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誰が四天王最弱ですって?  作者: もちもち物質
二章:女帝と参謀系女子
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61話

 水の四天王城の玄関口は、突如として混乱に包まれた。

 何せ、玄関の門を崩しながら、勢いもそのままにドラゴンが一体突っ込んできたのだから。

 衛兵たちは慌てふためきつつそれぞれの武器を構えて侵入者を取り囲んだが、侵入者はその中心で、悠々と変身の魔法を使った。

 やがて人間の姿になったギルヴァス・エルゼンは自分を取り囲む衛兵達を見回して、少々居心地の悪そうな顔をした。

「……すごい歓迎ぶりだなあ。さて、困った」

 何とも間の抜けた言葉が発されたが、それは衛兵達を嘲笑うものではない。ギルヴァスは本心から『困った』と言っているのだ。

「大人しくしていろ!そうすれば命までは取らない!」

 衛兵達は逆に、『大人しくしていろ』ではなく、『頼むから大人しくしていてくれ』とでも言いたかったが、それでも本心に逆らう言葉を発した。

「うーん……すまんが、通してくれないか。うちの参謀殿を迎えに来たんだ。手荒な真似はしたくない」

 ギルヴァスが穏やかにそう言うのを聞いて、いよいよ衛兵達は知ることになる。

 ……目の前の相手が絶対的な強者である、ということを。

 生殺与奪の権利は、相手にある。




「すまんな、通るぞ」

 それから数分後。

 ギルヴァスは何体もの衛兵達を皆気絶させ、全員を重ならないように床に寝かせた。

 そしてギルヴァスは自分の拳に少々付いてしまった返り血をシャツの裾で拭くと、懐からスライムを取り出し、うにょうにょと形を変えて連絡を取る。

 あづさ側からもスライムが動かされて、うに、と上部が軽く伸ばされたのを見たギルヴァスは、そのまま水の四天王城の中へと進んでいくのだった。




 あづさはルカを逃がしてから、ルカが入っていた地下牢の中で1人ギルヴァスを待っていた。この城の中に居るしかないなら、せめてオデッティアから遠そうな場所を選んでおきたかったのである。無論、無駄な足掻きだろうが。

 だが、あづさのスライムは既に、ギルヴァスがこの城に到着したことを知らせている。ならばもうしばらくの辛抱だ。ギルヴァスはたった今玄関を抜けたところらしいので、地下室へ来るのは更にもう少し先か。

「まあ、お早い到着でよかったわ」

 あづさは手持無沙汰になりつつスライムに笑いかけた。スライムはぷるん、と揺れてそれに応えつつ、あづさのスカートの中へと戻っていった。

 さて、スライムも隠してしまえば後は何ということもない、ただの待機時間である。

 あづさは大きく伸びをすると、そのうち来るであろうギルヴァスを待って、また暇な時間を過ごし始める。


 それからほんの、3分程度経った頃。あづさの耳に、足音が聞こえるようになる。

「……随分早いわね」

 先ほどの連絡から今までの時間で、地下牢にまで到達した、ということだろうか。それにしてはあまりにも速すぎる。

 確かにまっすぐ歩いてくればその程度かもしれないが、まさか見張りが1人も居らず、1回も戦闘にならない、などということもないだろう。ましてや、少々仕込みをしてから、というのならば尚更。

