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誰が四天王最弱ですって?  作者: もちもち物質
二章:女帝と参謀系女子
40/161

40話

「な……きゅ、急だな」

「そうかしら。『電池』って出てきた時点で、次はここしかない、って思ったわ。水と電気の相性なんて言わずもがなじゃない?」

 まるでぽかんとしているギルヴァス相手にあづさは……笑った。

「そっか。あなた、物理のぶの字も知らないのね。いいわ。教えてあげる。相棒がこれじゃ、作戦遂行に支障が出るもの」

 あづさはギルヴァスを伴って、自分の部屋へと向かった。

 理科系統については化学の教科書しか持っていないが、電池のしくみは載っているはずだ。そして、簡単に『電気』について説明するなら、あづさが持っている知識だけでもそれなりに役立つだろう。

 魔法を教えてもらった恩返しね、と思いつつ、あづさはうきうきと歩いた。




「……成程なあ。異世界人は魔法を使わない代わりに、電気を使っているのか」

「ある意味ではそうね。私にとっての『魔法』って、あなた達にとっての『科学』かも」

 科学もある意味では、魔法のようなものだ。昔々は科学を錬金術だと言っていたのだから。

「……しかし、どうしてこれが水の四天王に効くと……?」

 ギルヴァスの問いに、あづさは苦笑しつつ答えた。

「水の四天王って言うくらいだから、水の中に住んでいる種族が多いんだと思ったけれど、どう?」

「まあ、多い。キラーシャークなり、ケルピーなり、水中に住まう魔物が多い団だな。オデッティア自身も、水の四天王城を水中に構えている。だからあそこに攻め入るのは中々に骨だぞ」

「へえ。四天王自身も水中に、ね。最高じゃない」

 ギルヴァスが首を傾げる一方、あづさはただ、にこにこと笑うのだった。

「私達の世界の『魔法』、楽しみにしておいて」




 そして2日後。

 予告どおり、ラギトがあづさを迎えに来た。

「あづさー!迎えに来たぞー!」

「はいはい。今行くわよ」

 あづさは荷物をまとめた鞄を手に、ラギトの待つ窓辺へと向かった。

 ……昨日、あづさは荷物を準備するために丸一日を費やしていた。

 まず、ラギトが以前に持ってきていた鞄に着替えを詰め。それから化学の教科書と資料集を見て、その中から電池に関わる部分を抜き出しては紙に書き写し。

 化学の教科書の抜粋の写しが完成すると、それも鞄に詰め。

 ……そして、ギルヴァスに手伝ってもらって、数種類の金属板を用意した。

「よし!んじゃあ行くか!」

「ええ。よろしくね、ラギト」

「任せとけ!……ってことでギルヴァスよォ。あづさ借りてくからな!」

 窓辺であづさが振り返ると、そわそわした様子のギルヴァスが居た。

「あ、ああ……あづさ、本当に1人で大丈夫か?」

 終いにはそんな事を言うのだから、あづさは思わず笑い出す。

「大丈夫よ。ラギトも一緒だし、私だって多少の事はできるわ」

「そ、そうか、そうだったな、うん」

 ギルヴァスは心配そうにしていたが、今回招待されているのはあづさだけである。ラギトは『別についてきてもいいぜ』と言っていたが、あづさとしてはやはり、1人で行きたかった。

「そんなにそわそわしないでよ。あなたこそ大丈夫?」

「……俺が心配される側とはなあ……」

「心配したくなっちゃうような落ち着かなさなのだもの」

 あづさが苦笑すると、ギルヴァスはため息を吐いて、気まずげに頭を掻いて……それからおずおずと、あづさに言った。

「……俺は大丈夫だ。君の方こそ、気をつけて」

「ええ。お土産、何か持って帰ってくるわ。楽しみにしててね」

 あづさはウインクを1つ飛ばしてラギトの足に掴まると、ラギトは「よっしゃーいくぞー!」と元気に叫んで窓辺から飛び立ったのだった。


 ……今回、あづさが1人で行くのには理由がある。

 それは、様々な情報を、盗んでくるためなのだ。




「こっちの方に来るのは2度目だけど、前に来た時と印象が違うわね」

「ん?……あー、そっか。パーティーの時に来たンだったなァ。あの時は夜だったから景色なんて碌に見えなかっただろ?」

「そうね。今の方がよく見えるわ」

 眼下に広がる景色は、見事なものだった。

 色とりどりに華やかな花畑。聳え立つ山々。谷を流れる川、そして滝。森は緑が深く濃く、草原は明るく広い。

『美』を意識する種族が多いからか、それらの景色はまるで1つの絵画のように整って美しかった。

「あの山の辺りが俺達の住処だ!」

「へえ。森じゃないのね」

「おう!やっぱり空が近いほうがいいだろ!」

 ラギトが示す先には、鋭く切り立った山が並ぶ山脈がある。その中心がハーピィの里なのだろう。山の間を飛び回るハーピィ達の姿がちらほら見て取れた。

「で、雷光隊の住処はあっちの山だ!」

 そして、向かう先にはやはり、山がある。その山はハーピィ達の住処とは異なり、鋭さはなく……代わりに、山の上にぽふん、と、如何にも『綿雲』といった風情の雲を乗せていた。

