第二巻
プロローグ
「・・・・お前は何者だ。」
見えるのは黒ずくめの男が一人。
「スイタヒトシだな。お前を探していた。」
「俺を探していた!?」
「俺は魔王軍諜報員・ポッザだ。」
「ま、魔王軍だと!?」
俺はとっさに腰につけてあるポーチに手を伸ばした。
「無駄なことはするな。そのポーチの中はマウスピースだろ?」
「くっ・・・・」
魔王軍の諜報員に追われるとは、俺も有名になったもんだ。
ピンチだけど。
「お前のことは調べ上げた。お前は音楽の神・サウンドによってこの世界に連れてこられた異世界人だろ?」
「なっ・・・・なぜそれを!?」
「俺はプロだ。そのくらい簡単に調べられる。」
「・・・・そうか。何が望みだ?」
「・・・・。」
第一章 家を借りる
1
ああ、それにしても金が欲しいっ・・・・。
あの後、コールから金を取り返した俺は、一万拍、日本円にして一千万円という大金をゲットしたが、延滞していた宿代や、コールに借りていた借金を返し、慈善団体に寄付したり、みんなで飲みに行って奢ってやったり、お手入れ用品などをいっぱい買ったり、ギャンブルしたりしているうちに思えば残りは百拍。
「ねえヒトシ。」
「なんだマレーズ。また新しい小瓶が欲しいのか?」
「じゃなくて、私たちのパーティの出費を計算してみたら、宿代と、ヒトシのギャンブル代がすごいことになってたのよ。」
「ああー、ギャンブル代ね。ギャンブルはもうやめたの。勝てないから。」
「それはよかった。それでね、宿代なんだけど・・・・」
「うん。」
「思い切ってさ。家を借りない?」
「・・・・ずいぶん思い切ったね。」
「ちょうど安い家を見つけたのよ。ほらこれ」
渡された紙には、いかにも雰囲気ある洋館の写真と、あり得ないくらい安い家賃が書かれていた。
「いやおかしいだろこれ!この雰囲気!この家賃!明らかに事故物件だろ!」
「いいじゃない事故物件。」
「ヤだよ!霊とか出たらどうすんの!?」
「・・・・美人なお姉さんの霊だったら?」
「話だけでも聞いてみるとするか。」
2
「ええ、こちらの建物は築十八年で、お手頃な値段、いい物件ですよ?」
「まさかとは思いますが事故物件じゃないでしょうね?」
「え?いやいや、そんなまさか・・・・」
「絶対嘘やろ」
「ちなみになぜ亡くなられたのですか?」
「違うんです!誰も亡くなってはないんです!なのになぜこんなに安いかというと・・・・」
「『国境付近だから』ですよね。」
ずっと家の場所の地図を見ていたアーブルが、急に言った。
「アーブル、どういうことだ?」
「国境付近てことは、魔王軍とかが攻めてきたとき、一番危ないとこなのよ。だから、きっと借り手がいないんだわ。」
「なるほど。」
「そうなんです!」
「そうか・・・・まあ魔王軍が攻めてきても俺らなら何とかなりそうだもんな。」
「ええ、実際には国境から五百メートルは離れてますから!ええ!」
「よさそうじゃん」
「見に行ってみますか?」
「そうだな。実際に見てみたい。」
「・・・・なんかやっぱり雰囲気あるな。」
「カッコいいじゃない。」
「掃除はすでに済んでおりますので快適に暮らしていただけますよ。」
「さあ中に入ってみましょう!」
中は結構広く、リビングとキッチン、そして個室が4つあった。
「ひと部屋開くな。」
「そうね。」
「よし、借りよう。」
「おありがとうございます。」
3
俺らはさっそくこの家に引っ越し、これから何を買うかなどを話していた。
「ねえねえ、私ソファーが欲しいんだけど」
「庭にプール作ろうよ!金持ち感出るよ?」
