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誰が四天王最弱ですって?  作者: もちもち物質
二章:女帝と参謀系女子
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47話

 あづさは地図を描く。それは地の四天王領の地図であり、そして、地の四天王領の西側に面している水の四天王領の大まかな地図でもある。

「まず、相手がまともに攻めてくるとは思えないわ。だって水の四天王領からこっちに来ようとしたら、荒れ地を延々と進む必要があるんだもの。いくら水がない所でも生きていられる種族だって、限界はあるでしょ?私でさえ干からびかけたんだもの。水の魔物が荒れ地横断なんて無理よ」

 ギルヴァスに乗って飛び回って上空から見た限りでも、地の四天王領の西半分は荒野なのだ。それは水の四天王が土地から水を奪っていったからであるが……。

「……で。荒れ地が今荒れ地になってる原因は、水の四天王が土地から水を奪っていったからでしょ?……そんな事ができる相手なら、こっちに攻め込む時、奪っていた水を全部一気に解放して洪水にするくらいは考えそうじゃない?」

「つまり、自分にとって不利な地形を、自分にとって有利なものに変えてしまう、ということか……」

 ギルヴァスは、ふむ、と唸った。荒れ地ならまだしも、洪水に乗って水の魔物が攻めてきたなら、戦うのは中々に厄介だろう。

「問題は、相手がそんな事できるのか、っていうことなんだけれど……あなたの顔を見てる限り、できちゃいそうね?」

「そうだなあ……勿論、広大な荒れ地を全て水浸しにすることは難しいだろう。だが、俺がある程度大地を操れるように、オデッティアもある程度水を操れる。水をただ流すのではなく、一本の道のように流すことはできる、だろうなあ……」

「つまり、川みたいに?」

「そうだな。相当に力を使うだろうが……彼女にとっては、君を手に入れるにはその程度、安いものだ、ということなのだろうな」

「あら、嬉しいわね。そんなに高く買ってもらえてるっていうのは、相手が敵でも嬉しいわ」

 あづさが笑う一方、ギルヴァスは心配そうな顔をしている。だが、それもまた、あづさを少々喜ばせた。

「大丈夫よ。相手が私のために頑張ってくれるのは嬉しいけど、それを無駄にさせる準備をするつもりだから」

「そんな事ができるのか?」

 きょとん、としたギルヴァスににっこりと笑いかけつつ、あづさは言った。

「ええ。あなたが頑張ってくれれば、ね」


 あづさは地図の上に線を引いた。ギルヴァスがこれは何の線か、と首を傾げると、あづさはその線の説明をしてやる。

「この線、谷にしましょう」




 翌朝。まだあたりが暗い内から、大規模な工事が始まった。

「じゃあ、ここから一直線にこの方向で。できるだけ深くお願いね」

「難しいなあ……まあ、やってみるが……」

 上手くいかなかったらすまん、と予め断ってから、ギルヴァスは荒野のかさついた土の上に手を置いて、それから力を込め始める。

 ……すると、鈍く地面が揺れ、そして。

 静かに、山が聳えた。

 高さは15m程度だろうか。山というよりは城壁である。

 山はずっと遠くまで伸びていた。これならば、オデッティアが水を流そうにも山が邪魔になり、かといって迂回するにも距離が大変に長くなる。防衛として、十分だった。

「……多分、上手くいったな。念の為、そっと離れてくれ」

 だがギルヴァスは山ではなく山の裾……或いは山の『向こう側』を見ながらにこりと笑うと、そっと、すり足でその場を離れ始める。あづさもそれに倣って、そっと、その場を離れた。

 ……そのまま、50m程度移動しただろうか。ギルヴァスは先程立っていたあたりの地面に向かって、また何かの力を注ぐ。すると今度はどこかで、パラリ、と砂礫が落ちていく音が響いた。

