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悪の嚢  作者: 髪槍夜昼
第一圏 トロメーア
19/79

第十九話


「あああああああああああああァァァァァー!?」


絶叫。


怒り。焦り。痛み。驚き。


多くの感情が混ざり合ったような叫び。


「やりやがった! やりやがったなァァ! よくも、よくもォ…!」


喉を枯らす程に叫び続けるのは一人の男。


全身を包帯で覆い尽くしたミイラの如き男。


を殺しやがったなァァァァァ!」


それは、トロメーアだった。


ウェルギリウスの手によって、一度殺された魔王。


その死より蘇ったトロメーアは、味わった死の感触に絶叫する。


体が総毛立つような悍ましい感覚。


緩やかに全身から熱が消えていく恐怖。


それを全て思い出し、身を震わせるトロメーア。


「………」


一頻り叫び続けると、トロメーアは唐突に黙り込んだ。


大声で叫んで気が晴れたのか、表情に冷静さが戻る。


「まさか。まさか、この俺が殺されるとは! 年甲斐もなく泣き叫んでしまったでは無いか!」


トロメーアは包帯が巻かれた自身の体を見下ろす。


その体は五体満足で、包帯の下には傷一つ無い。


いや、そもそもトロメーアの遺体は未だにディーテに転がったままだ。


ならば、ここに居るトロメーアは一体何なのか。


確かに殺された筈なのに、フレジェトンタの自室で目覚めたこの男は。


「…新鮮!」


つい一分前まで怒り狂っていたと言うのに、トロメーアは笑みを浮かべた。


躁鬱病のような気分の急変化。


死の恐怖も、命を奪われる苦痛も、確か存在するが、それはそれとしてこの未知なる感覚が楽しくて仕方が無い。


「痛みも苦しみもたまには良い物だ! 己が生きていると実感できる!」


そうと決まれば、再びコレを味わおう。


苦痛も恐怖も、飽きるまで味わい続けたい。


狂気に満ちたことを考え、トロメーアはほくそ笑んだ。


「…!」


その時、トロメーアは自室の片隅で光る魔道具に気付いた。


幾つものボタンがびっしりと付いた黒い機械。


それが何なのか思い出し、トロメーアは露骨に機嫌を悪くした。


「チッ」


のそのそと歩き、光っているボタンを押す。


すると、魔道具に付いたライトから虚空に映像が映し出された。


『おお、通信が繋がったようですね』


映像が荒く、相手の顔はよく見えない。


だが、その声から若い男だと言うことは分かった。


『無事で何より。怪我を負ったと聞き、心配しておりました』


「…ジュデッカか」


常に浮かべている笑みすらやめ、トロメーアは苛立ちを隠そうともしない。


通信相手は、トロメーアと同じ魔王。


四大魔王の一人、ジュデッカだ。


「相変わらず耳の早いことだなァ。俺に盗聴器でも付けているのか?」


『ははは。確かに、私は人間の科学を魔力で再現することをライフワークとしていますが、そんな物は作ってませんよ』


「………」


冗談と思ったのか、ジュデッカは笑いながら否定したが、トロメーアは信用しなかった。


この男なら盗聴器を仕掛けるくらいは平気でやる。


以前ジュデッカから渡されたこの通信機自体に内蔵されていても不思議ではない。


『それで? 何で私にまで通信したのよ』


チカチカと最初とは別の部分が光り、今度は若い女の声が聞こえた。


『次の定例会までにはまだ時間があるわよ。私、これでも割と忙しいのだけど』


『まあまあ、そう言わずに。アンテノーラさん』


宥めるようにジュデッカは言う。


アンテノーラ。この女もまた四大魔王の一人だ。


この通信は魔王同士が連絡を取り合う為にジュデッカが開発した物。


魔王並みの魔力を持つ者でなければ使うことが出来ない特別製だ。


『これはあなたにも無関係な話では無いのですよ』


そう言って、ジュデッカは告げた。


『ヴェンデッタ、と言う組織についてです』


『…ヴェンデッタ? 知らないわね』


『そうですか……トロメーアさんはよくご存じなのでは?』


そのジュデッカの皮肉に、トロメーアの眉がぴくりと動く。


「…四大魔王の打倒を目的としている組織だ」


『四大魔王の…? でも、所詮は眷属でも無い下級悪魔達でしょ?』


呆れたようにアンテノーラは言った。


魔王の打倒を望む悪魔の組織など、今までに腐る程いた。


魔王の眷属でも無い悪魔達など、何十人集まろうと脅威とは思えないのだろう。


『それがですねぇ。どうも、今回はいつもと毛色が違うようなのですよ』


深刻なのか、軽いのか、よく分からない調子でジュデッカは告げる。


『ウチの眷属も何人か殺られてますし、トロメーアさんに至っては一度殺されてますからね』


『トロメーアが? 下級悪魔なんかに?』


その言葉には流石に驚いたのか、アンテノーラの声色が変わった。


我の強い魔王同士、仲が良いとは言えないが、付き合い自体は長い。


直接戦ったことも一度や二度ではない。


トロメーアの実力をよく理解しているからこそ、アンテノーラの驚きは大きかった。


『気を付けておいた方が良いでしょう。千年来の友を失いたくは無いですからねぇ』


『誰が友よ。そんなことより、いっそさっさと潰してしまった方が良くない?』


嘘臭いジュデッカの言葉を流しながら、アンテノーラは言った。


気を付ける、なんて消極的な考えではなく、目障りならばさっさと始末しようと言う考えだ。


『何だったら、私の眷属に…』


「…いや、アレは俺の物だ」


アンテノーラの言葉を遮り、トロメーアは口を開いた。


「久しぶりに愉しくなりそうなんだよォ! 俺から、愉しみを奪うな…!」


殺気すら放ちながらトロメーアは叫ぶ。


トロメーアは強欲の魔王。


欲した物は必ず手に入れなければ気が済まず、それを邪魔する者は誰であろうと排除する。


例え同じ魔王相手でも、平気で殺そうとするだろう。


『…やれやれ、そんなに言うなら好きにすれば? 私は別に興味ないし』


ため息をつきながらアンテノーラは言う。


『私は私の可愛い眷属達と愉しく暮らせればそれで良いの。新しい物なんて必要ない。何年も何十年も何百年も、いつまでも』


それはトロメーアとは真逆の考えだった。


飽きっぽく、未知や新鮮さを好むトロメーアとは異なり、アンテノーラは変化の無い日々を好む。


自分と眷属だけで世界が完結している。


だからこそ、それを邪魔しない限りはヴァンデッタなどに興味が無いのだろう。


『それではヴェンデッタの対処は、トロメーアさんにお任せしますよ』


会話を締めるようにジュデッカは言った。


『くれぐれも、お気をつけて』

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