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誰が四天王最弱ですって?  作者: もちもち物質
二章:女帝と参謀系女子
44/161

44話

 その夜。

 ギルヴァスは久しぶりに、寂しく夕食を摂っていた。

「……静かだなあ」

 食卓は、ギルヴァス1人のものではない。スライムとコットンボール達も、同じ食卓に居る。だが彼らは喋らないので、やはり、只々静かなのである。

 普段なら、あづさが話し、話しかけ、笑う。ギルヴァスもそれにつられて多少話し、笑いもする。だからこそ、食卓はそう寂しいものにはならない。

「前はずっとこうだったんだがなあ」

 1人、苦笑しながらギルヴァスは1人零す。

 ……本当に、ほんの少し前。1ヶ月程度前まで、ギルヴァスは1人だった。この広い城に1人きり、眠ったように動かず、何かを考えることもせず。その時よりはスライムやコットンボールが居る分、まだ多少賑やかだろう。

 それだというのに、どうしてか、妙に寂しく感じるのだ。1ヶ月前まで、それまで100年程度、ほとんどずっと1人で居たというのに。

 ……一度手に入れてしまうと、手放せなくなる、ということなのだろう。一度暖かさに触れてしまうと、ずっと続いていた寒さが酷く堪えるようになる。そういうことなのだ。

「……まさか、齢三百になっておいて、寂しがり、とはなあ……」

 ギルヴァスは苦笑しつつ、勝手気ままに跳ね回るコットンボール達をつついて、寂しさを紛らわす。


 その時だった。

「……ん?」

 窓の外から、何かが飛び込んでくる。あづさが帰ってきたにしては早いな、と思いつつギルヴァスが身構えると……そこには、水の馬が居た。

「ケルピー……オデッティアのところの者だな」

 馬はただギルヴァスに手紙を一通渡すと、すぐに戻っていってしまった。ギルヴァスはその後ろ姿を見送って、残された書簡を眺める。

 青の地に銀箔で装飾された美しい書簡を開けると、やはり立派な書状が出てきた。

 ギルヴァスはその書状に目を通すと……顔を顰めた。

 そして少しの逡巡の後、その書状を書簡ごと、暖炉の火の中に投げ込んで、燃やしてしまったのだった。




 翌朝。あづさはふわふわとした寝床で目を覚ました。

「……よく寝ちゃった」

 ベッドはとてもふわふわふかふかで、寝心地がよかったのだ。ベッドの上でぼんやりしている今も、すぐさまベッドに再び潜り込んで二度寝してしまいたい、という欲望と戦っている。

 このベッドは、クラウドゴーストの抜け毛でできているらしい。つまり、ネフワの毛である。毛と言うべきなのか、雲と言うべきなのかは分からないが。

 クラウドゴーストの抜け毛には、安眠効果があるらしい。シルビアが嬉しそうに説明してくれた。かく言うシルビアも、ネフワの抜け毛を拝借してベッドの素材にしているらしい。

「もしかして、ネフワに抱きついて寝たらものすごくよく眠れるのかしら……」

 考えても無駄なことを考えつつ、あづさはなんとか、ベッドから抜け出した。質の高い睡眠をたっぷりと摂って、あづさはすっかり元気であった。

「ご飯が楽しみなのって、良いわね」

 身支度を整えて部屋から出て、朝食の支度がされているのであろう良い香りに頬を緩ませつつ、あづさは早速、集合場所へと歩くのだった。


「あ!あづさ!遅ェぞ!」

 集合場所であった食堂に到着すると、ラギトが居た。

「あら、おはよう。ラギトは早いのね」

「当然だろ!俺だからな!」

「そう。よかったわね。ところでシルビアさんとネフワさんは?」

「ん?まだ来てねえぞ。……シルフって結構、ねぼすけだからなァ……」

 もしかしてベッドが気持ちよすぎるから二度寝してるんじゃないかしら、などと思いつつ、あづさは、そう、とだけ返した。

「ま、いいじゃねェか!あいつらは後で飯食うだろ!先に食っちまおぜ!」

「そうね。そうさせてもらいましょうか」

 結局、シルビアとネフワ抜きで、あづさとラギトだけが揃って朝食を摂ることになったのだった。


 ふわふわのパンに果物のジャムを乗せて口へ運びつつ、あづさはオムレツを食べるラギトを見ていた。

 ラギトには手が無い。そのため、食器を使うことができない。つまり、ラギトはものを食べる時、足を使うか、皿に直接口を近づけて食べるかしかない。

 行儀がよくないのは間違いないのだが……それにしては、随分と綺麗に見えるのだ。

 オムレツを咥えて、口の周りを汚さないように食べていく。足を使って器用にスプーンを持ち、パンにジャムを塗り、それに直接口を近づけて食べる。そんな様子が、なんとも面白かった。