「成功だ」

「うわあ……怖いわね」

 あづさは表情を引きつらせつつ、しかし、一方でどこか楽しそうに言う。

「こんな大規模なイタズラ、楽しまなきゃ損よね」




 それから更に、あづさとギルヴァスは城に戻ってからもあれやこれやと準備を行った。

 まず、城の周りに堀を設けた。水は無い。今回の戦いが終わったら注水する予定である。

 それから、堀と城の間には城壁を設けた。今までも城壁めいたものはあったのだが、すっかり朽ち果てて廃墟同然のものだったので、新たに作り直す運びとなったのである。

「壁があると安心感があるわね」

「うん。俺もそう思う」

 あづさは城を囲む城壁を見上げて、なんとなく妙な安心感を覚えていた。

「……こういうこと言うと変に思われるかもしれないけど。私、四方を囲まれてる場所とか、なんとなく狭いところとか、好きなのよね」

「いや、分かるぞ。俺もだ」

「こう、毛布を頭から被ったり」

「壁際に立つ時は、柱の横がいい」

 あづさとギルヴァスは顔を見合わせて笑う。どうやら嗜好が一致したようだ。


「堀もこれだけ幅があれば、今後も一定の防衛力になりそうよね」

 続いて、城門の外に出たあづさは、水の無い堀を見て笑った。

「……そうだなあ。派手に作りすぎたか?」

「いいんじゃない?もし、ちょっと広すぎると思ったら、埋め立てちゃってもいいんでしょ?」

「まあ、そうなんだが」

 城の周りをぐるりと囲む堀は、かなり幅が広い。少なくとも、水の魔物でも泳いで渡るのに少々時間が掛かるだろう、という程度には。

「……それに、『アピール』なんだもの。これくらい大げさで丁度いいでしょ?」

 あづさはにっこり笑って、堀の内側に飛び降りる。堀の深さは5m程度あったが、覚えたての魔法を使えば軟着陸できた。

「あとは、デコレーションするだけね!」

「よし。なら、すぐに取りかかろう。恐らく明日には、オデッティアの使いが飛んでくるぞ」

 ギルヴァスもにこやかに笑顔を浮かべつつ、城壁の内側に置いておいたもの……金属線に金属線の輪を取りつけただけのものを持って来た。




 そうして、夕方。

「はーあ、疲れた」

 あづさは城壁を眺めて満足気に息を吐いた。

 城壁には、金属線と金属線の輪が張り巡らされて、夕陽に輝いていた。

 そして、金属線の所々は、金属でできた意味ありげな小箱に繋がっている。……無論、中身は何も無いが。

「よく働いてくれたな。いや、しかし……随分と、意味ありげな様相になったなあ……」

「これで何も無いっていうのも面白いわよね。相手がきちんと情報収集してれば警戒してくれるでしょうし、そうじゃなくてもちょっとは怖がってくれるはずよ」

 張り巡らせた金属線は、いわば、フェイクだ。

 風の四天王団雷光隊から水の四天王団が情報を得ていたら、新たな技術である『電池』を警戒してくるはずである。そしてその『電池』は『金属の線の輪』が無いと使えない、と……つまり、『金属の線の輪』があれば『電池』が使えるのだ、と、情報はねじ曲がっている。

 水の四天王団は当然、張り巡らせた金属線や金属線の輪を存分に警戒するだろう。その結果、金属線の無い場所を選んで侵攻しようとするか、或いは……金属線を切断しようとするのか。

 どちらにせよ、時間を無駄にすることは間違いない。そして、時間を無駄にしてくれたなら、あづさ達にとってそれが好機となるのだ。


 すっかり夕暮れた城の前で伸びをしながら、ふと、あづさは思う。

「……城壁に囲まれたら、ちょっと印象、変わったわね」

 城の前の土地は、ただの土地ではなく、城壁で区切られることで庭になっていた。

「でも、殺風景よね。その内、庭も弄りたいかも」

「ああ、花の1つも無いからなあ」

「これだけ広いのに殺風景なのも、ちょっと残念よね」

 城壁の内側、城の前を見て、あづさは唸る。あづさが来た当初に比べればこの城は見違える程綺麗になったのだが、綺麗になればなるほど、欲が出てくる。

 ギルヴァスの能力を使えば、草を生やすことはできるようなのだが、花を美しく咲かせたり、ましてや美しく配列したり、というのは苦手らしく、庭には手が回っていない。

 この庭をそのままにしておくのは勿体ない。となれば、手作業でここを何とかするか、或いは……。

「……そういえば、水の魔物について、私、あまり知識が無いのだけれど。1つ、私の世界の伝説があってね?」

「ほう」

 あづさはふと思い出して、ギルヴァスに相談する。するとギルヴァスは耳を傾け……。

 やがて2人は、また1つ、アイデアを思いついてしまったのだった。




 夜。

 水でできた馬……ケルピーは、その背に1人の騎士を乗せて、空を飛んでいた。

「ふむ……山ができているな。報告にはあのようなものはなかったが……流石は地の四天王、ということか」

 白銀の鎧兜に身を包んだ騎士は三又の槍を携えつつも、ケルピーの手綱を巧みに操って上空を駆ける。

 ……ケルピーは本来、空を飛ぶ種族ではない。多少は宙に浮くものの、このように高高度を飛行することはできない。

 だが、今、ケルピーの飛行を可能にしているのは……その背の翼である。

 水のように澄んだ美しい素材で作られた翼が鞍に取り付けられており、その道具によってケルピーは空を駆ける事ができるようになったのだ。

 だからこそこうして、ケルピーは背中の騎士を連れて、偵察任務にあたる事が出来ているのだが。

「これもオデッティア様に報告しなければな」

 ……ケルピーが背に乗せている騎士もまた、ケルピーが居るからこそこうして荒野の上空を飛んでいられる。

 騎士もまた、水が無ければ生きていられない。だが、水そのものであるケルピーに触れていることで、こうして荒れ地の上でも活動できるのだ。

「さて、そろそろウンディーネ達が情報を持ち帰ってくる頃か……戻るぞ」

 騎士は手綱を操って、ケルピーの向きを変えさせた。

 そして一目散に、水の四天王領へ向かって宙を駆けていくのだった。


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