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悪の嚢  作者: 髪槍夜昼
第二圏 アンテノーラ
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第四十話


「魔爪『カラブローネ』」


異形化した指を構え、カルカは地を蹴った。


(速い…!)


瞬きの間に距離を詰め、カルカはその爪を振るう。


身を低くして回避したネロの頭上を黒い爪が通り過ぎた。


(ウェルギリウス曰く、アンテノーラの能力は眷属の強化…)


カルカもその恩恵を受けていると見るべきだろう。


女王蜂を守る為の力。


忠誠の対価に与えられた魔王の力だ。


「シッ」


カルカはその場に止まり、片足を高く振り上げた。


真っ直ぐ伸ばされた足が回避行動を取ったままのネロの頭部へと振り下ろされる。


「チッ!」


咄嗟に影へ潜むことでその攻撃を回避するネロ。


直後、コンクリートの地面を陥没させる程の衝撃が響いた。


影から出たネロは、その異様な怪力に驚愕する。


「…その力を得る為にアンテノーラに忠誠を誓ったのか?」


魔爪とは無関係の驚異的な身体能力。


それはアンテノーラから与えられた力だろうと思い、思わず呟いた。


「………」


カルカはその言葉に僅かに動きを止めた。


何か心に引っ掛かることがあったのか、とネロは首を傾げる。


「我らの忠誠は、あの方への愛は、そんな軽い物ではない…」


鋭い針のように尖った爪を突き刺すように振るうカルカ。


「また愛か。アンテノーラの語る愛は支配者が所有物に向ける愛だ。決して対等じゃないぞ」


爪を躱しながら、ネロは告げる。


どれだけ眷属が愛を捧げようとアンテノーラには届かない。


彼らの抱く愛とアンテノーラの抱く愛は、全く違う物なのだから。


「…愛とは、対等で無ければならないのか?」


「…何?」


囁くような言葉にネロが訝し気な顔をした時、カルカは蹴りを放つ。


爪の攻撃を躱した隙を突く一撃。


ネロはそれを回避しきれず、腹部に受けてしまう。


「ッ!…ぐっ…!」


鋭い痛みが走り、ネロは傷口を抑える。


針だ。


カルカの足にも爪と同じような黒い針が生え、それがネロの腹部を貫いた。


(爪の攻撃は囮。こちらが本命だったか…!)


血が滲む傷口を抑えるネロ。


だが、針による傷は小さく浅い。


この程度の傷など悪魔の体はすぐに修復できる。


故に、カルカの本当の狙いは…


「ガッ…ゴボッ…!」


咳と共にネロの口から大量の血液が零れた。


ブツブツと頬に斑点のような模様が浮かぶ。


「毒針か…!」


「雀蜂の針には毒があると知らなかったのか?」


地に膝をつくネロを見下ろし、カルカは淡々とそう告げた。








「通信機の調子が悪ィな。何かトラブルでもあったのかァ?」


グラッフィは別働隊を指揮しながら耳に付けたピアスを弄る。


このピアスはルビカンテの用意した魔道具ではなく、グラッフィの能力を応用した通信機だ。


電磁波を用いた通信はウェルギリウスの合図を受ける為に用意した物だが、現在は連絡が無い。


「まあ、初めからそう簡単に上手くいくとは思っていなかったがなァ」


敵は魔王だ。


一度や二度の奇襲で殺されるようなら千年も生きていない。


ウェルギリウス達はアンテノーラに苦戦していると見て間違いないだろう。


「となれば、第二プラン。俺達もウェルギリウスの所に合流して総力戦でアンテノーラを仕留めるしかねェ訳だが…」


独り言を呟きながら、グラッフィは右手を振るう。


その手から伸びる雷の爪が飛んできた攻撃を防ぎ、電熱が焼き焦がす。


「…こいつら、本当にアンテノーラの眷属か?」


訝しむようにグラッフィは言った。


評判通り、アンテノーラの眷属は美男美女ばかりだった。


実力主義を掟としていたトロメーアとは違い、アンテノーラの眷属に選ばれるのは容姿が優れている者だけだと言われる。


見てくれだけで、実力の伴わない魔王の眷属。


それがトロメーアの眷属から見たアンテノーラの眷属の印象だった。


にも拘わらず、アンテノーラの眷属はグラッフィ達と対等に戦っている。


元トロメーアの眷属ばかりを揃えたグラッフィ達に対し、勝るとも劣らない。


「アンテノーラ様の為に!」


「あの方の為に! 敵を殺せ!」


何より、その熱意が異常だ。


ヴェンデッタもまた、ウェルギリウスと言うカリスマに酔った者達が多いが、こいつらとは違う。


まるで神のようにアンテノーラを崇め、狂信に近い忠誠心で実力以上の力を発揮している。


「チッ、これがウェルギリウスの言っていたアンテノーラの力か。他者を強化する能力なんて悪魔らしくねェ力だ」


与えられるのは異様な身体能力と再生能力。


素手で悪魔の骨を砕く力と、例え手足が千切れてもすぐに復元する力。


「………」


グラッフィは自分で口にした言葉にふと考え込む。


悪魔らしくない(・・・・・・・)。確かにそうだ。


悪魔とは己の欲望を何よりも優先する生命体であり、魔爪もその為の力だ。


眷属とは言え、他人を強化する能力が発現するなど有り得ない。


それだけではない筈だ。


何か、別の能力が…


「ッ! 何だ…?」


思考に耽っていると、突然グラッフィ達の立っていた床が光り出した。


床に浮かぶのは蜂をモチーフにしたマーク


それに触れた者が瞬く間に姿を消す。


「トラップ…! 全員、足下のマークには触れるなァ!」


慌てて声を上げるが、既に別働隊の半数が消えた後だった。


戦力が一気に半分に減った。


先程まで拮抗していた戦いがアンテノーラ側に傾く。


状況は最悪だった。


「おい、お前どこに行くんだ!」


混沌化する戦場の中で、グラッフィはこの場から離れていく背中を見つけた。


臆病風に吹かれた訳では無く、ただ敵にも味方にも目もくれず、屋敷の奥へと走っていく。


「チッ、だからアイツと一緒に行動するのは嫌だったんだ!」


大きく舌打ちをしながら、グラッフィは離れていくアリキーノ(・・・・・)の背を睨みつけた。

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