「あの山がまるごと1つ、雷光隊の研究所なんだ!すげェだろ!」

 ラギトが降下していくに従って、山が近づいてくる。山の頭に掛かった雲に突入し、そしてそのまま山の頂上へ降り立ち……。

「……あらっ」

 そこであづさは気づいた。なんと、山の頂上はぽっかりと空洞になっているのだ。

 頂上だけではない。ラギトが降下して山の中に入り込んで、あづさはようやく、理解する。『山がまるごと1つ研究所』という言葉の意味に。

「山1つまるごと、ね……これは、すごいわ……」

 どうやら雷光隊の研究所は、山をまるごと1つくり抜いたその内部にあるらしい。




「お待ちしておりました。アヅサ・コウヤ様ですね」

 研究所内に降り立ったラギトとあづさに、1人の女性が近づいてきた。

 真白いシャツと薄緑のスカート、その上に白衣めいた長い上着を羽織っている姿は、正に研究者、といった風情である。

 ……だが1つ彼女が人間ではない証拠を挙げるならば……その長い銀髪や白衣やスカートの裾が、揺らめいて空気に溶けてしまっているところだろうか。

「私は雷光隊副隊長のシルビアと申します。種族はシルフです」

「シルビアさんね。よろしく。お手紙をありがとう。是非協力して、技術開発を進めましょう」

 あづさが手を差し出すと、シルビアは微笑んであづさの手を握った。

「あなたが友好的な異世界人でよかった。歓迎します。地の参謀殿」


 それからあづさとラギトはシルビアの案内で研究所の奥へと進んでいった。

「我ら雷光隊は主にシルフとクラウディアンによって構成されています。雷光隊結成のきっかけは天候を操る魔法の開発でしたが……今は天候にも魔法にもこだわらず、新たなことに取り組み続ける研究部隊として活動しています」

 シルビアの案内を聞きつつ、あづさは研究所内を見回し……如何にも異世界の研究所、といった光景に目を奪われていた。

 行き交う研究員達は、シルビア同様に髪や衣服の裾が空気に溶けた美男美女であったり、真白くふわふわとした揃いの服を身につけて飛び回る少年少女であったり。彼彼女らがシルフとクラウディアン、ということなのだろう。

 そんな研究員の彼らは、細かな図表を囲んで討論していたり、美しい宝石を銀線で繋いで石の板の上に這わせたり、美しい細工のガラス器具の中で不思議な色の液体を混ぜ合わせていたり、と、様々に活動していた。

「新しいことへ新しいことへと進んでいきたいのは我ら風のもの達の特性ですね。そのせいで研究が1つの成果となる前に投げ出されてしまうこともままありますが。しかし我ら雷光隊は忘れ去った研究も多いですが、新たに吹き込ませた風もまた、多いのです」

 シルビアは苦笑して、研究所の奥の扉を開けて更に先へと進むのだった。


「……ところでラギト・レラ四天王代理。あなたも見学なさる、ということですか?」

「ん?おう!色ンな事知ってたほうがいいだろ!当然!」

 廊下を進みながら、ふとシルビアがそう尋ねると、ラギトは胸を張ってそう答えた。ラギトはここまで当たり前のようについてきていたが、よくよく考えるまでもなく、ラギトはここに呼ばれていない。

「それに、あづさのこと、ギルヴァスの野郎から頼まれてンだよ。あづさも俺が居た方がいいよな?な?」

 だが、ラギトが好奇心と嘆願を瞳に湛えてあづさを見つめるので、あづさは苦笑するしかない。

「シルビアさんさえ良ければ、ね」

「私は構いません。四天王代理にも是非、見て頂ければと思います」

「おう!そうだろ!じゃあ決まりだよなァ!俺も付いていくからな!」

 嬉しそうに翼をぱたぱたさせつつラギトがそう言うのを聞いて、あづさとシルビアは顔を見合わせて苦笑するのだった。




「隊長。シルビアです。あづさ様とラギト様をお連れしました」

 やがて辿り着いた扉をノックして、シルビアはそう声を掛ける。

 すると部屋の中から、ぴこん!と音がした。

「失礼します」

 シルビアは一礼しつつ扉を開け、中へとあづさ達を促した。

 ……そこであづさは、驚愕することになる。


 そこに居たのは、宙に浮く巨大な綿飴の如き生き物だった。


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