


「止めだ…!」


カルカの右手から巨大な毒針が伸びる。


ただ毒を注入する為の針ではなく、その鋭い先端で心臓を貫く凶器が。


「こ、の…!」


その一撃をネロは足を影に沈み込ませることで、狙いを逸らす。


心臓を狙った一刺しは、ネロの左肩を貫いた。


「悪足掻きを…!」


左肩を貫いたまま、カルカは左手からも巨大な毒針を生やす。


今度こそ心臓を貫こうと左手を振り上げた。


「影よ…!」


その時、ネロの影が揺らぐ。


例え肉体が麻痺しようと、影まで封じることは出来ない。


カルカが踏み締めたネロの影から槍の穂先が伸びる。


無数の槍が、カルカの胴体を貫いた。


「が…あァ…!」


内臓を貫かれ、カルカの口から血が零れる。


体を動かす度に傷口から血が溢れ、全身に激痛が走った。


だが、それでもカルカは動きを止めない。


「まだだ。まだ負けない…! 俺はあの方の為に…!」


その言葉は他の眷属達と同じだった。


違うのはカルカは洗脳など受けていない。


カルカはアンテノーラの毒酒に酩酊などしていない。


彼が命を懸けて守ろうとするのは、植え付けられた愛ではなく、自分を孤独から救ってくれた恩人。


その為ならば、命など惜しくはない。


「が、ああああああァァァ!」


絶叫を上げながらカルカは突き刺さった全ての槍を引き抜いた。


全身から血が流れて満身創痍だが、戦意は消えていない。


血塗れの手を懐に入れ、そこから小瓶を取り出す。


その中身は、蜂蜜色の液体だった。


「コレを飲めば、俺はまだ戦える…!」


それはアンテノーラの蜂蜜酒ミード


アンテノーラへの愛を植え付ける代わりに、その力を強化する毒酒。


カルカは仮面を外し、小瓶を口に含んだ。


「は…はは…!」


効果は絶大だった。


みるみるうちに傷が修復され、全身に力が満ちる。


巨大な毒針が全身から生え、猛毒が滴る。


「ははははははははは!」


猛毒の針が全方位に射出された。


次から次へと新たな毒針が生成され、撃ち出されていく。


その毒針が尽きることは無い。


狙いを定める必要すらなく、ただ無尽蔵に撃ち続けるだけでネロを圧殺する。


心の底から湧き上がるアンテノーラへの忠誠心が全身を高揚した。


「アンテノーラ様! あなたの為に俺は…!」


「“ファルチェ”」


狂喜しながらカルカが叫んだ瞬間、影の鎌がカルカの胴体を両断した。


「な…に…?」


高揚感に満ちていたカルカの上半身が、呆気なく地に落ちる。


血溜まりに沈むカルカを見下ろしながら、ネロは息を吐いた。


「…残念だ。お前は本当の愛と言う物を知っていた筈なのに」


心から残念そうにネロは告げる。


アンテノーラの毒酒を飲み、愛に酩酊したことでカルカは自分を見失った。


自分の力とアンテノーラへの愛に酔い、それ以外が目に入らなくなった。


攻撃に夢中になるあまり、ネロが影に潜んだことにさえ気付かなかったのだ。


「その酒を飲む前のお前の方が、ずっと厄介だったよ」


「………」


地に倒れ伏すカルカ。


その顔に狂気の色はなく、既に正気に戻っているようだった。


「…俺はもう行く。じゃあな」


カルカに止めを刺すことなく、ネロはその場を去っていった。

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