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☆もふもふ友愛

「す、すいません、一人ではしゃいでしまって……っ」


 クレープを食べすぎて少し気持ち悪くなっている俺に、シナモンが申し訳なさそうに何度も頭を下げる。

 ご飯代わりならもしかしたらいけるかもと思いはしたが、やはり俺にはかなりきつかった。

 暫く甘いものは食べなくていいや。というか、食べたくない。


「う、うん、大丈夫……。シナモンは平気そうだけど、よくあんなに食べられるね……」


「甘いものは大好きですから! まだまだ十倍は食べられますっ!」


 女の子なのだし、太ったりとかは気にしないのかと思ったが……今までそれだけ食べてきても今の体型を維持できているのなら大丈夫そうだ。

 多少むちむちとはしているものの、脂肪は一部に集中していて決して太ってはいないし。

 とても健康的で男的にもちょうどいいとは思うけど、まあこれ以上はセクハラっぽいのでやめておこう。


「それにしても、何であんなにはしゃいでたの……?」


「えっ? えっと、誰かとこうして楽しくお出かけしたことが今まであまりなかったので、なんだか嬉しくて……えへへ」


 俺の素朴な疑問に、シナモンは照れ笑いを返す。

 正直、意外だった。

 性格も優しくて明るくていい子だし、友達がいないようには到底思えない。


 でも、そういえばシナモンはお姫様なのだ。

 自分たちと身分が違う相手だから、なかなか距離を縮めることができず、結果仲のいい友達がいないままなのかもしれない。


「正確には、私と仲良くしようとしてくれた子はいたんです。だけど……みんな、お金目当てで寄ってきた人ばかりで、本当の私を見ようとなんてしてくれない人ばかりでしたから」


 お金目当て。

 そうか、さっきシナモンは『楽しくお出かけしたことがあまりない』と言っていた。


 一回もないわけではないのか。ただ、楽しくなかったのだろう。

 その口ぶりから察するに、おそらく高いものを買わせようとしていたとか、そういう類のものに違いない。

 お金持ちだから。お姫様だから。いくらでも出せると思って。

 そんなひどいやつらは、この世界でもいるのか。


「だから、私が全部払うって言ったとき、ミツバさんは私のことを考えて、躊躇ってくれて……すごく嬉しかったんですよ。ありがとうございますっ」


「い、いや、別に……それくらい普通のことだし」


「あれ? 顔が少し赤いですけど、もしかして照れてます?」


「照れてない」


「えへへ、照れてるんですね。可愛いです」


「うるさい」


 顔を逸らすと、シナモンがご機嫌な様子で俺の頬をつんつんと突っついてきた。

 いくら仲のいい友達だろうと、いや仲がいいからこそ、お金を払わせるのに抵抗があるのは当然のことだと思っていたのに、まさかここまで喜んでもらえるとは。

 うん、それはいいんだけど、いつまでつんつんつんつんしてるんだ。


「あの、ミツバさん。気になっていたんですけど、ちょっと触ってみていいですか?」


「……え? 何を――んふぁっ!?」


 訝しみ、振り返ろうとした瞬間。

 ゾクゾクとした言い知れない感覚に襲われ、俺は思わず奇妙な甲高い声をあげてしまう。

 おずおずと、ゆっくり背後を振り向けば。

 笑顔のシナモンが、俺の尻尾に抱きついていた。


挿絵(By みてみん)


