第三巻
プロローグ
「特別措置法第三十二条に基づきぃ、緊急事態宣言を発令いたしますぅ。」
「き・・・・緊急事態宣言・・・・」
ここはギルド。
かつてないほどの危機に演奏者が全員集められた。
よく見ると、演奏者だけではなく、町長などの役所の人もいる。
そう、今回はマジなほうで緊急事態である。
なんせ、魔王が直々に攻めてきたのだから。
「ヒトシ、なんか策はある?」
「残念ながら無い。この街では、とても守り切れない。」
「勝つ方法はないの!?」
「あなたは魔王の幹部を2人も倒したスイタヒトシでしょ!」
「なんと言われても無理なものは無理だ!」
「そんな・・・・。」
「魔王軍に負ければ皆殺しよ!」
「・・・・みんな、聞いてくれ。」
第一章 開戦
1
その日は変にすがすがしい朝だった。
「おはようアーブル、よく眠れたかい?」
「それどころじゃないよ!魔王軍の襲来情報だよ!」
「何ィ!?」
ポッザから魔王が直々に攻めてくることは聞いたが、まさかと思って本気にしていなかった。
「先鋒が魔王軍七幹部の筆頭・ルート、中軍に魔王、そして後軍に魔王軍七幹部の一人・メジャーよ。」
「・・・・魔王軍七幹部っていうくらいだから幹部は七人いるんだろ?少なくね?」
「どうやら、残りの幹部で王都への攻撃も続けてるみたい。まあ、国境にはシールドがあるんだけどね。」
「そんなことより、早くギルドに行きましょう!みんな待ってるわよ!」
2
ギルドにいくと、みんなが集まっていた。
演奏者だけではなく、町長などの役所の人もいる。
だれもが不安を隠しきれないようだ。
そりゃそうだ。誰だって怖い。
なんたって、魔王自ら攻めてきたのだから。
「あっ!スイタさん!お待ちしてました!魔王軍の襲来ですよ!それも魔王直々の!」
「ああ、聞きました。現在の状況は?」
「ルート率いる先鋒隊はすでに例の古城へ到着し、魔王率いる中軍は現在こっちに向かって進軍中。予想では、もうすぐ着くかと。」
「なるほど・・・・。」
「なんとか勝つ方法はないですかね?」
「・・・・ないですね。」
「そんな!」
「こんな小さな町ではとても防ぎきれません。」
「しかし・・・・」
「ヒトシ!なんか策はないの!?」
「皆殺しよ!」
「・・・・みんな、聞いてくれ。」
「何?」
「勝つことは無理だが、皆殺しは避ける策はある。」
「どういうこと?」
「逃げるんだ。」
「どうやって?」
「テレポートで街の住人全員を王都へ逃がす。」
「でも、街の住人全員となると、時間がかかるし、テレポートする人は残ってしまうわよ。」
「だから、俺もこの策はどうかと思うんだが・・・・。安全に逃げるためにはこれしかない。」
「でも・・・・」
「その役目、買った!」
大声で言ったのは、スキル屋の爺さん。
「で、でも爺さん、あんただけ取り残されるんだぞ!?」
「魔王軍など恐れはせん!それよりも、わしがテレポートの準備を終わらせるまでの時間稼ぎを頼む。」
「どのくらい?」
「そうよなあ・・・・一時間は欲しいな。なんせ、大人数をテレポートするのでなあ。」
「一時間か、分かった。任せとけ!」
「みんなー!聞いてくれ!」
俺が大声で呼びかけると、みんながこっちを向いた。
「作戦を発表する。まず我々演奏者は全力で魔王軍を防いで時間稼ぎをする。その間に役所の人たちは、住民を全員集めて、行政金を全員に分け与えろ。」
「行政金を分け与えるぅ!?」
「そうだ。どうせこの街はなくなるんだから。」
「この街はなくなるぅ!?」
「そうだ。住民には持ち物をすべて持ってこいと伝えろ。」
「わ、分かりましたぁ。」
「よし、作戦開始だ。演奏者は国境に集合!」
3
街の人全員を巻き込んだ壮大な防衛作戦は始まった。
演奏者は続々と国境に集まり、住民も続々とギルドに集まってきた。
「魔王軍の襲来だ!」
誰かが叫んだ。
国境の向こうを見ると、砂埃と共に魔王軍が見えた。
「よし、俺の楽器ケースを真ん中に置いて、シールドを張ってくれ。」
「シールド!」
俺のケースはシールドを強化する優れものだ。
「あ、あれは・・・・」
「なに?」
「あの気色悪い兵、オークだわ。」