「俺泳げないからヤダ。なあ、そんなことよりさ・・・・」
「何?」
「トイレどこ?」
「どうやら前に住んでた人はトイレに行かない種族だったんだって。だからないらしい。」
「ふざけんなよ!」
「外ですれば?」
「ふざけんなよ!」
「ギルドの借りてくれば?」
「そうする」
俺は、ダッシュでギルドに向かって走っていった。
そう、トイレのために。
4
急ピッチでトイレを設置してもらい、安心して飲み物が飲めるようになって二週間。
俺はコールの家に遊びに行っていた。
「あー、やっぱ午前に飲む紅茶は格別だな!」
「なあヒトシ、国境近くに家を借りたらしいがどうよ?」
「ああ、快適快適超快適。毎日がワンダフルライフさ。」
「え?」
「まあ、別に不自由なく暮らしてる。」
「どうやらこの街に魔王軍の諜報員が入れられたらしいが、見てないか?」
「見てないよ。てか、国境からは五百メートルも離れてるし。」
「そうか・・・・。狙いはお前かもしれないから、気をつけろよ。」
「ダイジョブダイジョブ。安心しろ。」
俺がその魔王軍の諜報員に捕まったのは、今日の午後だった。
第二章 魔王軍諜報員
1
俺はその日の午後、ギルドでちょっと遅めの昼飯を食っていた。
ふと端の席を見ると、そこには黒ずくめの見慣れない男がいた。
いかにも怪しいが、別に俺の知ったこっちゃない。
俺は食い終わって会計を済ませると、ギルドを出て言った。
すると、例の男が俺に声をかけていた。
「スイタヒトシさんですね?私、ポッザというものです。あなたにお話があります。」
「俺に話・・・・ですか。」
「ええ、誰かに聞かれたくないので、できれば私のホテルの部屋に来ていただきたいのですが・・・・」
「ほう・・・・」
ここで行くのは危険だ。
しかし、虎穴に入らずんば虎子を得ずと言う。
「分かりました。ご一緒しましょう。」
ここはあえて行ってみよう。
いざとなれば腰のポーチにはあのライトセーバーになるマッピが入っている。
少しでもおかしなそぶりが見えたらその場で切る。
そして、俺は緊張しながらその男についていった。
2
そして、俺はこのザマだ。
「・・・・そうか。何が望みだ?」
「・・・・別に何も望んではいない。俺は確かに魔王軍の諜報員だが、お前の敵ではない。」
「どういうことだ。」
「俺は生きるために魔王軍に入った。第一次魔王大戦を見れば、どちらが強いかは一目瞭然だった。だから俺は生き残るために魔王軍に入った。」
「ほう。」
「しかし、お前を見て考えが変わった。」
「どういうことだ?」
「人間が勝つ可能性もあるということだ。」
「・・・・何が言いたい?」
「今、この街にはコードに代わり、魔王軍七幹部の一人、スケールが向かっている。スケールは一度に八つの音を出す『音階奏法』の使い手で、やつの弱点は・・・・。」
「なぜそんなことを教えてくれるんだ?」
「スイタヒトシ、勘違いするな。俺は万が一人間が勝った時のために、人間に恩を売っておこうと思っただけだ。じゃあ、俺は魔王城に帰る。魔王様に報告せねばならんからな。お前のことを。」
「・・・・そうか。気をつけて帰れ。」
・・・・虎子を得た
3
「・・・・と、こういうことがあったんだ。」
「ほうほう、魔王軍の諜報員と接触したと」
俺は今日起きたことをアーブルに話していた。
「スケールねぇ・・・・」
「アーブル、知ってるか?」
「うーん、確か冷酷無情で、知力も高い策士だった気が・・・・」
すると、マレーズがホラー映画の効果音のバイトから帰ってきた。
「ただいま!今日は面白かったわよ!井戸から幽霊が出てくるシーン!」