「ぁはぁ……柔らかくて、あったかくて、気持ちいい……もふもふ好きです……」


「ちょっ、な、何してんの!?」


「もふもふ……もふもふ……」


「いや、もふもふじゃなくて!」


 どうやら、尻尾に夢中で俺の言葉が全く耳に入っていないらしい。

 極楽みたいな表情で、一心不乱にもふもふされても困る。

 こんな道の真ん中でやられるとさすがに恥ずかしいし、しかも触られる度にゾクゾクしてきてほんとやばいからやめてほしいのだが……。


「あ……す、すいません。ついテンションが上がっちゃいました。それじゃあ……」


 ふと我に返り、ようやく離れてくれた。

 よかった……と、安堵の吐息を漏らしたのも束の間。


「――んにゃあ!?」


 今度はさっき以上の大きなゾクゾクが俺を襲い、無意識に口から変な叫びが漏れた。

 シナモンが俺の狐耳を弄り、撫で回している。

 都度、快感にも似た感覚の波に苛まれ、自然と体が小刻みに震えてくる。


 今までに感じたことがなく、形容不可能。

 ただ、もしかしてなんだけど……これ、耳や尻尾って間違いなくそういう部分ってことなのだろう。

 そうじゃなければ、今こんな感覚にはなっていないはず。


「何ですか、今の声。すごく可愛いですっ!」


「……うる、さい。いいから、触るのやめて」


「で、でも、あともう少しだけ――」


「……」


「……は、はい。ごめんなさい……」


 無言で睨みつけると、何とか手を離してくれた。

 あの感覚はだめだ。もう二度と、誰にも触られないようにしないと。

 シナモンもいい子だし、触ったのも単なる好奇心なのだろう。それに、性感帯的な部分であることなんて知らなかったんだろうから、あまり責める気もないが。


「あの、もしかして怒ってます? ち、違うんですよ、ちょっとテンションが上がって、はしゃいでしまって……ほんとに、あの、すいませんでした……」


「……早く行くよ。さっさと精霊石の情報を集めないといけないんだろ」


「は、はい。それはそうですけど、やっぱり怒ってますよね? ああ、ちょっと待ってくださいよーっ」


 反省しているみたいだし、本当はそこまで怒っているわけでもないけど。

 ただシナモンは好奇心が少し強く、テンションが上がると考えるより先に行動に移し、そして周りのことが見えなくなってしまうタイプのようだから、少し怒っているフリをしてみよう。


 そう思い、シナモンの言葉は無視して早歩きで先を急ぐ。

 すると、何だか泣きそうな顔で必死についてくる。

 これ以上からかうのも、少し心が痛んできたから仕方ないか。


「嘘だよ、怒ってないから」


「本当ですかっ? 能力を使っているわけではないですよね?」


「違う。ただ……もう絶対に触らないで」


「わ、分かりました……」


 少し触られただけであんなことになってしまうなら、この耳と尻尾は俺の最大の弱点と言っても過言ではないかもしれない。

 ステビアの野郎、本当に面倒なものを俺に与えやがったものだ。


 でも。

 照れ臭いから本人には言えないけど、こうして二人で出かけたり、さっきみたいにふざけ合ったりするのは単純に楽しいと感じている自分もいた。

 そういう意味では、悪いことばかりじゃないのかもな。


 なんて、自然と口角が上がっていくのを止められずにいると。

 不意に、近くで立ち話をしている女性二人の会話が耳に入ってきた。


「いやー、ほんと、あの情報屋はすごいね」


「だよね。知らないことなんてひとつもないのかなってくらいだもん」


 見た感じ、シナモンと同じか少し年上くらいか。

 情報屋。それも、知らないことなんてひとつもないとまで言わしめるほどの情報を持った人。

 全くの偶然だが、かなりの朗報かもしれない。


「すいません。その情報屋って、どこにいるか分かりますか?」


 シナモンも同じことを思ったのか、気づいたときにはもう女性のところに行っていた。

 見習いたいレベルの行動力だ。

 女性はお姫様が来たことに喫驚したのち、親切に教えてくれる。


「地下にいるよ。すぐそこの路地裏に、地下に続く階段があるの」


「ち、地下なんてあったんですか……。ありがとうございます」


 最後に礼を告げながら頭を下げ、再び俺のもとまで戻ってきた。

 これで、精霊石の情報を入手できるかもしれない。

 クレープを食べたり、耳や尻尾を触られたりと余計なことに時間を費やしてしまっていた俺たちではあるが、何とか一歩目的に近づけたと言えるだろう。


「それにしても、シナモンも地下の存在は知らなかったんだね」


「そうなんですよね……いつの間にできたんでしょう」


 何やら釈然としていないようで、シナモンは首を傾げている。

 まあ、いくらお姫様とは言っても、知らないことくらいあるだろう。

 俺の中でそう結論づけ、とりあえずその路地裏とやらへ向かった。

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