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誰が四天王最弱ですって?  作者: もちもち物質
三章:はなせないもの
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76話

 あづさの判断は速かった。

 ケルピーの首を軽く叩くと、ケルピーは心得た、とばかりにあづさを背に乗せて大きく空へと羽ばたく。

 いきなり進路を上方へと変えたあづさ達に、火の人は驚いたようなそぶりを見せた。

 だがそれも数秒のこと。火の人は、自分の上方を飛んでいこうとするあづさ達目がけて、火の玉を放ってきたのである。

「ちょ、ちょっと!何すんのよ!」

 あづさは突然のことに慌てながらも、何とか水の魔法を使って障壁を築くことに成功した。オデッティア戦でも使ったこの魔法だが、あづさにはしっくり来ているらしい。咄嗟にこれが出たのは、なかなかの幸運だっただろう。何せ、相手は火の玉である。水の壁を通り抜けることは難しい。

 火の玉が、ジュ、と音を立てて水の壁にかき消されると、火の人は悔しげな顔をした、ように見えた。それすらもちらつく炎と光の加減による幻視だったのかもしれないが。

 だが、火の人はもう一度腕を振る。そこに現れた火の玉は、先ほどのものより幾回りか大きい。

 防げない、と、あづさは判断した。……そして。

「ケルピー!吹っ飛ばすわよ!」

 ケルピーにそう声をかけると同時。あづさは水の魔法を使って……ケルピーごと自分を、弾き飛ばしたのである。


 自らに向けて魔法を放つとは、火の人も思わなかったのだろう。火の玉は途中からあづさ達を追いかけるように軌道を変えたが、それでもあづさ達に追いつけず、あづさ達の後方を通り過ぎていった。

「ごめんなさい、手荒なことして。でもああしないと間に合わなかったのよ。次もまた、やるかも」

 あづさがケルピーに謝りつつ断りを入れると、ケルピーは、きゅ、と鳴いて了承の意を示したようだった。更にケルピーは、一段と速度を上げて、火の人から逃れようと空を駆けていく。

 あづさはケルピーを援護すべく、自分達の後方から飛んでくる火の玉の方を見た。

 ケルピーの手綱はしっかりと左手で握ったまま、進路はケルピーに任せて……あづさは大きく、右手を振るう。

 あづさの右手の軌跡から、水の膜が大きく広がっていって、追ってくる火の玉を防ぐ。更に立て続け、あづさは風の魔法を使って、火の人本体を狙ってみた。

 だが、火でできているものに風の刃が突き刺さろうとも、全く痛手にはならないらしい。一瞬、火の人の胸のあたりが風に煽られて穴を開けたが、それも数秒後にはすっかり塞がって、あとは元通り、燃え盛る火が人間の形を成しているだけになった。

 ……これは、勝てない。そう、あづさは踏んだ。水の魔法ならば、火の人に傷を負わせることもできるかもしれない。だが、水の魔法はできるだけ、防御に使っておきたかった。水の無い空中で、防御にも攻撃にも水の魔法を使う勇気は、あづさには無かった。

 ならばあとは、逃げるだけ。

 あづさは追ってくる火の人からの攻撃を何とか防ぎつつ、ただ、地の四天王領へ到着できることを祈った。




「見えてきた!」

 やがてあづさは歓喜の声を上げる。前方には、旧浸食地帯と森林地帯が見えてきていた。このまま地の四天王領に入ってしまえれば、火の人も撒けるだろう。

「ケルピー、もうちょっとよ!頑張って!」

 だが、ケルピーは目に見えて疲労していた。風の四天王領のほぼ東端から、地の四天王領まで。風の四天王領を横断する形で飛んできたのだ。疲労も相当なものだろう。

 ……ケルピーを休ませてやりたい気持ちも山々だったが、そうするわけにもいかない。後方からは未だ、火の人が追跡してきている。

 不慣れな空中、不慣れな魔法であづさはなんとか防衛しているが、次第に火の人の攻撃は苛烈さを増して、今にもケルピーが撃ち落とされかねない状況である。

 もう少し、もう少し。そう思いながらも、しかし、地の四天王領には中々辿り着かない。

 ……その時だった。

 あづさの背が、熱を感じる。ケルピーが、きゅい、と悲鳴を上げる。

 振り返ったあづさの視線の先では、大きく燃え上がって巨人のような姿になった火の人が、拳を大きく振りかぶっていた。




「……何よ、アレ。あんなの、どうやって……」

 間に合わない。あづさはそう、判断した。

 一体どういう術を用いたのか、火の人は今や巨人となって、自分達へと拳を届かせられるほどになっている。こんな相手を前にして、このまま逃げ切れるとは思えなかった。

 ……ならば。

「ケルピー!私、降りるわ!あなたは先に帰って、助けを呼んで!」

 あづさはそう言うや否や、ケルピーの背から飛び降りた。

 ケルピーだけでも逃がしてやれるように、と。


 ケルピーはきゅいきゅいと鳴きながら、一目散に地の四天王領へと飛んで行った。あづさが背に乗っていない分、速く楽に飛べるようになったはずだ。火の巨人もケルピーを狙う様子はない。きっと無事に帰りつくだろう。

