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誰が四天王最弱ですって?  作者: もちもち物質
二章:女帝と参謀系女子
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59話

 オデッティアが床に倒れたまま嘔吐してそのまま意識を失ったのを見届けて、あづさは早速、オデッティアの部屋を漁り始めた。

 ミラリアの水晶柱には、今はまだ何もしない。これが呪いの類なら、ギルヴァスがどうにかしてくれる。

 念のため別の場所へ運ぼうかとも思ったが、水晶柱は非常に重く、あづさ1人で運べるような代物ではなかった。あづさは水晶の表面にそっと触れると、すぐに目的の物を探すべく動き始める。


 あづさが探しているのは、城のマスターキーのようなものである。

 オデッティアは先ほど、ルカの所在について口を滑らせている。地下牢にルカが居るというのならば、当然、鍵は掛かっているだろう。牢なのだから。

 ……だが、それらしい鍵は見つからなかった。オデッティアが管理している訳ではない、ということなのか、それとも……。

 念のため、オデッティア自身の懐も漁ってみたが、特にそれらしいものは見つからなかった。

 ……そこであづさは、結論付ける。

 恐らく、マスターキーのようなものは、存在していない。

 そもそもオデッティアはこの寝室に入る時もそうだったが、特段鍵を必要としていなかった。彼女はこの部屋の鍵を、魔法によって開けていた。

 魔法で施錠も開錠もできるのだから、鍵など無くて当然と言えば当然である。

「ってことは、地下牢も……うーん、それは困るわね」

 あづさは、ちら、とオデッティアを見下ろした。だが、彼女の魔法を奪う術など持ってはいない。

「なら、やっぱり出たとこ勝負ね」

 あづさも多少は魔法を使える。こじ開けられる扉なら、こじ開けるしかない。できなかったら……ギルヴァスの到着を待つだけだ。

 あづさはスライムをむにむにと伸ばしてギルヴァスに伝えつつ、早速地下へ向かって走り出した。


 オデッティアの寝室を出てすぐ、あづさは廊下にローレライ達の姿を見つける。

「ねえ!あなた達、お願いがあるの!」

 走ってきたあづさにローレライ達は驚いた様子だったが、あづさの緊迫した様子から何か感じ取ったのだろう、黙ってあづさの言葉を聞く。

「オデッティアの寝室へ行って。彼女、今は気絶してるから。だから今の内に、水晶の中に閉じ込められたミラリアを回収してほしいの!」

「す、水晶!?ミラリア様がですか!?」

「ええ、そうよ!急いで、時間が無いわ!」

 ローレライ達は動揺した様子だったが、だが、あづさが背を押すと、ローレライ達は迷いながらも動き出した。

「回収したら、安全な場所に置いておいて!ギルヴァスが元に戻せると思うから!」

 ローレライ達がオデッティアの寝室へ向かっていったのを見送って、あづさはまたも城の中を走り出す。


 地下への階段はすぐに見つかった。予めある程度城の中を散策しておいたのが早速役立ったということになる。

 あづさは地下へと潜り込むと、すぐさまルカを探して突き進んだ。

 地下牢の並びを駆け抜けていく傍ら、出くわしてしまった衛兵には雷電瓶を叩き込んでおく。それで駄目なら、使える魔法をこれでもかと展開して無理矢理切り抜けた。

「ルカ!居るの!?」

 呼びかけながら、あづさは走る。途中に見知らぬ者が入っている牢があれば、魔法とスライムを使ってこじ開けた。

 ……そう。ここで役立ったのが、スライムだった。

 流石に牢の鍵全てをオデッティア1人が管理しているはずはないだろうとあづさも思っていたが、実際、牢の鍵は魔法を使っていない単純なものが多かった。

 そして、単純な構造の鍵ならば……スライムが鍵穴からうにょん、と潜り込んで、そのまま鍵を回してしまえるのだ。

 そうしてあづさは、雷電瓶とスライム片手に牢を開けて回り、何体もの魔物を助け出した。

 ……だが、肝心のルカが見つからない。

「もしかしてここまで見越して嘘吐いてくれたのかしら」

 小さく舌打ちしつつ、あづさは未だ気絶しているであろうオデッティアを恨む。

 それでも一通りは見て回ろう、と、あづさは地下を進む。助け出した魔物に情報を求め、時に衛兵に見て見ぬふりをされつつ。


 ……そして。

「ルカ!」

 あづさはやっと、見つけた。牢の中、水に濡れた床の上に横たわって浅い呼吸を繰り返すルカは、衰弱した表情で、力なくあづさを見上げていた。

「あづさ……」

 だが、喜ぶあづさの一方で、ルカはその表情に絶望を過ぎらせた。

「来て、しまったのか」

 来たら悪かった?とでも冗談を返そうかとも思ったあづさだったが、軽口を叩くには少々、ルカの表情が強張りすぎている。

「なにか、あったの?」

 代わりにあづさはそう、声をかけた。

「いや……」

 だが、ルカは答えない。

 その表情に焦燥と絶望を湛え、片手に握られた銀細工の首輪めいたものを見つめ、そしてあづさを見上げ……そして、ふと、あきらめたように笑った。

