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誰が四天王最弱ですって?  作者: もちもち物質
二章:女帝と参謀系女子
42/161

42話

「それは……」

 シルビアは困惑した様子だった。彼女としてみれば、異世界人のあづさから『異世界人について教えて』などと言われたことがまず不思議であり、それ以上に……最初の条件が、中々に厳しいものだったからだ。

「……ネフワ様、如何でしょう」

 結果、シルビアはネフワに判断を求めた。それは、ネフワが雷光隊隊長だから、というだけではない。もう1つの理由は……ネフワを主体にすれば、あづさの目の前で、あづさには分からないように相談ができるのだ。

 ネフワはシルビアの意図を汲み取って、シルビアのために異世界語ではない、更には共通語でもない、風のもの達の言葉を板の上に表示する。

『つまりあづさ嬢は、水や火の四天王団、そして魔王様にも、情報を秘匿しておきたい、ということなのだろう』

「ええ。そのように思われます」

『それは厄介だ。他2つの四天王団はともかく、魔王様にも、というのは……そもそも情報を隠し通せるか、という問題もある。我々の手に余ることは間違いない』

「そうですね」

 シルビアは必要最低限の相槌だけを打って、それから、ちら、とあづさの様子を見た。

 あづさはネフワの板をじっと眺めながら、不思議そうに首を傾げている。その様子を見て、シルビアは安堵した。どうやらあづさはシルビアやネフワが踏んだ通り、この世界の言語は読めないのだろう。シルビアとネフワは、そう判断したのだ。

『かといって、ここであづさ嬢との繋がりをみすみすと捨てるのも愚かだ。彼女からはたくさんの有用な知識が得られるだろうし、何より、下手に敵に回すと怖い。彼女はこの世界に来て日が浅いにも関わらず、既に地の四天王の右腕と聞く』

「ええ。その方の事情もあったかとは思いますが……」

『そうだな。他の四天王団だったならば、入団して1月ほどで右腕、など有り得ないだろう。彼女が地の四天王団に辿り着いたからこそ、彼女は四天王の右腕になった。……だが、あづさ嬢にはそういった運もあったと同時に、その運を無駄にしない能力があるのだと考えたほうが良い。あからさまに裏切るのは、あまりにも無謀だ』

「……そうですね」

 あづさはラギトをつついているが、ラギトもなんとなく、あづさには伝えてはいけない内容だと理解してはいるらしく、「お前のこと褒めてるぞ!」とだけあづさに伝えた。否、もしかしたらラギトもシルビア達の会話の意図が分かっていないのかもしれないが。

「では、ネフワ様。ご決断は」

『……難しいが、やってみる価値はある』

 シルビアはネフワとネフワの板に注視して、緊張に唇を引き結んだ。

『取引には応じよう。だが、情報を守れるかどうかについては……「我々は最大の努力は払っていた」と言うことになるだろう』




「……話は決まったかしら?」

 あづさが問うと、ネフワとシルビアはあづさの方を向いた。

「はい。決まりました。……あづささん」

 そしてシルビアは、あづさの手をとって、にっこりと微笑んだ。

「その条件で構いません。……よろしくお願いします」

『あづさちゃん よろしく にゃー』

 2人の承諾の返事を聞いて、あづさもにっこりと微笑むのだった。


 ……あづさはまだ、この世界の文字が読める、とは伝えていない。それは意図的なものだった。

 あづさがこの世界の文字を読めない、と思い込ませておけば、相手の情報が漏れやすいだろう、と考えたためだ。

 そして今、案の定、シルビアとネフワはこの世界の言語を用いて会話することで、あづさには聞かれたくない話をあづさの前で交わすに至った。あづさは何も気づいていないふりをしつつ、シルビアとネフワの意図を知ることができたのである。

 2人の言うところは即ち……『魔王や他の四天王団に対して、自ら積極的に情報をもたらすことはしない。だが、相手からの諜報活動に対しては抵抗しない、できない』というものだろう。

 ……さて。あづさは考える。

 自分がこの雷光隊へ伝える知識を、どこまで絞るべきか。……また、どのように操作するべきか。




「まず、異世界人について教えてくれる?この世界には私以外も異世界人がいるの?」

「そうですね。記録には数人分、異世界人についての情報が残っていますよ」

 まずは、あづさが得られるものを真っ先に得ることにした。

 異世界人についての情報は、おそらくそれほど大した価値はない。あづさ以外の者達なら、多かれ少なかれ知っていることなのだろう。そのため、異世界人についての情報を話すシルビアは、話しにくそうにすることもなかった。

「しかし異世界人の多くは魔物の国ではなく、人間の国に現れているのです」

「人間の国?」

「ええ。古来より我ら魔物の国と争い続けている、人間達の国ですね。異世界人は人間の国に現れ……『勇者』として、我ら魔物の国を侵略しに来るのが常です」


 勇者、と呟いて、あづさは思う。確か、ギルヴァスが『負けた』のも勇者だったわね、と。

「その勇者、っていう奴らは、今も人間の国に居るのかしら?」

「いえ……勇者の多くは、人間の国側の意向を満たし次第、元の世界へと帰ると聞いています。……というよりは、元の世界へ帰すことを条件にして、人間の国は勇者を従わせているのでしょうね。そのため、異世界人を元の世界に帰すための魔術は秘匿されています」

