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誰が四天王最弱ですって?  作者: もちもち物質
二章:女帝と参謀系女子
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46話

 あづさ達は夕食の準備を始めた。今日の夕食は青菜のソテーと鹿肉のロースト、そして麦粥である。

 元侵食地帯の農業は上手くいっているらしく、今日の青菜は早速そこで収穫されたものである。どうやらこの世界の農作物は、あづさの知る農作物より早く育つらしい。大体、半分くらいの時間で育つ、という感覚だろうか。条件によってはもっと早いのかもしれない。例えば、ギルヴァスが侵食地帯に草を生やした時のように。

 また、肉についてはスケルトン達が狩猟で手に入れてきたものだ。肉類についてはその内、畜産を始めて安定させていきたい。

 あづさは麦粥の鍋を火に掛けつつ青菜を洗って適当に切りながら、隣で肉を捌いているギルヴァスと情報の共有を行う。

「ええとね。私の方で発覚した情報は大きく2つよ。1つは、多分今回私が教えた知識は、多かれ少なかれ水と火の四天王に漏れるわ。もしかしたら魔王様にも」

「……そうか」

 ギルヴァスは複雑そうな顔をした。

 雷光隊を信じてあづさを向かわせたのだから、裏切られたような思いもする。それと同時に、仕方ないか、とも思ってしまうのだが。

「ええ。だから、漏れてもいいように情報は制限してきたつもりよ。上手くいけば、水の四天王あたりは間違った対策をしてくれるんじゃないかしら」

 ……だが、あづさがそう言葉を続けると、ギルヴァスはもう、只々苦笑するしかない。

「それは……君らしいなあ」

「褒められてるのよね?それ」

「勿論。君の機転と胆力には驚かされてばかりだが、驚かされるだろう、ということは分かっている」

「ま、ありがと。褒められてるなら悪い気はしないわ」

 あづさは笑顔を向けつつ、竈に火を入れる。続いて、その上にフライパンを乗せた。分厚い鉄でできたフライパンは非常に重く、温まるまでにも時間がかかる。だが、案外使い勝手は悪くなかった。地の四天王団らしいフライパンは、あづさも気に入っている。

「それでね。多分水の四天王団は、私達が『金属線』を持っていたら警戒すると思うわ。電気を通すには金属の線が無いといけない、って教えてきたから。多分、金属線の輪は間違いなく警戒対象でしょうね」

「成程な。ということは、本当に必要な対策をとらず、無駄な対策をとってくれる可能性が高い、ということか」

「そういうこと。他にも、多分あの人達、『電気』が何なのか分からずじまいだったと思うわ。特に『雷』との関連はさせないようにしてきたし……ということは、まあ、余計に対策、できないわよね」

 あづさは、食卓の上に置いた綿雲の空の瓶詰めをちらり、と眺める。雷の瓶詰めを貰ってきて水の四天王との戦いに使うことも考えたが、そうすることよりも、『電気』と『雷』を関連付けさせないことを優先したのだ。

「そうかあ。……じゃあ彼らは、電気を何だと思っているんだ……?」

「多分、魔力代わりになる何か、くらいじゃない?もしかしたら、私の世界で言うところの『魔力』くらいに思ってるかもね」

 あづさはフライパンの上に油を落としつつ、少しばかり笑った。

 さて、今頃シルビアとネフワはどんな研究をしているだろうか。




 青菜を炒め始めてから、あづさは次の情報共有に移る。

「それからもう1つなんだけど……ラギト宛てだったのかファラーシアに宛てたものだったのか、オデッティア・ランジャオからの手紙があったそうよ」

「……手紙?」

「ええ。ラギトはそう言ってたわね」

 あづさの言葉に、ギルヴァスは少々過敏に反応した。あづさはそれを気にしつつ……『手紙』の本題に入る。

「なんだか、水の四天王が私のこと、引き抜こうとしてるみたい」


「なっ」

 途端、ギルヴァスがあづさを振り向いて、それから気まずげに、目を逸らす。

「……あなたの方にも何かあったのね?」

「いや……その」

 ギルヴァスは答えにくそうにしていたが、やがてため息とともに、吐き出した。

「……こちらにも、その情報、というか……オデッティアからの書簡が、届いていたんだ。君を譲るように、と」


 あづさはギルヴァスの言葉に、むしろ納得した。どうにも、ギルヴァスの様子は少々不自然に思えていた。彼ならば、何もなかったならきっと、『こちらには何もなかった』と申告しただろう。

