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誰が四天王最弱ですって?  作者: もちもち物質
一章:彼は四天王最弱……だった
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31話

「……来たぞ!」

 ギルヴァスが声を上げる。

 領地の向こうから、凄まじく強い、台風めいた気配が向かってきていた。

「いよいよね!……ラギト、準備はいい?」

 あづさが声を掛けると、ラギトは緊張した面持ちで頷いた。

 ラギトの格好は、戦装束というよりは、このまま舞踏でもさせた方がそれらしいのではないか、と思われるようなきらびやかなものだ。だが事実、これがラギトの最強の装備なのである。

「大丈夫よ。皆、ついてるわ」

 緊張した様子のラギトにあづさがそう声を掛けると、ラギトは強く頷いた。

 ……ラギトが静かだと、なんとなく違和感がある。あづさは苦笑しつつ、ラギトの背を叩いた。

「ほら。次期風の四天王。頑張って!」

「お、おう。当然だ!頑張る!」

 ラギトは意を決したように立ち上がると、後ろに控えていた種々雑多な仲間達……風の四天王団の亡命者達を振り返って、翼を高く掲げた。

「これから風の四天王団は新しくなる!古いものに縛られてるのは風らしくねえ!俺達が求めるのは自由だ!……お前ら!思いっきりやるぞ!」

 ラギトの勢いのある言葉は、風の四天王団の皆を存分に鼓舞して、大きな歓声を上げさせたのだった。




 ラギトが翼を広げて飛び出していくと、それに他のハーピィ達も続いた。

 風の四天王団きっての戦闘部隊である彼ら風鳥隊は、今までの戦いの無い平和な状況の中、単なる使い走りとしてこき使われることで鬱屈としていた。だからこそ今、こうして大空を飛び、強大なる『悪』を倒さんとする状況に、彼らは興奮していた。

 ……戦いの中で輝く種族にとっては、ある意味で平和が敵なのだ。

「隊長!見えてきたな!」

「ああ。……んじゃあ、このあたりかァ」

 ラギトはくるりとその場で旋回すると、宙の一点に留まる。

 ちらりと下を見ると、地面に穴が空いているのが見える。……この穴が、ラギト達の生命線だ。

「いいか!俺達の仕事は陽動だ!最初は俺達は戦わねえ!……けど、ファラーシアが傷を負ったら、俺達の出番だ!思いっきり戦うぞ!いいな!全員気をつけて飛ぶんだぞ!くれぐれも、俺達が撃ち落とされねえようにな!」

