02
やがて時は過ぎて私は平凡な女子大生になり、リチャード君もそろそろ大学に進学する年頃だ。離れている期間は数年なのに、もう長いこと会っていない気がする。
(はぁ……幼い頃に、運を全部使っちゃったのかな。リチャード君と離れてから、人生に張り合いがないや。でも可愛い天使のリチャード君はちょい厳しいと噂の寄宿舎学校で、大人の洗礼を受けたかも知れない。もう過去の輝きにすがるのはやめないと)
懐かしくも寂しい気持ちが込み上げてきたある春の日の午後。屋敷の庭でティータイムを過ごしていると、庭に大勢の人が……お父様の来客だろう。
(いいや、見なかったフリしてここで隠れていれば……私が美しいご令嬢だったら、来客がこぞって私にアプローチなんぞかますんだろうけど。あいにく、地味を体現したような何の特徴もない、大人し〜い女に育ってしまった。心の中で軽く毒づくくらいしか生きがいが無い……。世とは、まことに虚しいものよ)
「アリシアお嬢様、今日のストロベリージャムは遠方から取り寄せた人気商品なんですよ」
今では生きる喜びは、この穏やかなアフタヌーンティーだけである。現役を引退したマダムならともかく、女子大生という若さでお茶しか生き甲斐がないのもどうかと思うけど。せめて地味ながらも、伯爵の娘というポジションに生まれてしまった『ご褒美』のようなものを堪能しなくては。
「へぇ……スコーンに良く合うし、これからも食べたいわ。またお取り寄せしてもらおうかしら。あらっ……お客様がお庭の方にも来ちゃったわ」
「ええ、旦那様に用事があると古い知り合いが、一家で遊びにいらしたとかで。お嬢様の幼馴染みの方もいるはずです」
ほとんどの人は私なんかに目もくれず、庭園を自慢げに見せるお父様と談笑していたが。何故か一際目立つ超絶イケメンだけは私に即、気がついた模様でキッラキラのオーラを花盛りに咲かせて、颯爽とこちらへ向かって来る。
「アリシアお姉ちゃんは、どこに」
「あの清楚で美しいご令嬢がアリシアちゃんじゃないかしら、まぁ理想通りのお嬢さんに成長されて。良かったわね、リチャード。初恋の人があんなに、綺麗だなんて」
「ふふっ。そうだね」
(あれっ。気のせいじゃなければ、なんだか凄まじいイケメンが、グングンとこちらに近づいて来るような気が……。どうしたのイケメン君、こちらに来ても平凡な地味令嬢が、ひたすらお茶をしばいているだけですよ〜)
私の心の呼びかけなんか、エスパーでもない限り全く聞こえていないだろう。
「お嬢様……もしかすると、あの若者。お嬢様にご用件があるのでは? 深窓のご令嬢であるアリシアお嬢様にアタックするなんて、大胆」
「まさか、私なんかがあんなカッコいい人と接点があるはずが……」
だがメイドの予想は当たっているようで、来客の中で一番若いスタイルの良い長身のイケメンは、花束片手にツカツカとこちらに向かって一直線で歩いてきて……。悪戯な笑顔で、私にシンプルながらも美しく煌めく指輪を差し出してきた。
「久しぶりっ。迎えに来たよ、アリシアお姉ちゃん。約束だからさ、オレと結婚……しよう!」
「…………はいっっ?」