表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

「満月」

作者: さてら

動画、又は生配信での台本ご利用はご自由に。

それ以外での使用はご遠慮ください


15-20分程度

題名「満月」



男♂:

女♀:

商人♂(男と被りでもよい):







男   籠目かごめ籠目かごめ


    籠の中の鳥はいついつ出やる。


    夜明けの晩に鶴と亀がすべった。


    後ろの正面 誰。




   月が出る夜。一人の男が立っていた。

   歌っている男の背後には、四肢と首が斬りおとされていた。


   

   夕暮れ。団子を山道の端で団子を食べている商人がいる。




商人  いやぁ食った食った。

    やはり、動いた後の団子は格別だわい。



女   すまない。少しいいだろうか?



商人  うん? …おお、こりゃまたべっぴんさんだのう。

    それで、どうしたんだい。女一人でこの山道は厳しいだろうに。お連れはいないのかい?



女   いや、一人旅だ。

    町はどちらだろうか。少し迷ってしまって。



商人  それは構わんが…(腰に携えている刀を見る)…何か訳ありかい?



女  ……。



商人  ああ、気に障ったならすまぬ。

    何分、この時勢にこの山を通る者が珍しくてのう。つい勘繰ってしまったわ。



女   …どういう意味だろうか。



商人  いやな、ここ最近この山に人斬りが出ると噂があってのう。



女   っ、それは本当かっ?



商人  うむ、少し前はこの辺も人が通っておったのだがな。

    その人斬りが出るとなってから少なくなり、今ではわしのような行商人しか通らんようになった。



女   …その人斬りはどこに?



商人  わからん。その人斬りを見た者は誰一人生きて帰らなかったと訊く。

    ただ月が上る日に現れ出で、日が昇れば四肢が斬り裂かれた死体が残っていたらしい。



女   ……。



商人  わしも町で死体を見たがのう、ありゃ、人が殺したとは思えぬ惨たらしさだったわ。

    お侍さんから聞くには、命を断った後も何度も何度も刺したようだ。曰く、物の怪がやったとも言われておるようじゃ。



女   人を殺す物の怪……(小さく呟く)さん。



商人  ん? 何か言ったかい?



女   いや、なんでもない。



商人  お嬢さんも月の出る晩に此処を通るのはやめたほうがええ。

    あと、町は東に向かって真っ直ぐ行った先にある。



女   ご心配、感謝する。それと道すがら答えてくれてありがとう。それでは失礼。



商人  お、お嬢さん、そっちは西じゃ。



女   む。すまない。あっちが東だったか。では。



商人  本当に大丈夫かいのう…。





   満月の晩。山道に一人の男が立っている。




男   籠目かごめ籠目かごめ


    籠の中の鳥はいついつ出やる。


    夜明けの晩に鶴と亀がすべった。


    後ろの正面 誰。



    ……誰だ?



   男が後ろを振り向くと、刀に手を添えた女が立っていた。



女   貴様が人斬りだな?



男   ほう、女か。

    今日はついている…一晩に二人も殺せるなんてなぁ。



女   っ、あの時の…貴様が殺したのかっ。



男   おお、殺ったとも。あまり楽しめなかったがな、それでもいい感触だった。

    手足の腱を斬り、四肢を裂き、最後は頭を斬り落としたぞ、クハハハ。



女   貴様っ! 何故そこまでする! 何が楽しい!?



男   ク、ククハハハ。楽しいともさ。

    俺の手に掛かれば、皆あっという間に死んでいく。まるで、羽虫のようになぁ。

    トドメを刺すときの命乞いは滑稽すぎて嗤えるぞ。ああ、だから人を斬るのはやめられない。



女   それが刀を持つ者の言うことかっ。

     その刀は誰かを守るためにあるのではないのか!



男   違うなぁ、刀は命を斬るためにある。

    人を殺し、仏を殺し、鬼を殺す。生きていればなんだって斬り殺す。それが刀だ。

    …そうだ、俺はそうやって生きてきた。あの夜からずっとそうやって生きてきた。



女   …そこまで堕ちたのですか、あなたは。



男   んん? そう言えばおまえ、何処かで見たことがあるな。…まあいい、殺してからじっくりと思い出すとするか。

    抜けよ、女。その刀は飾りではないだろう。精々、あの爺よりは斬りがいがあってくれよ。



女   …もう戻れない道なら、私が貴様に引導を渡してやろう。


    抜け。せめて人として殺してやろう。



男   ハハハ、抜かせよ女ァ!



