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06


 私アリシアはそれまで、伯爵の娘とは思えないほど華やかさのない生活を送っていた。ただひたすら実家と大学を往復する毎日、唯一の楽しみはお庭で味わうアフタヌーンティーだった。


 時折、大学の同級生から派手な場所に誘われるものの、辺境暮らしも相まって断るのが常。


「アリシアさん、若いんだからもっと遊べばイイのに」

「いえ、私は静かな暮らしが性に合っているので。家も辺境で遠いですし」

「ふぅん……せっかく美人さんに生まれているのに、勿体無いけど。そういう人もいるのかしら?」



 けれど、淡々とした地味女子ライフは、唐突にピリオドが打たれる。私の青春時代の宝物と言っても過言ではない歳下幼馴染みのリチャード君が、誰もが見惚れる超絶イケメンに成長し、両親公認の婚約者として戻って来たのだ。


(一歳だけとはいえ歳下のリチャード君が、私よりも先に蝶へと変貌してしまった。私だっていつまでもサナギのままいるわけにはいかない、地味系女子なりに背伸びして蝶にならなきゃっ)



 * * *



 デート当日の朝、大きな鏡の前には麗しくも華やかな一人の品の良いご令嬢が佇んでいた。

 栗色の巻き髪は軽くハーフアップに結われ、揺れるピアスと程よくマッチしている。白地に小花柄のワンピースから覗く脚は、ダークブラウンのストッキングで美脚が強調され、黒いヒールでシックに決めた。可愛さと大人っぽさの両立、女子大生らしい清楚な魅力で攻める作戦だ。


「アリシア、本当に綺麗だわ……ようやく、目覚めたのね……!」

「まぁ本当に美しいですわ、アリシアお嬢様。もともと可愛らしい容姿でしたが、今日はいつもよりもグッと華やかさが増しております」


 感動のあまりハンカチ片手に涙を流す母、そしておそらくお世辞抜きで私の完成度の高いお洒落を絶賛しているメイド達。


「今まで心配かけてごめんね、お母様、それにメイドのみんな。私……もう自分が女であることから逃げない! 地味だからってメイクやファッションから逃げる私とサヨナラして、挑んで挑んで、戦うの。私は今日から華やかな深窓のご令嬢になるっ。リチャード君の婚約者として相応しくなるために!」


 そう……今日は、いつもの私とはまったく違う。頭のてっぺんから爪の先まで慣れないヘアとメイクに挑んで、作り上げた努力の外見だ。

 普段はストレートに下ろしていた栗色のセミロングヘアは、毛先をコテで緩やかに巻いて整髪料でバッチリ固定。


 艶やかなファンデで作りあげた色白の肌、頬はふんわりローズピンクのチーク、スッキリ整えられた眉。

 目元は定番のブラウン系アイシャドウ、流行を取り入れるために涙袋も作り、バッチリカールのマスカラをオン!

 唇は歳上美人を気取るために、ちょっぴり大人の赤い口紅とグロスを薄らと。


(自分で言うのも何だけど、巻き髪だし涙袋作ったし、今日はまるでオシャレ女子のようなヘアメイクぶり。これならリチャード君とも釣り合うよね)


 ふと手元を確認するとベージュピンクのネイルにストーンが飾られた爪に合わせて、リチャード君から貰った婚約指輪が輝く。


「そろそろ、リチャード君が来るだろう。何と自ら株とFXで稼いで購入した車で、アリシアを迎えに来るそうだから。楽しみだなっ」

「うん、そうだね。リチャード君が株とFXで稼いで購入した車……一体どんな車なんだろう?」


 嬉しさと緊張で気持ちが高まる中、リチャード君を出迎えるためお父様と庭へ出ると……邸宅に真っ赤なスポーツカーが風を切って颯爽と現れた。


「あれは一体。あの派手な赤いスポーツカーはまさか、リチャード君っ?」


 車に疎い私でも分かる……あの赤いスポーツカーからは、超高級な圧を感じる。そして、その高級車に勝るとも劣らない超絶イケメンが、深紅の薔薇の花束を手に、我が家の敷地に降り立つ!


「お待たせ……アリシアお姉ちゃんっ」


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