「オーク!?マジで!?興奮してきたぁ!」
「なにバカなこと言ってんのよ。奴らはエルフの一種だからめちゃめちゃ強いし、死を恐れないから超ヤバい敵よ。」
「うん、聞いたことはあったけどそうだろうな。」
やばいな、オーク。
と、そんなことを話しているうちに、魔王軍が近づいてきた。
しかしシールドがあり、オークの侵入を許さない。
「『アウェイキング』!」
俺は念を入れて、シールドに覚醒スキルをかけた。
よほどのことがなければ破れないだろう。
「ルート様!敵はシールドを張っています!」
「・・・・そうか。なら無理に攻める必要はない。魔王様がご到着されるまで守りを固めるのだ。」
「ははっ!」
「魔王様率いる中軍は『サタン・キャノン』を持ってきているという話だ。中軍が到着すればシールドを破るのもたやすいことだ。それに魔王軍の力を見せるにはちょうどいいだろう。」
「ルート様!中軍がご到着されました!」
「そうか!よし、丁寧にお迎えしろ。」
「はっ!」
「ヒトシ!偵察隊の報告によると、中軍が着いたって!」
「そうか、そろそろ正念場だ。」
第二章 到着
1
「王都より勅使が到着しました!」
それは、魔王の到着の報告とほぼ同時だった。
「反乱同盟軍提督、役職はバグパイプ、エルフのアミラルです。さっそくだが、この街の演奏者の総司令官にお会いしたい。」
総司令官と聞いたみんなは、全員俺のほうを向いた。
「・・・・お、俺!?」
「あんた以外誰よ。」
「分かったよ。ご使者、お役目ご苦労。私がこの街の演奏者の総司令官、スイタであります。」
「スイタ総司令官。作戦をお聞かせ願いたい。」
「テレポートで王都まで逃げる考えであります。」
「なんですと!?」
「ご使者、どうされましたか?」
「いや、私の役目は『テレポートで王都まで連れてくる』という指令を受けてましてね・・・・まさかそういう作戦で動かれているとは・・・・さすが噂通りのお方ですな。」
「そうでしたか。まあこの大軍に戦を仕掛ければ必敗ですからね。それより、アミラル提督、もしよければ我々の作戦に加わっていただきたいのですが・・・・」
「なんでしょう?」
2
「ヒトシ!大変!あれ見て!」
「どれ?」
「あの超でかい大砲!」
「・・・・なんだありゃ!?」
「サタン・キャノンだよ。」
声がした方を向くと、そこには魔王軍の諜報員・ポッザがいた。
「サタン・キャノンだと!?」
ざわ・・・・ざわ・・・・
「・・・・サタン・キャノンってなに?」
「魔王軍の最終兵器のひとつだ。こんなシールド、簡単に吹き飛んじまう。」
「それってまずいんじゃね?」
「超まずい。」
「ヒトシ、どうする?」
「よし、本命シールドの前にもう一つシールドを張れ。」
「分かった。」
「ポッザ、キャノンの充填にかかる時間は?」
「一発撃つのに十分かかる。」
「よし分かった。キャノンをつぶす。」
3
「シールドを二重にしておいて、一枚目で一発目を防げ。そして、放たれた瞬間から攻撃を開始する。」
「どうやってキャノンを破壊する気?」
「ギリギリまで近寄って、キャノンをぶっ壊す。乗り物はあるか?」
「ないね。」
「そうか・・・・。よし、飛ぶか。」
「は!?」
「え?」
「いや、飛ぶって何?」
「そこは任せとけ。ところでアーブル、シールドに抜け穴を作ってくれ。行ってキャノンをぶっ壊して帰ってくる。」
「抜け穴なら作れるけど・・・・ほんとに大丈夫?」
「任しとけって。この俺を誰だと思ってるんだ。それより二重のシールドはできたか?」
「うん、できたけど。」
「『アウェイキング』!よし、抜け穴も頼む。一発目がきたらすぐ行くから。」
俺はシールドに覚醒スキルをかけると、覚悟を決めた。
「一発目がくるぞぉー!」
すると、誰かが叫んだ。
同時に、向こうからものすごい爆音がきた。
これがサタン・キャノンか。
とんでもねえな。
「ヒトシ、一発目が終わったわ!」
「よし、じゃあ行ってくる!『アウェイキング』!」
俺は自らに覚醒スキルをかけると、ベルを下に向けて一発放った。
すると、俺の体は飛び上がり、結構な速度で前に進んだ。
「それで行くつもり!?」
「そうだよ。」
