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悪の嚢  作者: 髪槍夜昼
第一圏 トロメーア
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第二十一話


「好きなだけここに居ると良い。もうオレ達は仲間だからねー」


そう言ってアリキーノはアジトの一室を与えられた。


四大魔王。彼らが倒すべき相手の説明を受け、二人は完全に仲間へと迎えられた。


既に二人はトロメーアに狙われている為、地上で暮らすのは危険だと判断され、ここで暮らすように提案を受けたのだ。


「凄いわね。飲み水に、食べ物、電灯も全て魔道具が使われている」


ヴェンデッタのアジト内に使われている魔道具の数にビーチェは驚いた。


ビーチェも幾つか魔道具を持っているが、それは全て上層からの廃棄品。


使えば多少便利、と言う程度の代物でしかなく、ここにある魔道具には劣る。


そもそも魔道具と言うのは魔王の一人であるジュデッカの作品であり、本来は魔王の眷属間でしか取引されていない物である。


それをどうやってこれほど手に入れることが出来たのか。


「オレ達の仲間の一人がジュデッカの所に潜伏しているのさ。ここにある魔道具は全てその横流しだよ」


「魔王の所に潜伏を…?」


眷属の中に紛れ込んでいるのだろうか。


だとすれば、ビーチェの想像している以上にヴェンデッタは大きな組織だと言うことだ。


「今の所、ジュデッカを狙う予定はないけど、備えあれば患いなしってね」


魔王の動きを把握することは有益だ。


ジュデッカだけでなく、他の魔王の情報を得ることも出来るかもしれない。


特に第一の標的であるトロメーアの情報は少しでも欲しい。


「…そう言えば、どうしてトロメーアを最初に狙うんだ?」


ふと疑問を抱き、ネロはアリキーノに尋ねた。


こちらとしては好都合だが、ヴェンデッタとしてはトロメーアを最初に狙う理由が在るのだろうか。


「さっきも説明したけど、トロメーアは好奇心の強い魔王だ。他の魔王に比べて、刺激に飢えている」


コツコツと靴音を鳴らしながら、アリキーノは告げる。


「だから、もし他の魔王をオレ達が攻撃したら、確実に首を突っ込んでくるだろう」


「あ、確かに」


直接会ったトロメーアは確実にそう言う性格をしていた。


他の魔王のことなどお構いなしに、トロメーアはヴェンデッタに攻撃を仕掛けてくるだろう。


そうなればヴェンデッタは魔王二人を同時に相手しなければならなくなる。


「逆に、最初にトロメーアを攻撃すれば、奴は他の魔王の介入を嫌う筈だ」


強欲の魔王であるが故に、愉しみを邪魔されることを嫌う。


折角の愉しみであるヴェンデッタを他の魔王と共に潰すなど有り得ない。


もしそんなことになれば、ヴェンデッタよりも先に魔王同士で殺し合うことになりかねない。


「我らの目的は四大魔王の各個撃破。だからこそ、最初に狙うのはトロメーアなんだよ」


「なるほどな…」


ビーチェを助ける為に現れた時には、突発的な戦闘に見えたが、実際はそれも計画の内だったのか。


「…随分と、四大魔王の性格を把握しているのね」


感心したようにビーチェは呟く。


先程の四大魔王の説明の時もそうだが、ヴェンデッタは四大魔王に非常に詳しい。


眷属の中にスパイを送っているとしても、詳し過ぎる。


「いや、実はこれ全部ボスの受け売りなんだけどねー」


「ボス…って言うと、ウェルギリウスか?」


純白の剣を持った男を思い出し、ネロは言う。


あまり口数の多い男では無かったが、多くの情報を知っているらしい。


「ああ見えてボスはオレっちとは比べ物にならない長生きでさ。四大魔王のこともよく知っているんだ」


「長生き?」


「噂では七百年は超えているらしいよ」


「七百…!」


悪魔なので見た目からは判断できないが、それが本当だとすればとんでもないことだ。


強靭な生命力を持つ悪魔に肉体的な寿命などないが、長生きできる悪魔は殆ど居ない。


弱肉強食で争いが絶えないこの魔界では、大抵の悪魔は二百年と経たずに殺される。


弱い悪魔はすぐに殺され、強い悪魔はより強い悪魔によって滅ぼされる。


三百年、四百年と生き続けるのは魔王に気に入られた眷属くらいであり、それでも五百年を超える者は魔王以外では聞いたことが無い。


七百年を生きるウェルギリウスは魔王の次に長生きな悪魔であると言っても過言では無いだろう。


「この千年の間に多くの悪魔達が魔王に叛逆を起こしたけど、その殆どにウェルギリウスが関わっているって言う噂だよ」


「………」


その全ては失敗に終わり、叛逆を企んだ者達は皆殺しにされた訳だが、ウェルギリウスは一人生き残って同じことを繰り返し続けた。


七百年以上も、魔王への憎悪を捨てずに。


ビーチェと同じなど、とんでもない。


彼の執念はビーチェなど遥かに上回る物だ。


「アリキーノ様ー!」


「うん?」


その時、通路の向こう側から手を振りながら少女が走ってきた。


どこか幼く見える顔立ちの少女だった。


モフモフとした長く柔らかそうな栗毛の髪。


背が低く、元気いっぱいの顔をしており、子犬のような雰囲気を持つ少女だ。


「おお、チリアット! ただいまー!」


「お帰りなさいませ!」


メイド服のような物に身を包んだ少女は、嬉しそうに笑みを浮かべた。


「お部屋に戻られますか? 既にお風呂とお食事の用意は出来ていますが?」


「ありがとー。この二人を案内したら、向かうよ」


「…あ、申し遅れました! 私はチリアットと申します!」


アリキーノに言われ気付いたのか、少女は自身の名を告げて頭を下げる。


「それでは私は部屋へ戻っていますね!」


「ああ、それと…」


「何でしょうか? アリキーノ様!」


足を止め、チリアットは振り返る。


首を傾げるチリアットに笑みを浮かべながら、アリキーノは言った。


「前にも言ったけど、オレっちに気を遣わなくても良いんだよ?」


「………」


「君がただ笑ってくれるだけで、オレっちは嬉しい。君は何もしなくていいんだ(・・・・・・・・・・)


「…そ」


その言葉に、チリアットは口を開く。


「そんな訳にはいきませんよ! 私はアリキーノ様に深い恩がありますから!」


早口でそう言うと、チリアットは去っていった。


それを可愛らしそうに見送りながら、アリキーノは笑う。


「今のは、使用人か何か?」


「いや、恋人」


「…は?」


アリキーノの言葉が信じられず、ビーチェは口をポカンと空ける。


「チリアットはオレっちの恋人さ。五人目のね」


「…悪魔って一夫多妻なんだな」


初めて知る情報にネロは素直に頷いた。


「いや、聞いたことないわよ。魔王とか強力な悪魔が女を侍らせるって言う噂なら聞いたことあるけど」


頭痛を抑えるように額に手を当てながら、ビーチェは言う。


その魔王の娘である自分だが、少なくともビーチェの知る限りはトロメーアは母以外の女に手を出してはいなかった。


もしかしたら知らない所で手を出していたのかもしれないが。


「オレっちって結構モテるんだよ? 知らなかった?」


平然と、アリキーノはそんなことを言った。

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