 ああ、成程ね、とあづさは頷く。

 ……あづさの場合も似たようなものかもしれない。地の四天王領を改革することを条件に、魔王に対して元の世界へ返してもらうように交渉しているのだから。ただ、あづさの場合、人間の国ではなく魔物の国に来てしまったことと、あづさ自ら帰還のための条件を提示して交渉した、という点で勇者達とは異なるが。


「じゃあ、異世界人って普通、人間の国にしか現れないってこと?」

「いえ。少ないですが、魔物の国での例もあります。古来より伝わる儀式を行えば、異世界の生き物を召喚することもできるとか……尤も、どんな相手が召喚されるかはわからない上、必要な供物が大量ですので、実践された例はあまりにも少ないですが」

 ふーん、と唸りつつ、あづさは納得する。

 成程、高いコストを支払って手に入るものが『異世界の生き物』。要は、人間でない生き物が召喚される可能性もある、ということなのだろう。それでは到底、そう何度も試す気にはなれない。

「……じゃあ私、召喚されたのかしら?」

「うーん、難しいところですね。失礼ですが、そちらの四天王団には供物にできるようなものがそう多くあったとは思えませんし……」

「うん、そうね」

 あづさがシルビアの言葉に深く頷くと、シルビアは苦笑しつつ、気を取り直すように喋り始めた。

「ですからあづさ様は誰に召喚されたでもなく、迷い込んでこられたのだと思いますよ」

「そういうこともあるのね?」

「ええ。勿論、魔物の国に迷い込んでこられる、というのは中々珍しいですが……召喚された、というよりは納得がいくでしょう?」

「本当にそうね。……彼、そもそも財産を蓄えるっていうことに興味なさそうだし」

 あづさの頭の中でギルヴァスが『召喚するための供物も用意できなくてすまん……』と謝りだしたので、ひとまずあづさは考えるのをやめた。


 だがひとまず、あづさは『誰か意図したためにこの世界に来たとは限らない』という事実を確認できた。本当に、単に運が悪かっただけなのかもしれない。

「とりあえず、私が何でこの世界に来たかは分からない、ってことなのかしら」

「そうですね……ネフワ様は何かご存知ですか?」

 シルビアが尋ねると、ネフワはふわふわと体を動かして悩む様子を見せてから……板の上に文字を並べ始めた。

『よばれると せかい こえちゃう にゃー』

「ああ、召喚、ね」

『それから いっぱい おねがい こえちゃう にゃー』

「……お願い?」

 あづさが首を傾げると、シルビアは言葉に困り……。

「あー、強く望めば、って奴かァ?俺も聞いたことあるぜ、それはよォ」

 そんなシルビアに代わってか、或いは特に何も考えずにか、ラギトが説明を引き継いだ。




「あづさの世界に魔法はねェっつう話だったよな?」

「そうよ。その代わりと言っちゃ何だけど、科学があるのよね」

 確認して、ラギトはふんふん、と頷き……首を傾げた。

「それ、ホントかァ?」

「……どういうことよ」

「いや、だってよォ、あづさ。考えてみろよ!この世界じゃ、魔法は使えるし、その『かがく』って奴もできるんだぜ?」

 そういうことだってあるでしょうよ、と思いつつ、あづさはひとまず黙ってラギトの論を聞く。

「ってことはよ。お前が知らなかっただけで、お前の世界にも魔法があったんじゃねェか?魔法って強く望むと発動しちまうことあるし、お前は自力で魔法を使ってこっちに来た!どうだ!」

「そう言われてもね」

 あづさはため息を吐く。そうだったとしても、あづさの記憶には、それほど強く異世界へ行きたいなどと望んだ覚えは無い。あったとしてもそれならばもっと適切なタイミングがあったはずで、少なくとも、学校へ行こうとして家を出たあたりで魔法を使ってしまった、とは、到底思えないのだ。

 あづさが渋い顔をしていると、ラギトは首を傾げ……言った。

「……じゃあ、誰かに、どっかに行っちまえって、思われたとかかァ?」


 あづさは一瞬、自分が凍りついたように感じさえしたが、それも一瞬の事だ。

 すぐに思い直し、苦笑いしつつ、ため息とともに吐き出す。

「そうね。それならまあ、自分がそう望んだっていうよりはよっぽど心当たりがあるわ。それにしたって、朝、登校する時間にそんなこと思われるとは思えないけど」

「そうかァ。良い考えだったと思ったンだけどなァ……」

 ラギトは唸りつつ足で頭を掻く。そんなラギトとあづさとを、シルビアははらはらした様子で見ている。傍から聞いていたら、確かに少々不穏な会話だっただろう。

「……ま、いいや。その内分かるって」

「そうね。最初っからあなたがこの謎を解いてくれるとは思ってなかったわよ」

 結局、あづさはため息混じりにそう言って、この話を切り上げるのだった。




「そういえばあづさって、よく分かんねェまま、自分の世界じゃない世界で生活してんのかァ……」

 だが、ラギトはこの話をもう少し続けたいらしい。

「そりゃあ、不安だよなァ」

「まあ多少はね?でもそんなに悪い環境でもないし……」

「じゃあ寂しい?」

「あなたみたいな煩いのが居るから寂しいって思う暇もないわよ」

 あづさが答えると、ラギトは何やら閃いたように笑顔になり……言った。

「よし!あづさ!俺のことは家族……いや、お兄ちゃんだと思ってくれていいぜ!な!」


 あづさは、思う。

 あんたはお兄ちゃんよりは間違いなく弟ポジションよ、と。

 何ならペット枠よ、とも。


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