「なあマレーズ、魔王軍七幹部の一人、スケールって知ってるか?」
「スケール!?」
マレーズがその名前を聞いて異常な反応を見せた。
「マレーズ、知ってるのか?」
「忘れもしないわ。なんたってヤツは、私からすべてを奪ったんだから・・・・」
「!?」
「私の過去をまだ話してなかったわね。」
「マ、マレーズ?」
「・・・・かつて、私の故郷の村は、とても平和だったわ・・・・。」
4
私たちは、貧しくも幸せな毎日を送っていた。
しかし、ある時、状況は一変した。
魔王軍が攻めてきたのよ。
小さな村だったため、戦うすべを持たなかった私たちは、ただ魔王軍に蹂躙されていた。
魔王軍は村人を虐殺していった。
私は、みんなを助けることもできず、隠れるだけで精いっぱいだった。
そして、両親が私の目の前で殺されたとき、私の中で何かが切れた。
そして、昔お母さんからもらったお守りを思い出したの。『自分の身に危険が迫った時に開けなさい』と言われて貰ったのよ。
私は、開けるのは今だと思い、それを開けてみた。
すると、そこには水の入った小瓶と、何かが書かれた紙が入っていた。
読むと、その紙には『押し入れの中の赤い箱を開けるべし』と書かれていた。
私は、奴らに気づかれないように押し入れに行き、中の赤い箱を開けると・・・・
そこには、ウォーターフォンが入っていた。
私は、赤い箱に入っていた説明書の通りに水を入れ、奴らに向かって弾いた。
すると、魔王軍の兵士が何人か倒れ、魔王軍は何事かとこっちを向いていた。
私は、立ち上がって、魔王軍のボスらしきやつに向かって歩いて行った。
そいつこそ、スケールだったのよ。
スケールは私を見ると、部下に命令を下した。
『あの女を捕らえろ。しかし殺すな。』と。
すると、魔王軍の一人が、私に煙を噴射してきた。
・・・・そして起きたら、私は魔王城にいた。
どうやら私は、ウォーターフォンが使えるということで、特殊戦闘員として使う気だったらしいの。
でも私は、両親を、村のみんなを殺した魔王軍のためなんかに戦う気は毛頭なくて、あるとき、同志たちと共に魔王城を脱走したのよ。
同志はどんどん殺されていって、最終的には私ともう一人の二人だけになってしまった。
そのもう一人は、自分がここで時間稼ぎをするから自分を置いて逃げてくれと言って、私を逃がしてくれた。
私は、ずっと一人で魔王軍から逃げられる場所を探した。
そして、ある時、この街のことを知った。
この小さな街なら、魔王軍も来ないだろうと思った。
5
・・・・そして、ヒトシに出会ったのよ。」
「そうだったのか。そんなことが・・・・。すまんな、辛い思い出を思い出させてしまって。」
「マールズ、共に村の人たちの仇を取るのよ。」
「ありがとうアーブル。」
「では、スケールを倒す作戦を考えよう。」
しかし、俺たちは知らなかった。
もうこの時、スケールは例の古城に着いていたのだ。
第三章 異変
1
俺たちは、いつものようにニセベートーベンの討伐に向かっていた。
スケール襲来に備えて少しでもレベルを上げておくのだ。
ちなみに俺は今レベル3だ。
そして俺らはいつもの草原へ来た。
俺が一発吹くと、奴らはわらわら集まってきた。
しかし・・・・
「なあマレーズ、なんかいつもより少なくね?」
「確かに、言われてみれば。」
とりあえず俺はやつらに一発放ってやると、いつもは性懲りもなく向かってくるニセベートーベンがなぜか逃げ出していく。
「え?逃げていく?」
「ふふっ。やっと私たちの強さが分かったみたいね。お利口さんじゃないの。」