「……元々、捨てた命だったな」

 そしてそう呟くと、ルカは傷ついた体を起こして、立ち上がる。

「すまない。一度救われて、二度目もこうして助けに来てもらっておきながら、俺はあなたの力になれそうにない」

 これが最後の挨拶だ、と言わんばかりに、ルカはあづさを見下ろして言った。

「俺のことは、諦めてほしい」




「……説明してくれなきゃ、分かんないわよ」

 あづさは牢の鍵を開けて中に入りながら、ルカに歩み寄る。ルカは途端、あづさから一歩距離を置いて、後ろ手に首輪を隠す。

 あづさはそれを見て少々笑うと、ひらり、とルカの後ろに回り込んで、首輪を掴んだ。

「おい」

「ふーん。これがあなたの妙な行動の理由、ってことね」

 あづさはそう言ってにやりと笑いつつ、ルカを見上げた。ルカは何も言わなかったが、その表情は下手な言葉よりよほど雄弁だ。

「この首輪を私に嵌めてこいとでも言われた?」

「そ、れは……」

 次もやはり、そうだった。肯定も否定もせず、ただあづさから視線を逸らして、それでいて小さく震えているルカの姿が、何より真実をよく語る。

「ま、いいわ。捨てた命だって言うんなら、その命、私に頂戴?」

 あづさは笑って、ルカが握ったままの首輪を引き寄せた。

 そして、ぱちり、と。自らその首輪に首を差し入れ、留め金を留めたのである。




「な……なんて、ことを、あなたは……」

「うん。どうせ私にこれを嵌めるように命令されてたとか、ついでにそこに魔法とか呪いとか使われてたとか、そういう話だったんでしょ?いいわよ、別に」

 ルカが力なくその場に座り込むのを見下ろして、あづさは笑った。

「これ、嵌めた瞬間に寝ちゃう、とかじゃないのね。よかったわ」

「この首輪のことも知らずにやったのか!?」

「ええ、まあ、そうだけど。ああ、流石に、即死するような代物じゃないってことは分かってたわよ?私を欲しがる人が私を殺すような道具、用意するはずないものね」

 信じられない、とルカが嘆くのを見下ろしつつ、あづさは小首を傾げた。

「それで。これであなたの命、拾えたかしら?」

 あづさが笑うと、ルカは表情を歪めて顔を覆った。

「……望んでいなかった。こんなことをするくらいなら……」

「そう。ってことは拾えたみたいね。ああよかった」

 ルカはいっそ恨めし気な様子で、あづさを見上げた。

「この首輪は、あなたをここへ縛り付けるためのものだ」

「へえ、そう」

「呪いがあなたを縛った。首輪を外そうとしたり、城から出ようとしたりすると、その首輪はきつく締まる。……あなたはもうこの城から、出られない」


 ルカの説明を聞いて、あづさはまた笑顔を浮かべた。

「ふーん。まあ、いいわ。そしたら首輪外して出ていくから」

 するとルカは、ぽかんとした後、心配そうな顔をする。

「言っただろう?首輪を外そうとしても呪いが……」

「つまり、解呪と首輪の破壊、両方一度にやればいいってことでしょ?」

 だが、そんな心配を跳ね除けるように、あづさはルカに笑いかける。

「できるわよ。彼ならね」




 ギルヴァスはあづさからの連絡を受けて、空を飛んでいた。

 その速さはオデッティアが齎した水流より遥かに速い。何なら、軽さと速さを身上とするラギトよりも速いのだ。竜という生き物が全力で飛んだなら、地の四天王領から水の四天王領まで、さほど時間はかからない。小回りは利かないが、一直線に飛ぶだけならば、何の不都合もない。

 ……空を飛びながら、ギルヴァスは内心で焦っていた。

 あづさの動きが早速、予定から大きく逸れている。どうやらルカ以外の者……恐らくミラリアだろうが、その誰かの身に危険が及んだ、という連絡がスライム伝いに入っている。そしてそのため、あづさは計画を繰り上げて動き出す、とも。

 元々出たとこ勝負の力技になる予定ではあったが、それにしても、半日足らずでこう、とは。

 ギルヴァスは内心であづさの無事を祈りながら、ひたすらに飛び……そして、やがて見えてきた青い青い湖に向かって、急降下し始めたのだった。




 その日、水の四天王城のある湖の中で警護の任にあたっていたマーマンは、大層驚くことになった。

 何せ、巨大なドラゴンが、何の躊躇もなく湖に飛び込んできたのだから。

 衝撃と音が水中を走り、ドラゴンは急降下の勢いのままに、水の四天王城目指して水の底へと進んでいく。

「こ、こら!待て!貴様一体何者だ!」

 警護のマーマン達は呆気にとられたものの、すぐに自分達の職務を思い出してドラゴンを追う。

 だが、黒いドラゴンの眼窩の奥、鋭くぎらつく琥珀の眼に一瞥されると、途端、マーマン達は動けなくなる。

 恐怖に身が竦む、という経験を、マーマン達は初めて味わった。

 ……かくして、本来ならばドラゴンが侵入することなどまるで想定されていない水の四天王城へと、ドラゴンは一直線に向かっていったのであった。


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