「バカじゃないの!?」
「こう見えても正常だ。」
俺はうまくバランスを取りながら、古城へ向かって行った。
「ルート様!申し上げます!前方より不安定な飛び方をする飛行物体が接近中です!」
「ほっとけ。キチガイの鳥かなんかだろ。」
「はっ。」
「そんなことより二発目の準備だ。まだシールドはあるらしいからな。」
「『エクスプロージョン』!」
ギリギリバレずに古城まで来た俺は、キャノンに向けて、渾身の一発を放ってやった。
別に呪文に意味はない。
キャノンは俺の一発を受けて粉々に砕け散った。
俺は、それを確認すると、またベルを下に向けて、飛んで帰った。
「ルート様!キャノンが破壊されました!」
「なんだと!?」
「どうしましょう?魔王様になんて言い訳します?」
「・・・・暴発したとお伝えしろ。」
「はっ!」
「ヒトシ!?どうだった?」
「ぶっ壊してきた。」
「飛行事故がなくてよかったわ。」
「さあ、サタン・キャノンがなくなった魔王軍はどうしてくると思う?ポッザ君。」
「は?」
「どうしてくると思う?」
「いや、俺に聞かれても。」
「なんでだよー!俺ら友達だろ?」
「ちげえよ。まあ、こうなったら魔王軍は全軍で攻めてくるだろうな。数はあっちが圧倒的に優位なんだから。」
「さすが魔王軍諜報隊だけあるな。よし、突撃に備えて準備だ。」
第三章 忍耐戦
1
「何ィ!?暴発だとぉ!?」
「申し訳ありません魔王様!」
「そうか・・・・。仕方ない、全軍に突撃命令を出せ。」
「突撃するのですか!?」
「ああ。数はこちらが圧倒的に優位だ。シールドさえ破壊できれば、あとは勝つまでだ。」
「どうやってシールドを破壊しましょうか。」
「オークどもをとりあえずぶつけろ。適当にな。大概はシールドによって死ぬだろうが、少しはすり抜けるだろう。そのうち第二部隊を行かせる。」
「はっ。」
「魔王軍だ!」
誰かが叫んだ。
確かに、砂埃と共に、オークどもが走ってきてるのが見える。
「どうする?戦う?」
「我々の目的は時間稼ぎだ。無理に戦う必要はない。守りを固めるんだ。」
「分かった。」
「守りを固めろー!」
オークどもはシールドに構わず進んできて、シールドの餌食になっていた。
「死も恐れないのか・・・・」
「だから言ったじゃない。」
やべえな、オーク。
そのうちに、シールドをなんとかすり抜けたオークがこっちに向かってきた。
「任せろ!」
コールが即仕留めたが、オークどもはだんだんとシールドをすり抜けてきやがる。
「まずいな・・・・、だんだんとシールドの力が薄れてるのかな・・・・」
「そうかもね。長時間張ってるし。」
「『アウェイキング』!」
俺はもう一度、シールドに覚醒スキルをかけた。
「みんな!すり抜けてくるやつを仕留めてくれ!街には一歩も入れるな!」
「ヒトシ、まずいわ。魔王軍の第二部隊よ。」
2
「第二部隊?」
「シールドに穴をあけたりするののプロフェッショナル部隊よ。」
「まずいな。」
「どうする?」
「誰か第二部隊を倒してくれ!」
「ここは私が!」
「アミラル提督、お願いします!」
「『レーゲン』!」
提督は、手を空にかざすと、呪文を唱えた。
すると、ぽつぽつと雨が降ってきた。
「では続いて『ホッホヴァッサー』!」
すると、シールドの向こう側で洪水が起き、オークや第二部隊などが押し流された。
3
「いかがですかな?」
「さすが提督殿。」
「ところで、爺さんの様子はどうだ?」
「あと二十分。」
「分かった。じゃあどうするかな・・・・。」
「どうせ俺に聞くんだろ?正面突破もダメだったら魔王軍はどうするかを。」
「分かってるじゃないかポッザ君。どう思う?」
「うーん・・・・」
「ありったけの爆弾を使え。シールドを破壊するのだ。遠くから爆弾を投げてシールドにダメージを加え続けろ。」
「はっ!」
「爆弾・・・・?」
「おそらくな。」
「ほう。」
「魔王軍は大量に爆弾を持ってきてる。その数は千個はあるだろう。」
「分かった。対策を考えよう。」
第四章 我が町ラタトール最後の日
1
その日は、日本晴れだった。
いや、ここは日本ではないからそうは言わないか。