「へえ……その手紙は?」

「すまん。燃やした」

「あら、そう」

 だが、こちらには少々、驚いた。黙って隠しておくならまだしも、燃やした、とは。

「勝手に君宛ての手紙を燃やしたことは、謝る。本当にすまなかった」

 あづさの沈黙を怒りととったのか、ギルヴァスはそう言って頭を下げる。その様子がなんとも、しょんぼりとして見えてあづさは思わず笑ってしまう。

「あら。別にいいわよ。ただ、お断りのお返事くらいは書かないといけないでしょうからちょっと困るし、私も自分の目でオデッティアの筆跡くらい見ておきたかったけれど」

「すまん」

「いいわ。でも次からはこういうの、なしね。燃やされちゃうと対策も立てられないわ」

 あづさはそう言って、炒め上がった青菜を皿に移し……それから、ギルヴァスを安心させるように言う。

「……大丈夫よ。私は元の世界に帰るまで、ここから出ていくつもりはないから」

 ギルヴァスはハッとしたような顔をして、それからばつが悪そうに視線を逸らした。

「なんというか……君と話していると、自分のことが情けなくなってくるなあ。君は本当に17歳か?」

「ええ。あなたと張り合うために頑張って背伸びして自分を大きく見せようと必死な17歳よ」

 あづさが笑うと、ギルヴァスは「君には敵わんなあ」とぼやいて苦笑するのだった。




 それから2人は、出来上がった夕食を食べながら水の四天王を倒すべく、話し合いを始めた。

「オデッティアからの手紙には『あづさを渡さないなら実力行使に出る』とあった。ということは、返事がない以上、どこかでは襲ってくるだろうな」

 ギルヴァスの話を聞いて、あづさは満面の笑みを浮かべる。

「あら。最高ね。こっちから手を出さなくてもいいなんて!気が利く相手だわ」

「……まあ、そうか……」

 やはり、相手から先に手を出してくる、というのは大きい。何かあっても、こちらは防衛しただけだと言い張れる。

「でも、それってつまり、相手は陸上を移動できる魔物、ってことよね?わざわざ襲いに来るならそういうことでしょ?」

「そうだなあ。……オデッティアのところには、水の中でしか生きられないような種族も多い。むしろ、地上で戦うのが得意な奴は少ない。……彼女は攻撃するより防衛した方が得意なんだがなあ……」

 当然だが、あづさもギルヴァスも、水の中では生きていけない。他の生き物も、その多くがそうだ。

 だからこそ、水の四天王オデッティア・ランジャオの城は水中にあり……敵からの侵攻に対して非常に強い。

「じゃあ、相手の手の内、読み放題じゃない。地上で戦えるとしたら、どんな奴かしら?」

「そうだなあ……地上の方が向いている、という種族は、思い当たらないな。ケルピーやサハギンは地上でもある程度は動けるが……うちの荒れ地を渡ってくるのは大変だろうなあ……まあ、あとは、ウンディーネか?水の妖精だが、ある程度は水から出ていられるらしい。魔法を得意とする種族だから、戦力にはなるかもな」

「ああ、そういうかんじなの……」

 あづさは考える。

 それでは、弱すぎるわよね、と。


 オデッティアとて、あづさが居る地の四天王団を舐めて掛かっているわけではないだろう。

 堅牢な守りの城があるのに、防御を捨てて攻撃に転じようとするのだ。当然、防衛戦でなくとも勝てるという確信あってのことだろう。

 第一に、水の四天王領から地の四天王領へ来ようとすると、広大な荒れ地を渡ってくる必要があるのだ。水の種族らには、水の無い大地の環境はあまりにも過酷だろう。

 ……そこまで考えて、あづさは。

「……そういえば、うちの荒れ地って、水の四天王が水を奪ってるから荒れ地なのよね」

「そうだなあ」

 あづさは、気づいてしまった。

「水を吸い取れるなら、水を放出することも、可能、なんじゃない、かしら……?」




 それからしばらく、あづさもギルヴァスも黙々と食事を食べ進めることになった。

 何故ならば、すぐにでも領地の地形を変えなければならないので。

 ……焦る2人だったが、幸いなことに、塩とハーブの効いた鹿肉も、バターの風味豊かな青菜のソテーも、とろりとした麦粥も、中々に美味だった。




 あづさは地図を描く。その地図は地の四天王領のものであり……その西の隣、水の四天王領をも含むものである。

「どうせ相手は荒野を馬鹿正直に歩いて突き進んでくる気力なんて無いはずよ。なら、相手の狙いは、水。陸地に大津波でも起こすつもりだわ」

 そして、大方の地図を描き終えると、そこに線を引いていく。

 それは、地の四天王領の荒野を縦断するような、そんな線であった。

「なら解決策は簡単よ。特に、あなたが居るならね」

 あづさは笑って、ギルヴァスに言う。

「城壁と堀を作るわよ」


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