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悪の嚢  作者: 髪槍夜昼
第一圏 トロメーア
24/79

第二十四話


「………」


頭髪を残らず剃ったスキンヘッド。


髑髏の刺青を入れたマフィアのボスのような強面。


岩のようにゴツゴツとした屈強な肉体を揺らしながら、男はディーテの街を歩いていた。


都市へ一人で侵入し、目に付いた住人を次々と殴り殺しながら、突き進む。


返り血に塗れながらも笑み一つ浮かべない、その顔は…


「バルバリッチャ…か?」


声を上げたのは、ネロだった。


突然の侵略者に気付いたヴェンデッタに教えられ、ビーチェやアリキーノと共にこの場に駆け付けた。


侵略者と最初に聞き、敵はトロメーアだと思い込んでいたが、相手は意外な男だった。


以前一度戦ったトロメーアの眷属。


短気で凶暴な危険人物で、ビーチェを狙っていた。


「………」


バルバリッチャは答えない。


恨みも憎しみもあるだろうネロを見ても、眉一つ動かさない。


ただ静かに、ゆっくりとその指がネロへと向けられた。


「お前、何故生きている?」


ぽつり、とバルバリッチャの姿をした男は言った。


「お前は死んだ筈だ。俺が殺した(・・・・・)。なのに、何故生きている? どんな能力を使って生き残った?」


「…何を言っている?」


ネロは訝し気な表情を浮かべた。


確かにネロは一度死んだが、殺したのはバルバリッチャではない。


魔王トロメーアだ。


「…そうか。蘇ったのか。俺に魂を握り潰されながらも、零から蘇ったのか。それがお前の不死性・・・か」


バルバリッチャの姿をした男の口元が歪む。


醜悪に、貪欲に、誰よりも悪魔らしい笑みが浮かぶ。


「ははは! また一つ未知が増えた! 俺の愉しみが増えたぞ! はははははははは! 最高だなァ!」


「お前、まさか…」


未知を求め、快楽を求める強欲の権化。


ネロはその笑みを見て、ようやく目の前に立つ男の正体に気付いた。


「トロメーア…? そんな、どうして…?」


ビーチェは困惑した表情で呟く。


ここに居る男は間違いなくバルバリッチャだ。


以前出会ったバルバリッチャと全く同じ姿であり、何らかの能力で姿を変えているようにも見えない。


それなのに、その口調とその性格はトロメーアと同じだった。


「難しく考える必要はない。この体は確かにバルバリッチャの物だが、以前とは中身が変わったと言うだけの話だ」


「中身が、変わった…?」


トロメーアの言葉にビーチェは嫌な予感がした。


その言葉を聞けば、自分の中の何かが壊れてしまうようなそんな不吉を感じた。


「…魂」


ネロはバルバリッチャの姿をしたトロメーアを睨みながら、呟いた。


「魂を握り潰す、とお前は言っていた。お前の能力は、魂に干渉する能力」


トロメーアは敵の魂を破壊して殺すことが出来る。


ならば敵の魂だけではなく、自分の魂を操ることも出来るのではないか。


「己の魂を憑依させることで他者の肉体を乗っ取る。それが、お前の能力か」


「…ははは」


ネロの推測に対し、トロメーアは愉し気に嗤った。


悪霊の如き力。


自身の肉体を捨て、他者の肉体すらも我が物とする能力。


「厳密に言えば、俺の『ファンタズマ』は魂を分割する能力だ。この手で触れた魂なら自分だろうと他人だろうと自在に操ることが出来る」


スッとトロメーアは両手を広げた。


開いた手の指先から青白い小さな光が幾つも放たれる。


「例えばこんな風に小さく刻んだ俺の魂の欠片を使えば…」


小さな光が周囲の瓦礫へと吸い込まれていく。


すると、瓦礫が独りでに浮かび上がり、トロメーアの周囲に並んだ。


「このように、瓦礫を手足のように操ることも出来る」


「…なるほどな」


今までにトロメーアが起こしていた現象は全てこの能力による物だったのだ。


自身の魂を分割し、憑依させることで自在に操ることが出来る。


他者の肉体も、巨大な瓦礫も、何もかも。


言わば、この場にある全ての物がトロメーアなのだ。


細かく分割することで広がったトロメーアの魂。


その全てを倒さなければ、トロメーアは死なない。


「…待って」


戦いが始まろうとした時、ビーチェは声を上げた。


状況は理解しているが、それでも言わずにはいられなかった。


「あなたの能力が他者の肉体を奪うことだと言うのはよく分かったわ……だったら」


ビーチェは弱々しい目でトロメーアを見た。


「あなたが私の父の肉体を奪ったのは、一体いつ…?」


「………」


それだけは、聞かなければならなかった。


もしビーチェの想像通りならば、全ての前提が狂ってしまう。


「…幸せそうな、家族だったよなァ。お前達は」


トロメーアはゆっくりと口を開く。


その時のことを思い出すように、目を細める。


「弱くて、貧しくて、惨めな存在のくせに、俺より幸せそうに笑ってやがったよなァ」


「…トロ、メーア」


「だから奪ってやったんだよォ! お前達の幸福ってやつを! 父親の肉体を奪ってなァ!」


そう、全てはビーチェの想像通りだった。


ビーチェの父は豹変した訳では無い。


本性を隠してビーチェと母を騙していた訳では無い。


ただ不幸にも、この最悪の魔王に目を付けられただけだった。


「家族なんてものを得るのは未知の経験だったからなァ! 少しは愉しみにしてたんだが、初夜で嫁に正体がバレて自殺しちまったよ! ああ、勿体ねえなァ!」


「―――ッ!」


がくり、とビーチェは崩れ落ちた。


怒りと悲しみで言葉が出ない。


泣きたい訳でも無いのに、目から涙が止まらない。


許せなかった。


母だけではなく、この男は父すらも自分から奪っていたのだ。


それに気付かず、ビーチェはあの優しかった父すらも憎んでしまった。


「さあ、話はもう十分だろう! ネロ! そしてヴェンデッタ! この俺を殺したいと言うのなら好きにするが良い!」


凶悪な笑みを浮かべ、魔王は告げる。


「我はトロメーア! 魔王トロメーアだ!」

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