「……何見てンだよ」

「ああ、ごめんなさい。つい、見ちゃった。綺麗に食べるものだから」

 ラギトが珍しく、少々照れたような顔を見せたのを意外に思いつつ、あづさは笑う。

「器用ね」

「ハーピィならこんくらい、できねェと生きてけねェンだよ。それに、俺が綺麗なのは当然だろうが!」

「ふふ、そうね」

 あづさはまた食事を再開しつつ、互いに互いの食事の様子を眺めては、質問し合ったり何だりと楽しく過ごすのだった。


「んー……そういやさァ、あづさ」

「何?」

 食事が一段落した頃。ラギトは少々困ったような顔で、あづさに話しかける。

「ちょっと聞きてえンだけどよォ。……その、俺、四天王代理になって、つまりそれって四天王だろ?」

「色々と言いたいことはあるけど、まあ、そうね」

 あづさが頷くと、ラギトも神妙な顔で頷いた。

「で、俺、ファラーシアがやってた仕事、やってンだけどよォ」

「あら、あなたも仕事できるの?」

「当然だろ!俺だぞ!?」

 ぎゃあぎゃあと言いつつ翼をバタバタさせたラギトは、はた、と気づくとまた翼を折り畳み……そしてあづさに、言った。

「その、水の四天王からの手紙があったんだ。……一緒に、地の参謀を、引き抜かねえか、って」


「……それは光栄ね」

 あづさはそう返しつつ、少々焦ってもいた。

 水の四天王……オデッティア・ランジャオは、あづさが魔王と直々に交渉して地の参謀の地位に正式に収まったことくらい、知っているだろう。あづさは地の四天王領を改革することで、元の世界への切符を手にするのだ、と。

 ……そして恐らく、彼女はそう知った上で、あづさを引き抜こうとしている。

 つまり、あづさを巡って魔王と交渉するつもりなのか、はたまた……オデッティア自身が、地の四天王領を統治するつもりだとでもいうのか。

 前者もまずいが、後者もまずい。後者であれば、オデッティアは地の四天王団と全面戦争をするつもりだ、ということに他ならない。

「やっぱよォ、断った方がいいよなァ?水の四天王、なんか怖いし……」

 ……だが、幸いにしてあづさは、水の四天王オデッティア・ランジャオが何かを仕掛けてくるより先に、その意図を知ることができた。更には……ラギトという味方も居る。

「それはラギト次第でしょ。ラギトは私を引き抜きたいの?」

「引き抜きてえ!」

 正直ねえ、と思いつつあづさが呆れていると、ラギトはふと、元気を失ってしょんぼりとした。

「でも無理矢理あづさを連れて帰って、あづさに嫌われるのは嫌だ……。大体、魔王様も怖えし、ギルヴァスの奴だって、黙っちゃァいねェだろうし。……だから俺、1年待つことにしたんだ」

 案外理性的にラギトはそう言って……しかし数秒後には翼をばたばたさせてまた騒ぎ始める。

「でもやっぱり1年って長えよなァ!?なー!どう思う、あづさァ!」

「だから知ったこっちゃないわよそんなこと。この正直者」

 ぴしゃり、と言い放ち……あづさは考えた。

 ……もしや、ラギトを有効に使えないか、と。


「ねえ、ラギト。だったら水の四天王に会って話だけでも聞いてきたら?あるいはお手紙でのやり取りでも良いんじゃない?」

「えっ」

 あづさが提案すると、ラギトは驚いたような顔をし……そして目を輝かせた。

「……あづさ、お前、引き抜かれてェのか!?俺に!?」

「そうは言ってないわよ」

 なのであづさはまたぴしゃりと言ってラギトを払いつつ、少々優しく厳しく、言ってやる。

「ただ、あなたは風の四天王団のトップなのよ?地の参謀の意見で決めるべきじゃないわ。ちゃんとあなたが考えて決めるの。それが今はできそうにない、っていうことなら、オデッティアの話を聞くのもアリなんじゃない?って。それだけよ」

「そうかー……うん、そうだなー……」

 ラギトは迷うようにしていたが、迷うにもそれほど時間は掛からなかった。

「ありがとな、あづさ!そうしてみるぜ!」

「お役に立ったみたいで何よりだわ」

 晴れやかな顔をしたラギトを見つつ、あづさは微笑んで……早速、考え始めるのだ。

 水の四天王との戦いに勝ちに行くための方策を。


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