「いやおかしいだろ!」
「たしかに、逃げていくなんて聞いたことがないね。」
「だから、やっと私たちの強さが分かったのよ。」
「アーブル、実は俺、昔やつらに負けそうになったことがあるんだ。まだ一人のときだったな。」
「ダサ」
「いや、あの頃はまだレベル1だったから!」
「今と大して変わらないじゃん。」
「うぐっ・・・・」
「それにしてもおかしいわね・・・・。ニセベートーベンが逃げ出すなんて。これは何かの前兆かも。」
2
「・・・・と、こういうわけなんだが、コールはどう考える?」
俺はコールの家で、事のいきさつを話していた。
「奇妙だね・・・・。全く奇妙な出来事だ。」
「ねえヒトシ、コール、これ見て!」
テューが何かを見つけたようだ。
「何?」
「ニセベートーベンの生態を調べてみたんだけど、『ニセベートーベンは危機察知能力が異常に高く、人間が気が付かない危機もニセベートーベンは気づいていることがよくある。そして、危機を察知したニセベートーベンは、逃げたり、信じられないほど強くなったりなどする。』だって。」
「ほう・・・・つまり人間では分からないような危機を察知しているということか・・・・」
「あ!」
「ヒトシ、どうした?」
「コール、至急例の古城と連絡を取りたい。」
「え?なんで急に?」
「いいから速く!」
「わ・・・・分かった。」
3
「ギルドに頼んで様子を見に行ってもらったが・・・・」
「そうか、ありがとう。」
「でもなんであの古城が気になったんだ?」
「魔王軍の幹部だよ。」
「へ?」
「もしかしたら、来てるかもしれない。」
「魔王軍の幹部がか?」
「ああ。魔王軍七幹部の一人、『音階奏法』を使いこなす冷酷無情な策士、スケールだよ。」
「なぜ?」
「俺に内部告発があってな。」
「な・・・・内部告発!?」
「ああ。でももしかしたら俺の気にしすぎかもしれないな。とりあえず様子を見に行った人たちの帰りを待とう。」
「遅いな・・・・」
「もうかれこれ四時間は経ったぞ。」
「これは、なにか異変があったと見るべきだな。」
「コール、城に行ってみよう。」
「そうだな。これはただ事ではない。」
「とりあえず、家に帰ってパーティメンバーを読んでくる。」
「分かった」
俺はコールの家を出ると、速足で自分の家に戻った。
第四章 決戦
1
「ねえヒトシ、なんで私たちも行かなきゃいけないの?」
「すまんなアーブル、万が一戦闘になったときのためだ。」
「私はいいよ?戦闘になればぶっつぶすまでだし。」
「マレーズ、冷静さを失うなよ。」
「分かってるって。」
「まあ、このラタトール随一のメロフォンの使い手・テューがいれば戦闘になっても安心だもんね。」
「おいヒトシ、城が見えてきたぞ!」
城には見慣れない旗が立っていた。
「やはり魔王軍は来ていたのか・・・・」
「きっとザコモンスターを脅かさず来たのね。」
「よし、ギルドに帰って報告し、対策を立てよう。」
俺たちは引き返そうと後ろを向くと、そこには魔王軍がいた。
「な、何ィ!?」
「コードはお前の策に引っかかり大敗したらしいが、今度はお前が我が策にかかったな、スイタヒトシ。」
「くっ・・・・、謀られたか!」
俺らは退路を断たれ、包囲されてしまった。
「ふっ、『策士、策に溺れる』とはこのことだな。」
「スケール!私を覚えているわね?」
「その声は・・・・特殊戦闘員No,36だな。まさかこの街にいたとはな。」
「あんたは私のすべてを奪った。今度は私が奪う番よ。」
「面白い、やってみろ!」
「『シュレッケン・トーン』!」
