第三十五話
「つまり、ヴェンデッタとアンテノーラの同盟を結びたいと?」
ヴェンデッタのアジトにて、ウェルギリウスは確認するように告げた。
その隣にはネロ、ビーチェが立っており、周りには他のメンバーが油断なく控えている。
「同盟、とは冷たい言い方だな。悪魔らしいことだ」
敵地で囲まれていると言うのに、カルカは平然としていた。
図太いのか、力に自信があるのか、警戒する素振りすら見せない。
「…俺達はジュデッカを倒したい。目的はお前達と同じだ」
「同じではない。ヴェンデッタの最終目的は四大魔王の打倒だ」
カルカの言葉をウェルギリウスは否定する。
ヴェンデッタの目的は四大魔王の打倒。
その中には、当然アンテノーラも含まれている。
「…お前達が四大魔王を憎むのは、奴らがお前達を支配しようとするからなのだろう?」
「それが何だ?」
ウェルギリウスに代わり、ネロが答えた。
他のメンバー達も大きく頷いている。
四大魔王は悪魔を虐げ、支配する。
だからこそ彼らは立ち上がり、戦っているのだ。
「我が主アンテノーラ様は、誰も支配しない。俺達は俺達自身の意思で、彼女の眷属となった」
断言するようにカルカは言った。
暴力と恐怖で支配されていたトロメーアの眷属とは違う。
アンテノーラの眷属は誰もが彼女を心から慕っていると。
「アンテノーラ様はお前達を縛らない。だからジュデッカを倒せば、お前達は自由となる」
「…計算が合わないぞ? あと一人の魔王はどうする?」
「最後の魔王、カイーナは…」
カルカはそこで一度言葉を区切り、視線をネロへ向けた。
「とうの昔に死んでいる。故に、残る魔王はジュデッカとアンテノーラ様の二人だけだ」
「何…?」
予想外の言葉にネロは目を見開き、ウェルギリウスの反応を窺った。
四大魔王の内、一人が手を下す前に死んでいたなど流石に想定していないだろうと。
「………」
ウェルギリウスの表情は普段と変わらなかったが、僅かに眉が動いていた。
無言だが、どこか不機嫌そうにも見える。
「…どうしてそんなことを知っている?」
「アンテノーラ様から直接聞いた。あの方は、我々に隠し事などしない」
「…ってことは、カイーナを殺したのは同じ魔王か」
アンテノーラが手を下したのか、他の誰かか。
いずれにせよ、ここ何年かの出来事では無いようだ。
ウェルギリウスの反応は気になるが、倒すべき敵の数が減ったと喜ぶべきだろう。
「ジュデッカはトロメーアと似たような魔王だ。己以外を信じず、欲望の為に平然と犠牲にする。お前達が憎むべき魔王そのものだ」
「………」
「…我々の仲間も、何人か殺されている。だからこそ、アンテノーラ様は奴と戦うことを決めたのだ」
アンテノーラは眷属を何よりも大切にしている。
家族のように愛している眷属を殺されたのなら、例え同じ魔王であろうとも牙を剥く。
だが、魔王同士の実力は殆ど変わらない。
それ故に、アンテノーラはヴェンデッタと手を組むことを考えた。
「…どうするんだ、ウェルギリウス」
「………」
ネロの言葉に答えず、ウェルギリウスは無言で考え込む。
悪い話、ではない。
トロメーアを倒した時さえ、ヴェンデッタの総戦力とネロ、そしてトロメーアの眷属も味方につける必要があった。
ジュデッカと言う新たな魔王と戦う上で、他の魔王の手を借りられるのなら好都合だ。
いっそ共倒れしてくれれば、一気に魔王が二人も片付く。
カルカの言葉を信じるのなら、それで四大魔王は完全に崩壊する。
「………」
しかし、それで本当に良いのだろうか。
魔王を倒す為に魔王と手を組む。
アンテノーラと言う魔王を信じて良いのか。
もしジュデッカとアンテノーラが結託していれば、その時点でヴェンデッタは壊滅する。
「…すぐに答えが出るとは思っていない。だが、手を組むと言うのなら、我らの領地『スティージュ』まで来い」
この場で返事が出るとは思っていないのか、カルカは背を向けた。
そして一度も振り返ることなく、そのまま去っていった。
「カルカの奴…! 私を置いて、どこに行ったのですか…!」
同じ頃、ディーテの地上では苛々しながらミリオーネが歩いていた。
置いてけぼりになってからずっとカルカを探しているが、全く見つからない。
カルカは感知能力が優れている為、すぐに地下のアジトを見つけ出したが、戦闘タイプではないミリオーネはそんなことを知る由もない。
ミリオーネはただ一人喚きながら、カルカを探し回っていた。
「あ、あの…どうかされましたか?」
明らかに機嫌が悪そうなミリオーネの耳に声が聞こえた。
苛立ちを隠そうともせず、ミリオーネは振り返る。
「誰か、探しているんですか?」
それは、メイド服に身を包んだ子犬のような少女。
偶然、用事でアジトの外に出ていたチリアットだった。
(…可愛らしい女の子。野良悪魔にも、こんな純朴そうな子が居るのね)
驚いたように目を丸くし、ミリオーネはチリアットの顔を見つめた。
ミリオーネは毒舌家だが、それは大嫌いな男にだけ向けられる。
同性、特に美しい女の子なら話は別だ。
「…ねえ」
笑みを浮かべ、ミリオーネは口を開く。
「あなた、アンテノーラ様の眷属になる気は無い?」