 だが、聞こえてくる重い足音は、確かにあづさがよく知るものであった。

 不思議に思えばいいのか、呆れればいいのか。あづさは少々悩んだが……。

「あづさ!」

 牢の前に現れたギルヴァスの姿を見ても尚、あづさは思考を巡らせ続けた。




「待っていろ、すぐにここを開ける」

「ええ。そうして頂戴」

 あづさはそう答えつつ、ギルヴァスを眺めた。ギルヴァスはその大きな手で、ちまちまと牢の鍵を弄って、やがて鍵を開けたらしい。牢の扉を開けて、中に入ってきた。

「怪我は、無いか」

「見てのとおりよ」

 あづさは両手を広げて見せつつ、ギルヴァスが安堵の表情を浮かべるのを見ていた。

「ではすぐにここを出よう。……ん?」

 だがギルヴァスはふと表情を曇らせると、あづさの首輪に目を留める。

「その首輪は、どうした?」

「貰っちゃった。似合う?」

 ギルヴァスはますます表情を苦らせつつ、じっと首輪を見つめた。

「……少し、見せてくれ。首輪に触ってもいいか?」

 眉を顰めつつギルヴァスが身を屈めて首輪に顔を近づけてきた時、あづさは……ギルヴァスの頭を押し返した。

 そして。

「ところでちょっとあなた、頭が高すぎるんじゃないかしら?」

 そう言ってにやりと笑うと、ギルヴァスを見下ろしたのである。


「……は」

「前、教えたでしょ?『主人』を待たせた時は跪くものだって」

 ギルヴァスはぽかん、としたものの、すぐに大きな体を縮めて床に膝をついた。

「よしよし。いい子ね」

 あづさはそんなギルヴァスの頭を撫でる。

「あ、あづさ」

「動いていいなんて言ってないわよ。こっちはその後」

 顔を上げかけたギルヴァスを留めるように、あづさはギルヴァスの頭を押さえつけた。そしてギルヴァスの首の辺りを指でなぞる。

 ギルヴァスが体を固くしているのを観察しつつ、ふと思い立ったように、ギルヴァスのシャツの襟の後ろに指をかけて、ひっぱり……襟の内側を覗き込んだ。

 そして。

「オーケー。分かったわ」

 あづさは足を上げると……ギルヴァスの頭部を思い切り、踏んだ。

「なっ!?」

 ギルヴァスはそのまま頭部を踏み下げられて、勢い余って床に頭を打ち付ける。あづさは更にそれを踏み躙りつつ、困惑ではなく衝撃と憎悪の色の強いギルヴァスの眼を覗き込んで……言った。

「ところで『彼』って、首の後ろから肩にかけて、ちょっと傷跡があるのよ。服を着てる時は隠れるんだけれどね?……でもあなたにはそんな傷、無いみたいね」




「精々ひと月かそこらの付き合いの間柄ならば十分騙せると踏んだのだが……成程な、化けたのは失策だったか」

 ギルヴァスはそう言って笑うと、次第に形を変えていく。

 水に映った景色が揺らめくように、その姿の輪郭がぼやけて揺らぎ、やがて全く別の姿を作り出す。

 そこに立っていたのは、オデッティアその人であった。

「お前達の関係を少々、見誤っていたようだ」

「まあね。舐めてもらっちゃ困るわよ。私だってバカじゃないんだから」

 あづさはオデッティアを見上げて、にっこりと笑った。

「ふ。それにしても大した度胸よ。……しかし、よく知っていたな」

 オデッティアは少々苦い笑みを浮かべつつ、あづさを見下ろす。爬虫類めいた瞳孔が縮まり、あづさを真正面から見据えた。

「妾の変化の術は、知っているものにしか有効ではない。知らない部分については、憶測で補うしかない、と。……ギルヴァスに聞いたか?」

「いいえ?今知ったわ」

 だがあづさは動じることなくオデッティアの視線に応じ……そして一歩、距離を取った。

「っていうかね。彼の首の後ろに傷があるかどうかなんて、私も知らないわよ。『服で隠れる場所にある傷』なんて、私にも分かる訳ないじゃない?私達別に、『そういう関係』じゃないんだから」




 オデッティアは急速に理解し始めていた。自分があづさの策に引っかかったのだ、ということに。

「……いつ、気づいていた?」

「最初から怪しいとは思ってたわ。彼から連絡が来て、それからすぐにあなたが来たんだもの。ちょっと早すぎるわよね」

「連絡、だと?」

「ああ、でもね、本物か偽物か、確証は持てなかったわ。正直に言ってね、彼本人だって、突然『跪け』って言われたらそうしちゃいそうだし。……だからカマかけてみたんだけどね」

 オデッティアはあづさの『カマ』に引っかかったのだ。オデッティアは不用意な発言をせず、何ならもっと急いで、『首輪に触れる同意』をあづさから得ておくべきだった。

「あーあ、でもちょっと楽しかったわ。あなた、結構頑張って私の話に合わせようとしてくれたでしょう?面白かったわ。ああ、それからあなたの頭踏んだのは、引っかかったあなたへのペナルティーってことでいいわよね?ああ、そういえば今度は気をつけてね?あなたの頭踏んだ時、あなたが偽物だって確信できたの。だってギルヴァスだったら、頭踏まれたって私の心配するだけで、私に憎悪なんて向けやしないだろうから。化け方が大分甘かったんじゃない?」

 あづさが高慢な笑みを浮かべているのを見て、オデッティアはあづさが自分を挑発しようとしていることを理解した。必死に感情を鎮めて、次なる手を打つべく動こうとし……しかし。

 その時にはオデッティアは、動揺しすぎていた。

 そしてその結果……あまりにもあづさだけに、集中しすぎていたのだ。


「ついでにもう1つ言わせてもらうけど」

 オデッティアが動くより先に、城が、揺れた。

「時間切れよ」

 途端、壁が割れ砕ける。

 そして。

「あづさ!」

 粉塵に塗れたギルヴァスが、壁の穴からやってきたのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] あづさ様!ひゅーひゅー!かっこいい! …良いですな。良いです。
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