その日は、我が町ラタトール最後の日であった。
ラタトール随一の楽器屋でマッピを買ったり、スキル屋でぼったくられたり、表彰されたり、家を借りたり。
思えば、この街ではいろいろあった。
この街で過ごすのも、今日が最後だ。
みんながそうだ。
「はぁー、全然対策思いつかねえな。」
「対策も何も、シールドが持つか持たないかの問題だからね。」
「うーん・・・・、コール、どう思う?」
「持ってもギリギリだな。」
「そうだよなあ・・・・。爺さん、どう?」
「あと十五分待ってくれ!」
「ずいぶん長いんだな。」
「何しろ大人数だからな。」
「あと十五分だ。十五分シールドが持つかだ。」
2
「魔王軍だ!」
誰かが叫んだ。
見ると、奴らは遠くから爆弾を投げてきてるようだった。
「スイタ総司令官。いいアイデアを思いつきました。」
「なんでしょうアミラル提督。」
「シールドに細工をさせてください。」
「おい、これは何事だ!?」
「シールドに爆弾を投げると、跳ね返ってくるんです!」
「何ィ!?」
「なので、爆弾により、味方の被害は甚大です!」
「くそー!」
「仕方がない、わしが直々に攻めるか。」
「魔王様直々に!?」
「ああ、全軍ついてまいれ。」
「はっ。」
「シールドに跳ね返りの作用をつけたのです。こうすれば僕弾が跳ね返って奴らのほうで爆発する。」
「おお!さすが提督殿!」
「た、大変だ!魔王だ!」
「!?」
「魔王だと!?」
「シールドは持つかな?」
「持つわけないでしょう!魔王の前にはそんなもの通用しないわよ!」
3
「爺さんどうだ?」
「・・・・いいだろう。」
「よし、全員テレポートの準備!」
演奏者、一般人、役人・・・・みんなで奏法陣に乗った。
「爺さん、今までありがとうな。」
「おう!必ず魔王を倒してくれよ!」
「爺さん・・・・」
「さらばだヒトシ少年。」
「爺さーん!」
「『テレポート』!」
そして、白い光に包まれ、着いたのは賑やかな都会。
王都だ。
「一般人の皆さんはラタトール難民用キャンプへ、演奏者の方はギルドにて所属ギルドの変更を行ってください。」
「難民キャンプ?」
「ええ。急ピッチで用意しました。」
「難民キャンプか・・・・。」
「俺ら、難民になったのか・・・・。」
俺はギルドへ所属ギルドの変更をしに行こうと、歩き出した。
すると・・・・
「あれ?スイタさん?何処へ行かれるんですか?」
「いや、所属ギルドの変更に行こうと思いまして。」
「そんなことしなくてもいいでしょう。演奏者はおやめになればいい。」
「え?」
「実は私はもう一つ指令を受けてましてね・・・・。」
「なんですか?」
「あなたを、反乱同盟軍へ勧誘することです。」
「・・・・え?」
エピローグ①
「もぬけのからだと!?」
「はい。どうやら敵はテレポートを使ったようです。」
「そうか・・・・最初からそれが目的であったか・・・・。」
「魔王様!テレポートを行ったと思われる老人を発見しました!」
「よし、ここへ連れてこい。」
「・・・・魔王!」
「久しぶりだな、魔王大戦以来か。」
「・・・・殺してやる!」
「お前がテレポートを行ったんだな?」
「お前には何も言わん!」
「ふっ、頑固なじじいよ・・・・。誰か、わしの剣を持て。」
「どうぞ。」
「その勇気に免じ、わしが直々に処刑してやる。」
ズバッ!
「おい、誰か死体を片付けておけ。」
「はっ。」
「ここはメジャーに守らせ、我々は魔王城へ撤退だ。」
「はっ。」
「・・・・あと、諜報員の中に裏切者がいるという情報が入った。見つけ次第殺せ。」
「はっ。」
エピローグ②
「ツイン将軍、連れてまいりました。」
「ほう。」
「スイタヒトシです。」
「君は、ラタトールで魔王の幹部を二人も破り、見事な撤退作戦を指揮した男だな。」
「いやあ、たいしたことないですよ。」
「ご謙遜あるな。あなたの噂はこの王都にまで届いていましたぞ。」
「そうですか。」
「あなたのような方が味方に加わっていただけて、誠に嬉しい。魔王討伐に一歩近づいたようなものだ。」
「魔王討伐・・・・。」
「ようこそ、反乱同盟軍へ。」
ヒトシたちの大いなる冒険は続く・・・・