「分かってるよ、隊長!」

「散々、地の参謀に聞かされたぜ!」

 ラギトが隊員達に確認すると、隊員達は皆、高揚した様子で元気に応えた。

 ……そして。

「しかしよー、隊長!あの地の参謀、綺麗だな!ちょっと怖ェけど!でも頭もいいしかわいい!隊長が四天王になったらあの子、引き抜くのか?あの子、風の参謀になるのか?」

「隊長ならきっといけるぜ!最強の風鳥隊隊長にして風の四天王だ!どんな女だってついていきたくなるに決まってる!」

「私達は強くて美しい風鳥隊だ!隊長!自信持って頑張っておくれよ!」

「あーあ、早く地のとこからこっちにこないかなあ!じゃなきゃ、手ェ出せねえもんなァ!」

 高揚した気分もそのままに、ハーピィ達は好き勝手に騒ぎ出す。元々こういった騒ぎが好きな種族だ。当然と言えば当然であるが。

「あ、あづさは駄目だ!あいつは魔王様と約束してるんだ。地の四天王領を良くしなきゃいけないんだってよ」

 ラギトは慌ててそう言うと、他のハーピィ達は皆、口々に落胆の言葉や文句を零し始める。

「けど!1年だ!1年であづさは地の四天王領を良くし終わるらしい!だから1年待て!」

 だがラギトがそう言えば、ハーピィ達はぴたりと文句を言わなくなる。

「そんでよォ、1年後、引き抜けるように……今日ここで派手に戦って勝って、俺達の強さと美しさを見せつけてやるんだ!」

 そしてラギトが勇ましく声を上げれば、ハーピィ達は揃って楽しげな歓声を上げるのだった。

 ……ハーピィという種族は、揃って皆、単純なのである。




 そして、数分後。ラギト達は強大な敵と、向かい合っていた。

「……ラギト。どういうつもり?」

 睨まれて、低く声を掛けられて、ラギトは思わず竦み上がる。

 目の前に居る敵は、ついこの間まで自分の主だった相手だ。強く美しい風の四天王、ファラーシア・トゥーラリーフだ。

 ファラーシアは蝶の羽を美しく羽ばたかせながら、ラギト達を見下ろすように、より高い位置で滞空する。

「まさかあなた達、地の四天王に唆されて裏切ったんじゃ、ないでしょうねえ!?」

 自分より強い者からのプレッシャー。その圧力に、恐怖に、ラギトは平服してしまいそうになる。

 ……強い者にすり寄れば、生きていけるのだ。それも、そこまでは悪くない形で。

 だが、それは自分達の選びたい生き方ではないのだ。自由を一度夢見てしまったなら、もう、止まれない。

「……あァ。違うぜ、ファラーシア様」

 ラギトはファラーシアをじっと睨むと……より高く、ファラーシアを見下ろす位置へと舞い上がって、言った。

「俺達は地の四天王に唆されてなんかいねェ!俺達は俺達の意思で!テメエを倒して自由を得る!」




 ファラーシアは一瞬、ショックに打たれて固まった。

 部下からの裏切りの宣告は、ファラーシアの精神に大きな打撃を与えていったのである。

 ……そして、ファラーシアが固まったその1秒程度は、あまりにも大きかった。


 ラギトが迫ったその瞬間、ファラーシアは咄嗟に守りの姿勢を取った。

 ハーピィが最も得意とする技は、その鉤爪の脚を繰り出す蹴り技。次点が、風の魔法の攻撃だろうか。ファラーシアはそのどちらにも対応できるように身を固める。

 ……だが、ファラーシアはその時、守りに入らず、回避に移るべきだったのだ。

 そう後悔した時にはもう遅い。ファラーシアの予想から外れて、ラギトはファラーシアにその足で掴みかかっていた。

「え」

 ファラーシアが間の抜けた声を上げるや否や、ラギトはファラーシアのごく至近距離でにやりと笑う。

「遅いぜ!」

 途端、ファラーシアを衝撃が襲う。

 まず、細い腰に鉤爪が容赦なく食い込んだ。次に体が大きく動かされた。そしてぐるり、と視界が回り……ファラーシアは、見た。

 ラギトがしなやかな体をバネのようにしならせて宙を舞い……ファラーシアを地上へと投げ飛ばすのを。


「舐めるんじゃないわよ!」

 ファラーシアは叫んで、地上にぶつかる寸前、体勢を立て直す。ファラーシアは風の四天王だ。いくら不意を突かれたからとはいえ、地に叩きつけられるような下手は打たない。

「いいわ、そっちがその気なら望み通りにしてあげる!」

 ファラーシアは風の魔法を半ば無意識に使って、ハーピィ達へと放つ。するとそれだけでハーピィ達は風に巻き込まれ、地に落ちる者も出始めた。



 ラギト達、風鳥隊のハーピィ達が、一斉に舞い上がる。ファラーシアが何事かと反応するより先に……周囲が一気に、煌めいた。

 陽光を強く反射して宙を飛び交うのは、宝石。その1つ1つがそれなりに大きな価値のあるであろう、大粒の宝石だ。


 ……ファラーシアはまたも驚きに固まった。

 美しい光景を見て、攻撃されているのだとは咄嗟に理解できなかった。

 ファラーシアは美しいものに目がない。宝石も配下に命じて多く集めさせてきた。

 そんな宝石が一気に宙に舞って、ファラーシアはその光景に目を奪われ、そして動くことを忘れてしまったのである。

 宝石の多くはただ宙に向けてばら撒かれるばかりだった。だが、その中には自分に向けて飛んでくる宝石もある。そうした美しい宝石は残酷にも、ファラーシアを容赦なく打ち据えた。

 ファラーシアは自分の腕に宝石が鋭くぶつかったことでようやく、これが攻撃なのだと悟った。

 ……そして理解と同時に、ぞっとした。

 かくも美しいものを、さながら只の石ころと同じように攻撃に使う敵の思考に。

 ファラーシアには到底理解できないその思考に、ファラーシアは……確かに、恐怖したのである。


 ファラーシアは飛び交う宝石から何とか逃れようと飛ぶ。だが、避けるにはあまりにも宝石の数が多すぎる。

 宝石の全てがファラーシアを正確に狙っているのであればまだ、避けられただろう。だが、宝石はまるで無秩序に、ファラーシアの周囲にばら撒かれるのだ。相手の動きを読む意味も最早無い。

 ……そして何より、美しい宝石はファラーシアの視界の中で強く目立って、集中を削いだ。

 相手の動きを見てからでも攻撃を避けることができる程に素早いファラーシアだったが、そのためにはそれなりに集中しなければならない。それができなかったなら、ファラーシアがいくら速く動けようとも、ファラーシアにはその攻撃を見切ることができないのだ。

 結果、逃げ惑おうともファラーシアにぶつかる宝石は多く、そしてその勢いは衰えず……。


 ……遂に、宝石の1つが、ファラーシアの羽を、撃ち抜いた。

 ファラーシアの、自慢の羽を。




 瞬間、ファラーシアは激昂した。


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― 新着の感想 ―
[一言] なぜでしょう。 ハーピィなのに、“舞”より“クロウ”って 感じがします… 「自由を追い求めて」ってところとか。
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