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悪の嚢  作者: 髪槍夜昼
第一圏 トロメーア
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第二十話


四大魔王の支配から逃れた中立地帯ディーテ。


下層に降りる程に魔素が濃くなり、危険度が高くなると言われるこの都市にて。


下層より更に下。


地下に潜った先にある最下層。


そこに、ヴェンデッタの本拠地は存在した。


「…まさか、ディーテの地下にこんな場所があるなんて」


案内された本拠地に足を踏み入れ、ビーチェは呟く。


コンクリートの壁や天井に覆われた地下空間。


電灯代わりの魔道具が明かりを灯し、周囲を照らしている。


「ようこそ、我らのヴェンデッタへ」


歓迎するようにアリキーノは両手を広げた。


「ハグするかい? オレっちはどちらでも構わないよ?」


「遠慮しておく」


「………」


アリキーノの軽口にネロは拒否し、ビーチェは拒絶の言葉すら発さなかった。


二人の冷めた反応にアリキーノはつまらなそうに口を尖らせる。


「ノリ悪いなー……まあいいや」


気を取り直し、アリキーノは手を叩いた。


「それは置いておくとして、二人はヴェンデッタに入ってくれる、と言うことで良いんだね?」


アリキーノは確認するように二人の顔を見つめる。


ここまで来たと言うことは、そう言うことだ。


戦力として欲しい人材であるネロとビーチェ。


彼らがヴァンデッタに入ると言うのなら有り難い。


「あなた達と私の利害は一致しているわ。だとするなら、協力を拒む理由はない」


ビーチェはアリキーノの目を見つめながら告げる。


「四大魔王の打倒と言うあなた方の目的が嘘偽りでなければ、の話だけど」


嘘は許さない、と言うようにビーチェはアリキーノを睨む。


魔王の打倒はビーチェの悲願だ。


例えどれだけ困難なことだとしても、諦めるつもりは無い。


だが、それが本来不可能であることは誰よりも理解している。


だからこそ、ビーチェはアリキーノ達の意思を探っているのだ。


ヴェンデッタと言う組織は、どこまで本気なのかと。


「その点については心配要らない。オレ達の誰もが、本気で四大魔王の打倒を願っている」


そう言ってアリキーノは周囲に目を向けた。


地下空間に存在する悪魔は、全部で二十数名。


三十にも満たない悪魔達。


それがヴェンデッタの全てだった。


四大魔王のどの眷属よりも数が少ないだろうが、彼らの目に一切の偽りは無い。


全てのメンバーの目に強い意思が宿っている。


魔王をこの手で倒すと言う意思が。


「オレ達は皆、魔王に『大切な物』を奪われている。家族だったり、恋人だったり、それは様々だが、奴らのせいで生まれた悲劇であることは変わらない」


彼らは弱者だった。


魔王と言う圧倒的強者によって全てを奪われた者達だった。


理不尽に怒り、不条理を憎んだ彼らは、やがて一人の男によって集められた。


復讐ヴェンデッタだ」


男、ウェルギリウスは告げた。


この組織ヴェンデッタを率いるリーダーは言う。


「俺は四大魔王を滅ぼす。奴らに奪われた物を全て取り戻す」


純白の剣を掲げ、ウェルギリウスは宣言した。


それは決意ではなく、宣告だった。


迷いもなく、恐れもなく、ウェルギリウスは魔王を倒すと誓う。


その誓いに魅せられたからこそ、彼らは復讐を望んだ。


諦めることなく、四大魔王と戦うことを誓ったのだ。


「………」


ビーチェが彼らの雰囲気に圧倒される隣で、ネロはウェルギリウスを眺めていた。


彼の握る純白の剣。


まるで、塩の柱を削って作ったかのような白一色の剣。


アレを見ていると、何だか心がざわめく。


トロメーアと戦っていた時以上に、アレが恐ろしい。


あの剣は死神の鎌だ。


形を持った死そのものだ。


(トロメーアを殺したのも、あの剣らしいな…)


