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誰が四天王最弱ですって?  作者: もちもち物質
二章:女帝と参謀系女子
52/161

52話

 呑み込まれる。

 あづさがそう、感じた瞬間。

 ……不思議なことが起こった。


 まず、あづさにまとわりつき、あづさを引きずり込もうとしていた水は、途中からその力を失ってただの水同然になってしまった。

 水に浸かりながらあづさが見た光景は……じっと階段の奥を睨むギルヴァスと、その奥でのたうつ水の塊。

 そして、ギルヴァスの腕から流れる、夥しい量の血だった。




「……よし。読みが当たったな」

 ギルヴァスが疲れた笑みを浮かべて、階段の奥を見つめる。

 水はすっかり大人しくなり、徐々に奥へ奥へと退いていった。もう、オデッティアの魔術によって動くことはないだろう。

「ちょ、ちょっと!その腕、何よ!どういうつもり!?」

「ん?ああ、すまない、見苦しいものを見せたな」

「そうじゃなくて……!」

 あづさが慌ててギルヴァスの腕に回復魔法を使おうとすると、ギルヴァスはそれを読んだように、ひょい、と腕を持ち上げてあづさから逃れた。

「治療は待ってくれ。もう少し血を流しておきたい」

「な、なんで」

「オデッティアの魔法への対抗になるんでなあ」

 ギルヴァスは血が流れる腕をそのままに、にこにこと笑った。


「水の魔法の恐ろしさはよく分かったと思うが……1つ、弱点がある。それは、とても繊細な魔法だというところだ」

「繊細?」

 到底そうは見えないわよ、と言いたいあづさだったが、ひとまず反論はせずにギルヴァスの話を聞く。

「ああ。そうは見えないだろうが、これでも相当に繊細な魔法だ。さっきの魔法についても、遠隔で水を操って、更にその水を使って君を移動させようとしていたんだからな。準備も相当なものだっただろう」

 ギルヴァスがさらりと話した内容に、あづさは慄く。まさか、襲ってきた隊を2つ無力化したにも拘らず、『水』という、全く警戒していなかった相手によって、自分を連れ去る魔法が完成しようとしていたとは。

「だが、さっきも言ったがこの水の魔法は繊細だ。移動の魔法を使うための水も、1か月ほど毎晩月の光に当てて魔力を注いで作り上げたものだろう。それだけの準備が必要なんだ。遠くから水を操るのだから、当然、その水の性質はオデッティアにとって操りやすいものでなければならないしな」

 ギルヴァスの説明を聞いて、あづさは……はっとした。

「つまり、ドラゴンの血なんて混ざったら、性質が変わって操れなくなっちゃう、ってことね?」

 果たして、あづさが出した回答は正解だったらしい。ギルヴァスは笑って頷いた。

「そういうことだ。幸いにも、俺の血はそれなりの呪物なんでなあ。こうして水に混ぜてしまえば、そこに関わる魔法も変質してしまう。そういうわけだ」

 ギルヴァスはそう言って、腕から指を伝って流れ落ちる血を示す。

 血は赤く赤く滴り落ちて、濡れた床に落ちてはその赤色を滲ませていった。

 さながら、そうして自らの縄張りを主張するかのように。




 それからもう少ししてギルヴァスは、そろそろいいか、と頷いた。もう水はすっかり大人しくなり、何の魔法の気配もしなくなっている。

 それを見るや否や、あづさはさっとギルヴァスの腕を見て、回復魔法をかける。

 ……回復魔法は今日初めて使った魔法だったが、一番念入りに準備していた魔法でもあった。練習する機会もなかったが、それでも、一番多く魔導書を読んで勉強し、イメージを固めておいた魔法だった。それは、こうして使うため。

「……思いっきりいったのね」

 ギルヴァス自身の歯か牙かによって食い千切られた腕の傷は、見ていて痛々しいものだった。傷が確実に治っていくのを見ながらも、あづさは顔を顰めていた。

「ははは。思い切りが悪かったせいで君を攫われたら、後悔してもしきれんからなあ。こういう時は思い切りよくいくに限る」

「……本当にすごいわ、あなた」

 やがてすっかり治った腕の傷を何度も確認して、あづさはその腕をそっと撫でた。

「……悪かったわね。要らない怪我させて」

「そうか?必要な怪我だったと思うが」

「そうかしら」

 あづさはどうしても、浮かない顔になる。今やすっかり治ったものの、傷は随分と深かった。ギルヴァスは何ということもないようにふるまっていたが、痛みも相当なものだっただろう。それを思うとどうしても、あづさは罪悪感を覚えてしまう。