「『シールド』!」
マレーズの奏法はスケールの張ったシールドによって防がれてしまった。
「その程度か・・・・。全軍、あいつらを仕留めろ。スイタヒトシを仕留めたとあっては魔王様からの恩賞もさぞすごかろう。」
魔王軍兵が俺らに向かってきた。
俺らは懸命に戦うが多勢に無勢、このままでは、いずれ殺されるだろう。
特にスケールの攻撃は痛い。なんせ聞いていた通り、一度に八つの攻撃を打ってくるのだから。
仕方ない。
〝虎子〟を使うときが来たようだ。
「コール、これをスケールに撃ってくれ。たしかお前そういうスキル持ってたろ。」
「確かに俺は発砲奏法が使えるが・・・・なにこれ?」
「いいから早く!」
「わ、分かった。」
「何をする気だ!」
「『ゲヴェーア』!」
「『シールド』!・・・・うぐっ!」
コールが放ったそれは、張られたバリアを突き破り、スケールに命中した。
「音階を極めたお前の唯一の弱点・・・・それは『半音階』だ!」
「ヒ、ヒトシ・・・・あれ何?」
「『半音階石』という半音階の結晶だ。」
読者の皆さんにはいまいちピンとこないだろうが、この世界には『音の結晶』というものがある。
この『音の結晶』はピッチの正確さで値段が変わる。
これは結構ピッチが正確なほうなので、一個だけでも結構な値段した。
「うっ・・・・。魔王軍は・・・・不滅だ・・・・!」
そう言うと、スケールは灰になってしまった。
「魔王軍七幹部・スケールを討ち取ったり!」
「何!?」
「スケール様を!?」
「ザコども!それでもまだ戦うか?」
「・・・・魔王城へ退却!」
「よし、賢明な判断だ。」
しかし、俺らはスケールを甘く見ていた。
街に危険が迫っていたが、俺らはそうとも知らずに完全勝利ムードで街に向かっていた。
2
俺らが街に帰ると、なぜか街はあわだたしい雰囲気だった。
「おい?どうした?」
俺は通りかかった演奏者らしき人を捕まえて聞いてみた。
「どうしたもこうしたもねえ!魔王軍の襲来だ!」
「何ィ!?」
「しかも攻めてきてるのは魔王軍七幹部の一人・スケールだぞ!」
「そんなバカな!?」
「・・・・ヒトシはどうやらスケールを甘く見ていたようね。やはり私がやらないと・・・・」
「おい待てマレーズ!どこへ行く気だ!」
「私が、カタをつける。」
「マレーズ・・・・」
マレーズは一人、戦場へと向かった。
「ヒトシ!マレーズを止めないと!一人で行くのは危険よ!」
「どうせ止めても無駄だ。我々は隠れて行って後方支援をしよう。」
「でも・・・・」
「アーブル、安心しろ。マールズは俺より何倍も強い。」
「あんたと比べんの?」
「うるせぇ!行くぞ!」
我々はマールズを追って、走り出した。
3
「スケール・・・・。」
「特殊戦闘員No,36か。たった一人で向かってくるとは、命知らずにもほどがあろう。」
「あんたは・・・・あんたは・・・・両親も、友達も、そして平和て幸せだった日々も・・・・すべて奪った!」
「大義のためには犠牲もやむをえない。」
「大義?笑わせるわね。あんたたち魔王軍に大義なんてこれっぽっちもないでしょう!私欲のために虐殺と略奪を繰り返しているのよ!」
「それは違う。人類の現王・バッハ七世ではこの世界を治めるにふさわしくないとお考えになった魔王様が、この世界を救うために結成した義勇軍・それが魔王軍だ。」
「そんなの大義でもなんでもないわ!魔王軍によってたくさんの人が苦しめられているのだから!」
「これ以上は何を話しても無駄だな。」
「そのようね。『シュレッケン・トーン』!」
「『スケール』!」
