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誰が四天王最弱ですって?  作者: もちもち物質
二章:女帝と参謀系女子
45/161

45話

午前中いっぱい、あづさは雷光隊の研究所に滞在することになった。ネフワが『自分達の研究を見ていってほしい』と申し出た為である。

あづさはこれを喜んで受け、研究所内の見学を始めたのだが。

「……すごいわね」

研究の全てが、あづさの目に鮮やかに映った。

「これ、すごいわ。金の鳥?生き物……じゃないのね?機械、かしら……」

最初に案内された場所にあったのは、銀細工の木の枝の上で囀る金細工の鳥だった。

「はい。これはゴーレムの一種ですね。ゴーレムを可能な限り小さく作ってみよう、ということになりまして。魔術を改良した結果、この大きさの小鳥をこの精度で作ることができました」

金細工の小鳥はあづさの指に停まって囀る。もしこれが金細工でなく、例えば鳥の羽をあしらったような作りをしていたなら、きっと本物の鳥と見間違うだろう。

その部屋には他にも、宝石でできた蝶や鏡でできた甲虫など、超小型のゴーレムが思い思いに動いていた。

あづさはひとまず、ゴーレム、というものについて記憶した。こうまで小型で美しくなくともいいが、労働力になるなら、地の四天王領でも是非使いたい。




「これ、何?中に小さな雲が入ってるわ」

次に案内された部屋であづさが目を留めたのは、ガラス瓶だった。

ガラス瓶は金の装飾に飾られて、中に小さな雲をぽつぽつと浮かべている。そして、その瓶の中、雲の周囲を満たしているのは、青色だ。……その瓶はまるで、空を瓶詰めにしたようにも見えた。

「これは天気の瓶詰めですね。これは晴れの日の瓶詰めです。この瓶の装飾が天気を瓶の中に保持することを可能にしているのです」

「へえ……すごく綺麗だわ。こっちは夕方の空?」

「そうですね。この瓶は失敗でして。装飾を簡易化してみたところ、空を安定させられず、このように夕焼け空になってしまいました。元は青空なんですが……なのでこの瓶詰めは長持ちしませんね」

感嘆のため息を吐きつつ、あづさは只々、天気の瓶詰めというそれらを眺める。

嵐の夜の瓶詰め。春先の雨の瓶詰め。激しい雷の瓶詰め。虹の瓶詰め。……様々なガラス瓶は、あづさの目を存分に楽しませる。

……あづさがあまりにも瞳を輝かせて瓶詰めを見つめていたからだろうか。ネフワはもふ、もふ、とあづさをつついて振り向かせ、板を見せた。

『いっこ あげる にゃー』

そこに書かれていた文字を見て、あづさは、喜んだ。

「えっ、本当に!?」

『はい にゃー』

「わあ、ありがとう!……どれでもいいの?」

『いっぱい あるもの いい にゃー おみやげ にゃー』

ネフワから快く承諾を得て、あづさは瓶詰めを眺める。

「わあ、どれも綺麗で迷うわね……うーん……」

そして、眺めに眺めて……ちら、とネフワとシルビアを見たあづさは、1つの瓶を選んだ。

「じゃあ、この綿雲の瓶、貰ってもいい?」

手に取ったのは、綿雲が青空に浮かぶ瓶だ。

「ええ。……しかし、その瓶でいいのですか?何の変哲もない空模様ですが……」

シルビアは何やら意外そうな顔をしていたが、あづさは笑って頷いた。

「うちにこの雲に似てる子達が居るの。きっと喜ぶわ」




他にも、研究所内には面白く美しいものがいくつもあった。

それは、風でできた剣であったり、雲でできた盾であったり。はたまた、風に吹かれて音楽を奏でる装置であったり、至極柔らかな布であったり。

それら1つ1つが科学ではなく魔法の産物であり、あづさにはあまりに新鮮だった。あづさは年相応に、随分とはしゃぐことになったのである。

……また、宙に浮かぶ宝石があったり、常に色を変える美しい宝石があったり……といったものをみて、あづさは何故、ラギトが地の四天王領から持ち帰った宝石を雷光隊にも提供していたのか、理解できた。