   刀を正眼に構えた女に、男は片手で刀を振り迫る。



女   スゥ……ハアァッ!!



男   なっ、くッ。



女   遅いっ!



男   ちいッ。



   女の突きを弾いて、間一髪で避ける。

   女は追わず、正眼のまま男に刀を向ける。



女   どうした、その程度か。


    刀を持った女すら殺せないのか。



男   …おまえ、なんだ? ただの女じゃあるまい。

    それにその太刀筋、どこかで…グゥ、っ…頭が痛む…なんだこれはっ。



女   来ないのなら、次はこちらから行くぞ。



男   ぐ、調子に乗るなよ…。まぐれで避けたくらいでいい気になるなッ!



   先程とは違う全力で女へと斬りかかる。

   しかし、弾かれ、逆に首を狙われる。



女   もらった!



男   っ、舐めるなっ。



女   つぅ、くっ…。



男   やるじゃないか。今のは流石に首が落ちるかと思ったぞ。



女   貴様こそよくかわした。私も落とされるかと思った。



男   クハハハ、今日は本当にいい日だ。やはり斬り合いこうじゃなくちゃつまらない。

    ここまで楽しいのは久しぶりだ。名乗れよ、覚えておいてやる。



女   …美咲。如月美咲。



男   みさき…如月、みさ…ぐぅ、なんだっ、頭が痛い…っ。



女   (呟くように)やはり、覚えていないのですね。


    …私からも聞こう。あなたの名はなんだ?



男   …俺? 俺の名前は……づっ、なんだ、俺は…俺は、誰だ?



女   宗一。如月宗一、それがあなたの名だ。



男   如月、宗一? がっ、ぐぅ、違う。違う違う違う。

    俺に名前はないっ。あの時捨てたんだ、全部。奪われた時から、あの夜から。強くなるために、殺すために、俺はっ!



女   だから外道に走ったのですか…。


    父さまや母さまを殺された時に、人であることも捨てて。


強くなるために、ただそれだけの為に。



男   …鬱陶しいぞ、女。おまえを見ていると、頭が痛むんだよ。



女   ならば、せめて私の手であなたを。



男   黙れえぇぇぇっ!



   女へと男は迫る。

   そこには先程と違い、なんの技術もない上段から振り被る。。



女   兄さんっ! ハアァァッ!!



男   ガハッ、ぁあ…ずっ…。



   男は袈裟に斬られ、その場で崩れ落ちた。

   女の頬からは血が滴り落ちる。



女   はぁ…はぁ…っ、はぁ。…にい、さん。



   刀を落とし、男の傍へと膝を着く。

   男は虚ろな目で、満月に照らされた女の顔を見る。



男   …ぁ、強く、なったな。



女   っ、兄さん…思い出したのですね。



男   ぁぁ…長い、夢を見ているようだった…。



女   どうして、こんな事を…。



男   力が…欲しかった。誰にも負けぬ、力が。奪われない力が、守る力が。

    おまえの為に、仇を討って、殺し続けて…。



女   馬鹿です。兄さんは馬鹿ですっ。


    私はそんなこと望んでいなかった。


私は二人だけでもいい、静かに暮らしていたかった。



男   すまない、な…帰る道を忘れてしまったようだ。

    道に迷うのはおまえの方なのにな。



女   そうです。兄さんが道を忘れたら、誰が家まで連れて帰ってくれるんですか



男   ハハ、そうだな。

    ああ、少し疲れた。眠ってもいいか…。



女   っ、少しだけですよ。私、一人じゃ帰れないんですから。



男   わかって…い…る。

    …ぁ、あ、綺麗な…満月、だ…。



   男は目を瞑り、それきり動かなくなる。

   女の目からは涙が溢れ、頬を伝って血と混じり男の顔へと滴り落ちる。




女   籠目かごめ籠目かごめ


    籠の中の鳥はいついつ出やる。


    夜明けの晩に鶴と亀がすべった。


    後ろの正面 誰。




   すすり泣きながら、女は月に向かって歌を歌う。



了。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