ふたつの奏法は激しくぶつかり合い、そのすごさは隠れている俺達にまで伝わってくる。
「・・・・すごいことになってる」
「おい、俺らは後ろに回るぞ。ザコどもを片付ける。」
マレーズとスケールの奏法勝負は互角であった。
「それにしてもさっき俺らが倒したスケールはなんだったんだろう?」
「本物よりは弱いがほぼ同等の力を持つ分身を作る奏法を聞いたことがある。多分それだろう。」
「よし、後ろに回れたわ。」
「よし、攻撃開始だ!」
「『シュピールツォイック』!」
「何者だ!」
「ヒトシ!」
「マレーズ頑張れ!『アウェイキング』!」
覚醒のスキルでマレーズを覚醒させ、俺らはザコの片付けに回ることにした。
俺の覚醒スキルのおかげか、奏法対決は少しずつマレーズが押しているように見えた。
「魔王軍に痛めつけられた者の痛み、思い知れ!」
ついにスケールの奏法を跳ね飛ばすと、ダイレクトアタックをするマレーズ。
「うっ・・・・。魔王軍は・・・・不滅だ・・・・!」
やがてスケールは断末魔を上げながら、灰になっていった。
「これは分身じゃないでしょうね?」
「大丈夫だ。あの奏法の強さが、これが分身ではないことを証明している。」
「おい、ザコども!それでもまだ戦うか?」
「・・・・魔王城に退却!」
「もう二度とこの街を攻めようなんて考えるな!」
「スイタヒトシ・・・・魔王様を甘く見ないほうがいい。おごり高ぶればいつか身を滅ぼすぞ。」
兵の一人が俺に向かって言った。
エピローグ①
「あなた方はぁ、この度の魔王軍襲来にてぇ、素晴らしい活躍をされたのでぇ、ここにぃ、表彰いたしますぅ。」
俺たちは、またこの癖の強い町長に表彰されていた。
さあ、今回の賞金はどうだろうか。
半音階石買ったから、もう金がほぼなくなってしまったのだ。
「えっ?スイタさん、なんかしたんですか?」
「したよ!なんでマレーズだけ一万拍で俺ら百拍なんだよ!」
「ないよりいいじゃないですか。」
「まあ、確かに」
「(納得した!?)」
「さあ、これでみんなで飲むか!」
ふと端の席を見ると、見たことのある黒ずくめの男がいた。
「ようポッザ。また俺の様子を見に来たのか?」
「違う、王都への任務の途中で立ち寄ったんだ。」
「いや、王都への任務って・・・・。ここは魔王城からも王都からも離れてるぞ。」
「お前に伝えたいことがあったからだ。いいか、よく聞け。この街には今、最大の危機が訪れようとしている。その時は、無駄な抵抗はやめてどこかに逃げるんだ。」
「何が来たって大丈夫だ。なんたって俺は魔王の幹部を2人も破った男だぞ。」
「魔王が直々に攻めてくる。第一次魔王大戦時よりもさらに強化された大軍を率いてな。」
「・・・・嘘だろ!?」
エピローグ②
「何ィ!?スケールが死んだ!?」
「はい。スイタヒトシ・・・・やはり奴はただものではないと思われます。」
「我が軍を二度も破った・・・・これはわしが直々に遠征に向かうしかなかろう。全軍に遠征の準備をさせろ!」
「魔王様!魔王様直々に動かれるのはなりませぬ!」
「わしが直々に行ってスイタヒトシを討たねばならん!奴が生きている限り魔王軍の大義は成し遂げられぬ!」
「それでは私に先鋒をやらせてくださいませ!」
「ウム。わしの右腕であるお主が行ってくれれば安心だ。ルート、お主に先鋒を命じる!」
「ははっ!」
「ラタトールは小さな街だと油断してかかるな。」
「ははっ!そのお言葉、肝に銘じておきます。」
「・・・・スイタヒトシか。どんな男か楽しみじゃわい。」
ヒトシたちの大いなる冒険は続く・・・・