どうやらこの世界において、宝石とは美しい以上の価値を持ったものであるようだった。

魔法の動力源になったり、全く別のものの原料になったり。あづさが思っていた以上に、宝石の存在意義は大きかったのだ。

ある種、あづさの世界のレアメタルなどとも似ているかもしれない。ならば、それら宝石を地の四天王団が独占したならば……。

そう考えてあづさは、ますます笑みを深めるのだった。




「随分お世話になっちゃったわね」

「いいえ、こちらこそ。あづさ様に教えていただいたことを元にすれば、私達でも電池が作れそうです」

別れ際、あづさはシルビアと固く握手しあって笑う。

……実際、雷光隊の研究所は、あづさが想像していたどんなものとも違った。そんな研究所に相応しい、実に異世界らしいやり方で、きっとシルビア達は電池を完成させるだろう。

『また きてね にゃー にゃー』

「ええ。また来るわ。ネフワさん達も、よかったら地の四天王領に遊びに来て。何も無いところだけれど……うん、本当に、お誘いするのが申し訳ないくらい何も無いところだけれど!」

『それはそれで たのしいかも にゃー』

あづさが笑うと、ネフワは、もふ、とあづさに衝突したのか、あづさを抱きしめたのか。とにかくもふもふふわふわとした感触を存分に楽しんで、あづさは笑みを浮かべる。

『また会えることを楽しみにしているよ』

……そしてすかさず、ネフワの板の上に異世界語が並んだのを見て、あづさはしっかりと、首を傾げた。

意識していなければ、異世界語は魔法によって何の違和感もなく読めてしまう。なのであづさはこの1日半、ずっと意識してネフワの板を見ていたのである。

その努力が功を奏して、ネフワ達はすっかり、あづさは異世界語を読めないのだと安心したらしい。

『また あおー にゃー』

ネフワはそう板の上に表示させつつ、またあづさをふわふわと包み込むのだった。




帰りはまたラギトに運ばれて、あづさは無事、地の四天王領に帰ってきた。

「あーあ、なんだか久しぶりな気がするわ」

1日半しか経っていないのに、地の四天王城が何故か懐かしく感じる。そう感じることを嬉しく思いつつ、あづさは大きく息を吸って、言った。

「ただいまー!」

すると、どたどたと音がして、やがてギルヴァスが駆けてくる。

そしてあづさの目の前にやってきたギルヴァスは、ほっとしたような顔をするのだった。


ラギトが茶を飲んで元気に帰っていったのを見送って、あづさとギルヴァスは1日半ぶりに食卓を囲んだ。

やや遅めのおやつ、といった時刻の軽食は、果物とビスケットだ。素朴な軽食は雷光隊で出ていた洗練されたおやつとは大分異なるが、あづさはこれはこれで、好ましいと感じている。

「あなたに会うのも久しぶりな気がしちゃうわね」

「俺もだ。君が居ないとこの城は静かすぎる」

「あら。私、そんなに騒がしい?」

「まさか。……だが、居ないとなると想像以上に静かなんだ。不思議なものだが」

ギルヴァスはそう言って笑って、それからふと、心配そうな顔をする。

「雷光隊の研究所では、何もなかったか?」

「まさか!色々あったわよ。とっても楽しかったわ」

あづさがそう答えると、ギルヴァスは『何があったのか』というような顔であづさを見つめる。……あづさはそれに答えず、果物を一切れ食べ、お茶を飲み……それから、にっこり笑って言う。

「……要は、心配掛けるようなことは何もなかったわよ、ってこと」

「……驚かせないでくれ」

「あら。驚いたの?」

悪戯っぽく笑ってあづさが言うと、ギルヴァスは少々渋い顔で頷いた。どうやら、ギルヴァスの中であづさは『何かしでかしてもおかしくない』という認識になっているらしい。


「色々、手に入った情報もあるわ。ちょっと急いで対策しなきゃいけないかもね。あなたの方の情報と合わせて、情報共有しましょう。……でも、その前に」

あづさは2杯目のお茶を自らカップに注ぎ入れつつ、少々恨みがまし気に言う。

「私、まだ、あなたにお帰りって言われてないわ」

これに、ギルヴァスはきょとん、としてから……ばつが悪そうな顔をして頭を掻いた。

「いや……それを俺が言うのは、烏滸がましい気がしたんだが」

ギルヴァスとしては、自分のせいであづさがこの世界に逗留する羽目になっている、という負い目のようなものがあるのかもしれない。だから一歩、踏み込めずにいる、と。

……だがあづさは、そんなことは気にしない。

「あら。私は『ただいま』って言ったわよ。だって、この城がこの世界での、私の帰る場所なんだもの!」

あづさの言葉にギルヴァスはぽかんとしていたが……やがて、おずおずと、笑って言うのだ。

「なら……おかえり。あづさ」

「ええ。ただいま、ギルヴァス!さっきも言ったけれど、とっても楽しい研究所見学だったわ!」


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