「いいじゃないか、参謀殿。俺達は水の四天王団との防衛戦に勝ったんだぞ!」

 だがギルヴァスは、そんなあづさの気持ちなど全く知らない、とでもいうかのように、只々うきうきとして嬉しそうだった。

「……嬉しそうね」

「ああ。嬉しい。うーん、俺も最近はすっかり忘れていたが、実は戦うのはそれなりに好きな性質でなあ……あ、無論、残虐なことを好んだり、弱者を蹂躙したりするのが好きなわけじゃない。そこは弁明させてくれ」

 慌てて言葉を連ねるギルヴァスを見て……あづさは思わず、笑いを漏らした。

「弁明されなくたって分かってるわよ、そんなこと」

 いつの間にか、あづさの罪悪感はすっかり縮んでいた。あづさはギルヴァスの腕をもう一度撫でて、言う。

「……ありがと。次も私達の勝利で飾りましょうね」

「ああ。よろしく頼むぞ、参謀殿」

 あづさが笑いかければ、ギルヴァスも只々嬉しそうに笑い返すのだった。




「しかし……驚いたな」

「何が?」

 ギルヴァスが階段の奥……水が退いていった、地下牢の方へと目をやりながら首を傾げるのを見て、あづさもまた、首を傾げる。

「いや……さっきの水への対処だがな、多分、俺だけの力じゃない」

「どういうこと?」

 あづさもギルヴァス同様、地下の奥を見つめて……思い当たる。

「恐らく……ルカ・リュイールも一枚噛んだな」

 ルカが地下室に取り残されていたことに。




「……それって、ルカが助けてくれた、っていうこと?」

「まあ、そういうことになる、のだろうなあ。どういう意図なのかは、分からんが……」

 ふむ、と唸ってから、ギルヴァスは1つ頷いて足を踏み出した。

「行って本人に聞いてみるか。もう水も引いただろう」

 ギルヴァスがあづさの先を歩いて地下へと下りていくのについて、地下へと進む。

 ……そして2人が、ルカを閉じ込めておいた地下室に入った時。そこには誰も居なかったのである。


「まあ、味方を回収しない理由はなかったな」

 ルカの消えた地下室を見回して、ギルヴァスは少々不思議そうな顔をする。

 地下室にはまだ、魔法の気配が残っていた。それはオデッティアのものであろう水の大魔法の気配であり……ルカが使ったと思しき、水を操る魔法だった。

 恐らくルカはここで魔法を使い、水を操って……あづさの方へ水が流れていくのを、少しでも食い止めようとしていたのだろう。

 ならば、それは、何のために。


 ……考えて、あづさは思い出す。

 ルカは言っていた。ルカが水の四天王領に帰ったら、最悪の場合、処刑されるかもしれない、と。

「ねえ、ギルヴァス。ルカは、無事かしら」

「うーん、それは俺には何とも言えんが……」

「ルカ、言ってたのよ。もし水の四天王領に帰ったら、処刑されるかもしれない、って」

 あづさがそう言うと、ギルヴァスは少々不可解そうな顔をする。いくらオデッティアが冷酷な人物だったとしても、ルカを殺す必要はないはずだ。ミラリアは言っていた。これはルカ達があづさの奪取に失敗したところまでが全て、オデッティアの掌の上だったのだ、と。

 ……ということは、ルカは少々、不安に考えすぎなのか、或いは……。


「ねえ、ギルヴァス。変なことを聞くようだけれど、水竜とマーマンのハーフって、珍しいの?」

 あづさがそう尋ねると、ギルヴァスは驚いたような顔をする。

「いや、珍しい、というか……十分にあり得る話ではあるが、公にはしないだろうな」

「どうして?」

「オデッティアに消されかねないからだ。水の四天王の座には代々、水竜の血を引く者が就いている。水竜の血を引いていることが明らかになったら、オデッティアが危険視するだろう」

 あづさがはっとする中、ギルヴァスはあづさの表情から、あづさの考えを読み取った。

「……まさか、ルカ・リュイールがそう言っていたのか?自分は水竜とマーマンのハーフだと?」

「ええ。そうよ」

 あづさが重々しく頷くと、ギルヴァスもまた表情を険しくして、ルカが居た地下室の床へ視線を落とすのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] あづさ助かってよかった…! スライム通信は優秀だなぁ(むにむに) ギルヴァス、実は元々武闘派で違う場所で会ってたら友達になれたかもな系四天王だったんだろうか [一言] ルカ君めっちゃ真面目…
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