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悪の嚢  作者: 髪槍夜昼
第一圏 トロメーア
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第二十七話


トロメーアは魔王だ。


世界を滅ぼした四大魔王の一人だ。


数多の眷属を従え、欲する物は何もかも手に入れてきた。


だからこそ、それだけは認めない。


トロメーアは常に強者であり、奪う者であり、その逆は有り得ない。


何者であれ、己から奪うことは許せない。


何一つ、奪わせない。


もう二度と(・・・・・)








「その魂を! その命を! 俺に全て寄越しやがれ!」


無数の巨人の腕が伸びる。


城の壁や天井を擦り抜け、縦横無尽に魔王の腕が襲い掛かる。


「チィ! 腕が増えるなんて聞いてねェぞ!」


グラッフィはそれを見て、大きく舌打ちをした。


眷属歴の長いグラッフィは当然、トロメーアの能力を知っていた。


トロメーアの奥の手。


触れるだけで魂を削り取る霊体の腕。


あらゆる鎧も能力も通じない防御不能の攻撃は、トロメーアと戦う上で最も警戒した物だった。


しかし、コレは知らない。


トロメーアの本体も、この無数の腕も、今まで見たことが無い。


本体であり、己の魂の大部分を使うことが出来るから手数が増えたのだろうか。


どちらにせよ最悪なことに変わりはない。


一本でも厄介すぎる腕が何倍にも増えてしまったのだから。


「おい、ウェルギリウス! テメエ、このことを考えていなかったなんて言わねェよなァ!」


雷の爪で牽制しながら、グラッフィは喚くように言う。


今更ながら、自分達が誰に噛み付いたのか理解してしまった。


これほどの力を振るう魔王に対し、この男は本当に勝算があるのかと視線を向ける。


「喚くな、グラッフィ。みっともないぞ」


「あぁ!?」


「白刃、一閃」


ウェルギリウスは純白の剣を握り、横薙ぎに振るった。


塩の柱を思わせる刃は迫る腕の一本を捉え、一太刀で断ち切る。


実体を持たない筈の霊体の腕は、溶けるように霧散した。


「斬った…? 奴の腕を…?」


「………」


驚愕するグラッフィを余所に、ウェルギリウスは次々と霊体の腕を斬り捨てていく。


斬れない筈の物を斬り、殺せない筈の物を殺す。


それがウェルギリウスの能力だと言うことは誰もが理解したが、魔王にすら通じるその力の正体までは誰も分からなかった。


「…なるほどな。俺を一度殺したのは、そう言う絡繰りか」


ただ一人、魔王トロメーアだけがその能力を見破る。


「俺の魔爪…いや、殺しているのは魔素そのものか」


トロメーアの視線の先で純白の刃が光った。


あらゆる穢れを浄化するような白。


その刃の周囲で、魔素が急激に減少していた。


「あらゆる魔爪は大気中の魔素を使用して発動する。逆に言えば、魔素がない環境では何の能力も発動することが出来ない」


魔王であってもその常識は変わらない。


魔王は呼吸するだけで大気中に魔素を放っているが、それすらも失われてしまえば、どれだけ強力な魔爪だろうと消滅する。


「魔素を殺す刃…それがお前の能力か」


本来肉体を破壊されても死なないトロメーアの器を殺したのも、この能力故。


あの刃に触れれば、魔王であっても無力化する。


全ての魔素を失って並みの悪魔以下まで弱体化し、心臓を貫かれれば死ぬ。


悪魔殺し。


それこそがウェルギリウスの能力。


「何とも奇怪で特異な能力だなァ。一体どんな数奇な人生を送れば、そんな能力に目覚める?」


「…魔王相手に語る言葉など無い」


僅かに興味を抱いたようなトロメーアの言葉に、ウェルギリウスは冷淡に答える。


「存在自体が不快だ、消えろ」


ウェルギリウスは地を蹴り、走り出す。


右手に純白の剣を構えながら、トロメーアの本体を狙った。


「ハッ! 魔王を舐めるなよ!」


トロメーアは背からカラスのような黒い翼を生やし、飛翔した。


同時に、何かを握り潰すように両手を動かす。


「潰れろォ!」


「!」


咄嗟にウェルギリウスは足を止め、身を退いた。


直後、左右の壁が迫り、ウェルギリウスが先程まで居た空間を挟み潰す。


「ははははは! 霊体の腕よりも、実体を持った攻撃の方が斬り難いだろう?」


ゴゴゴ…と音を立てて地面が揺れる。


地震、ではない。


城だ。城だけが揺れている。


「嘘だろ…」


窓の外を見たグラッフィは呆然と声を上げた。


浮いている。


魔王の城『フレジェトンタ』が、宙に浮かんでいるのだ。


「この城に、俺の魂を憑依させた」


瓦礫を操った時と同じ理屈だ。


トロメーアは己の魂を分割し、憑依させた物を操ることが出来る。


理屈だけなら理解できる。


だが、それでも…


「規格外すぎる…!」


己の城を丸ごと操るなど、スケールが違い過ぎる。


「コレが魔王の力だァ! 俺の力だァ! 粋がっているんじゃねえぞ、クソ餓鬼共!」








あっちの俺(・・・・・)が本気を出したようだなァ」


同じ頃、ディーテで別のトロメーアが呟く。


「コレであのウェルギリウスとか言う餓鬼も終わりだ。ついでに俺を裏切った眷属共も」


まるで二重人格のような口ぶりだが、記憶も人格も共有している。


ここに居るのは分割した魂の一欠片。


思考の一部を割くように、同時に別行動をしているだけだ。


「お前達の作戦とやらも失敗だ。残念だったなァ」


「装填…射出!」


嘲笑を浮かべるトロメーアの顔を水の弾丸が貫く。


顔が潰れ、頭蓋骨に穴が空くが、トロメーアの口元には笑みが浮かぶ。


飛び散った血肉が、砕けた骨が、全て元の位置へと戻っていき、修復される。


「もっとも、お前達ではここに居る俺を殺すことすら出来ないがなァ」


トロメーアは嗤う。


ここに居るトロメーアは、本拠地に居るトロメーアの十分の一にも満たない分身に過ぎないが、それでも不死性は変わらない。


バルバリッチャの肉体に定着した魂を破壊しない限り、トロメーアが死ぬことは無い。


そして、ここに居る者達では魂を破壊することなど出来ない。


彼らは初めからトロメーアの足止めに過ぎず、殺す手段を持たない。


だから彼らが生き残るにはウェルギリウスが本体を倒すしか無いのだが、それすらも困難。


「諦めて絶望しろ。魔王に楯突いた報いを受けるが良い」

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