 ……そしてあづさは、空を飛ぶことなど到底できず、ただ落下していく。

 空を飛ぶ魔法が使えないのがギルヴァスのせいだとしたら、少々恨みがましい。あづさはそんなことを思いつつ……しかし落ち着いて、着地のための風の魔法を用いる。

 かくして怪我はなく、着地することはできた。だがここまでだ。

 あづさは最早、脚を失っているようなものだ。火の巨人と対峙して戦って勝つ能力は無く、かといって、逃げ切れる速さを持っているわけでもない。

 ケルピーから降りてしまった時点で、最早あづさの道は1つ。避け続けて時間を稼ぎ続ける、というそのただ1つなのだ。




 あづさは今までまともに余裕がなかったためにスライムを使って連絡できていなかった。ここでようやく、あづさはスライムを揉んで伸ばして、ギルヴァスへ連絡することができた。

 もっと早い段階で連絡できていれば、と唇を噛みつつ、あづさは身構える。

 悔いている時間は無いようだった。火の巨人はその巨大な体躯を屈めて、既に地上のあづさを見つけている。

 辺りはまばらに木の生えた林。巨人の視界を遮るには少々頼りなさすぎ……そもそも、火の巨人を前にして、木など何の壁にもならないのだ。

 火の巨人は木々の枯れ枝を燃やしながら、その手をあづさへ伸ばした。

 あづさは身構える。避けるならば、右か。左か。自分の身体能力と付け焼刃の魔法だけで、どうやってこの場を切り抜ければいいか。

 延焼していくであろう地面からも逃れなければならない。ならば、一手二手先を読んで動かねばならないが、切るべき手札は多くない。

 自分へと伸びてくる炎の腕を前に、あづさはたった1つの魔法に集中し……。




 だが、その時。

「テメエェエエエエエエエ!何してンだァアアアア!」

 聞きなれた声が吠えるや否や、あづさの前を突風が吹き込み、その鋭い鉤爪の一蹴りで火の巨人の拳を弾いていたのである。


「ラギト!」

 あづさがぱっと表情を明るくして見上げる中、ラギトはにやりと笑ってみせた。

「どうだ!あづさ!俺は美しいだろ!」

 その、少々憎たらしく思えるほどに自信に満ち溢れた笑顔に、あづさもまた、満面の笑みで答える。

「ええ!最高にかっこいいわ!」




 ラギトはあづさと火の巨人の間に滞空しつつ、自分より遥かに巨大な火の巨人を睨み上げた。

「さァて。テメエがどこの奴かっつうのはよォ、大体もう分かってんだぜ。何てったって俺は美しい上に賢いからな」

 火の巨人は何も言葉を発しないまま、じっとラギトとあづさを睥睨していた。それでもラギトはまるで怯むことなく、言う。

「テメエ、火のものだろ」

 ……あづさは『どう見てもそうね』と思ったが、黙っていることにした。火の巨人も少々呆気にとられたように、所在なげに腕を彷徨わせる。

「まあ、分かっちまったけどよォ、それはいいんだよ。テメエが何者だろうが、関係ねェ」

 ラギトは全く恥じ入ることもなく、堂々と言葉を続けていく。

「ここは風の四天王領。分かってンだろォ?俺は風の四天王代理なんだぜ?つまりここは今、俺の領地!俺の庭だ!」

 轟、と風が吹き荒れる。冷たく鋭く、何より速く。

 その風を纏って、ラギトは大きく飛翔し……火の巨人の頭上で、叫ぶ。

「俺の庭で!俺の未来の参謀をブッ殺そうとするなんざ見逃してやる理由はねェよなァ!?」

 叫ぶと同時、ラギトは風と共に急降下し、火の巨人の脳天を、その鉤爪の足で蹴り抜いたのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ラギトったら最強ね! [一言] どう見てもそうだけど言わないあづさちゃんの優しさ。 緊迫した場面にカッコよく登場したのになんか一瞬でラギト時空になりましたね(?) あづさってこれまで命の…
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