だとすれば、あの剣こそがウェルギリウスの魔爪。


魔王すら殺す剣が、彼の能力なのだろうか。


それならば、四大魔王を倒すと言う彼の誓いも大言壮語とは思えない。


ウェルギリウスは確かに魔王を殺す力を持つのだから。








「四大魔王。世界の四方を支配する四人の魔王。それが、オレっち達の敵だ」


アリキーノはコンクリートの壁に黒いチョークで文字を書いていく。


「まずは西方。魔王トロメーア」


壁にトロメーアの名が書かれた。


「特徴としては強欲で気まぐれ。常に新しい刺激に飢えており、興味を持った物、欲した物は必ず手に入れなければ気が済まない」


退屈を嫌い、未知を愛する魔王。


己の欲望に忠実と言う意味では、一番悪魔らしい魔王だ。


「眷属は強い実力や珍しい能力を持った悪魔達。悪魔同士の弱肉強食をより激化したような場所だな。常に他者を蹴落とし、より強い力を得ることしか考えていない」


仲間意識など皆無。


眷属同士の殺し合いなど日常茶飯事。


その頂点に立つ筈のトロメーアは仲間割れをむしろ推奨しており、彼らが騙し合い、殺し合う姿を見て愉しんでいる。


「…魔王の眷属って、想像していたよりも酷い物だな」


ネロは思わず呟いた。


バルバリッチャと言う悪魔は、己が魔王の眷属であることを誇示するような態度だったが、その実態はトロメーアの奴隷に過ぎなかったのだ。


「次が南方。魔王アンテノーラ」


赤いチョークを取り出し、アリキーノは新たな名前を壁に書く。


「特徴としては眷属への愛情が深く、排他的。自分と眷属以外に無関心で、ただひたすらに眷属に囲まれて暮らすことを望む魔王」


「…?」


ビーチェは首を傾げた。


言葉だけ聞けば、そこまで危険な存在には思えなかった。


少なくとも、トロメーアのように他の悪魔達を苦しめたり、眷属達を痛めつけたりすることを愉しんでいる訳では無いのだから。


「意外と、まともな魔王も居るのね」


「…いや」


ビーチェの言葉に、アリキーノは否定を口にした。


「まともな奴は魔王なんて呼ばれない。四大魔王に、狂ってない奴なんて居る筈が無いだろう?」


その言葉は、今までのアリキーノとは思えない程に冷淡だった。


僅かに宿る怒り、悲しみ。


もしかしたら、その魔王こそがアリキーノの…


「…さて、次は東方。魔王ジュデッカ」


緑のチョークを取り出し、その名前を壁に書く。


「特徴としては失われた技術に強い関心を抱いている。千年前の大戦で滅んだ人間の科学を、魔力で再現することに執着している魔王だ。あらゆる魔道具は奴の生み出した作品だな」


電気を初めとする様々な科学技術が滅び、獣同然の生活を送っていた悪魔達に魔道具を与え、今の世界を築いた存在だ。


ある意味では悪魔達を救った存在であるが、彼自身にその自覚も意志も無い。


「奴は自分と自分の開発した物以外は何者も信じない。口から出る言葉は全て偽りであり、本心では他の魔王のことも邪魔だと思っている」


彼にとって大切なのは物を開発することであり、それ以外には全て興味が無いのだ。


むしろ、己の開発の邪魔と成り得る他の魔王のことを内心嫌っている。


「どいつもこいつもろくでもないな」


「そう言うこと。だからこそ、オレ達は四大魔王の打倒を決意した」


言いながら、アリキーノは壁に書かれた文字を消していく。


それを見て、ビーチェは口を開いた。


「…四大魔王、なのよね。あと一人は?」


そう、ビーチェの疑問は尤もだった。


アリキーノは四大魔王の内、三人しか説明していない。


四人目の魔王は、一体どんな存在なのか。


「…残る一人は、魔王カイーナ」


「魔王、カイーナ」


「それはやはり、北方を支配する魔王なのか?」


ネロはアリキーノの顔を見ながら言う。


トロメーアが西方。アンテノーラが南方。ジュデッカが東方。


だとすれば、残るのは北方の筈だ。


「…その筈だよ」


「筈?」


「分からないんだ」


アリキーノは小さく息を吐いた。


「魔王は皆、己の支配する領地に本拠地を持つ。自身と眷属が暮らす住処だ。だけど…北方に魔王カイーナの本拠地は存在しない」


そこに在る筈の本拠地が存在しない。


それは異常なことだった。


「と言うより、大戦から千年間、魔王カイーナを目撃した者は一人も居ない。奴がどこで暮らし、何をしているのか、それを知る者は他の魔王以外誰も居ないんだよ」


千年以上も目撃されていない魔王。


四大魔王の一人として、世界を破壊した記録のみが残り、実物は誰も見たことが無い存在。


正体不明の魔王。


それが、魔王カイーナだった。

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