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誰が四天王最弱ですって?  作者: もちもち物質
一章:彼は四天王最弱……だった
30/161

30話

 その日の夜には、ビータウルス達の他に数種族が亡命してきた。

 まず、アルラウネ。生きて動く花の魔物は、皆美しい人間のような見目をしており、そんな彼彼女らが逃げてくると、地の四天王城はずいぶんと華やいだ。

 次に、ハーピィ。素早く長距離を動くのに向かないアルラウネ達を運んでくる役目も果たしていたが、それ以上に、彼ら自身が亡命もとい謀反を決めたのである。

 ハーピィはその多くが風鳥隊に属している。ラギトを隊長とする彼らは、ラギトの一声で見事、全員がこちらに寝返ったのだった。

 ……他にも、木の妖精ドリアードや蜘蛛の下半身を持つアラクネ、巨大スズメバチとでも言うべきヘルワスプらがやってきて、天馬、一角獣、銀狼や風狐なども続いてやってきた。

「……流石、風の者達は行動が速い」

「半日でこれだものね」

 ラギト達が呼びかけに行って、たった半日でこれである。明日の朝には更に多くの種族が押しかけるかもしれない、ともあり、流石にあづさとギルヴァスもてんてこ舞いの忙しさであった。

「スケルトン達がよく働くのが救いだわ……」

「何だかんだ、うちの配下の中では一番知能が高いだろうしなあ……」

 その中で忙しさを緩和していたのが、スケルトン達である。

 彼らはあづさが頼んでおいた弓を生産する傍ら、仕留めた獣も一緒に納めてきたのである。おかげでなんとか、地の四天王領の貧しい食料事情でも、亡命してきた種族に食べさせる程度はなんとかなっていた。

「でもこれ。長期戦になったら辛いわね」

「そうだなあ……うーん、これが終わったら農地を作るべきだな」

「逆に今まで無かったのがびっくりよ」

 一定以上の数の生き物が生きていくには、農業と化学が欠かせない。あづさは『さっさとこの戦いにケリをつけましょう』と心の中で強く思った。

「……だが、これだけの種族がラギトの味方になってくれたんだ。心強いな」

「ま、そうね。これだけ数が居れば、『下手な鉄砲』も撃ち甲斐があるってものよね」

 動き回る各種族は、皆がそれぞれに何かしらかの仕事をしている。

 自分達の住処の確保であったり、後から来た種族の手伝いをしていたり、或いは武器らしいものを作っていたり。

 彼らが各々動く様子は、あづさとギルヴァスの目にも快いものとして映った。




 それからあづさ達は、亡命してきた種族のための寝床づくりを行った。

 建物はいつもの如くギルヴァスが生み出し、あづさはできあがった部屋を各種族に割り当てていく。

 当然、家具も何も無い申し訳程度の避難所ではあったが、アラクネ達が早速機織りを始めた。そうして眠る時の掛け布が必要な種族に分け与えられ始めると、それなりに快適に眠れるようになったらしく、その内どの種族も眠るなり、起きていても静かにしているなりし始めた。

「……さて、俺達も休もう。あづさ。君もだ。働きすぎだぞ」

「分かってるわよ」

 あづさは欠伸をしながら、しかし、机の上の宝石を触り続けている。

「それは?」

「ああ、これ?リビングロックよ」


 ギルヴァスが机の上の宝石を眺めていると、ふと、その内の1つが、ころん、と転がった。当然、机が傾いているわけでもなく、あづさやギルヴァスがつついたわけでもない。

「この宝石が、リビングロックか」

「そう。彼ら、石から石へ憑依し直せるらしいから、宝石にもくっつけるのかしら、って思って。そしたらこの通り、よ」

「ほう。そんなこともできるのか」

 ギルヴァスも物珍し気に生きた宝石となった彼らを眺めて唸る。

「……そういえば、あづさ。君は宝石を『下手な鉄砲にする』と言っていたが、まさか、彼らを……」

「ひどい目には遭わせないわよ。当然」

 青ざめかけたギルヴァスを制して、あづさはにっこり笑う。

「ただ、風の四天王が身に着けている装飾品の宝石にも乗り移れるのかしら?乗り移った時、その宝石に込められていた守りの魔術とかってどうなるのかしら?って疑問に思っただけ」

 ころんころんと自慢げに転がる宝石を示して、あづさは言った。

「ちなみに結果は大成功よ。装飾品になってる宝石にも乗り移ろうと思えば乗り移れるし、その宝石に守りの魔術が組み込まれていたなら……」

「……無効化、か?」

「いいえ?流石にそれができるかはリビングロック自身がどれくらい魔法を使えるかに依存するみたいだけれど……少なくともその守りの魔法は、リビングロック自身を守ってくれるみたい」


 あづさがざっと試したところによれば。

 守りの魔術を込めた装飾品の宝石にリビングロックを取り憑かせると、若干、守りの魔術の効果が下がる。リビングロックの分、仕方ないことだろう。

 ……だが、それはリビングロックを守る魔術にもなる。リビングロックの安全がより強化されるのだ。

 そして。

「それでね。そもそもリビングロックって、何のために石から石に移り住んでるのかな、って思ったんだけれど……多分、『魔力』なんじゃないかしら」

「魔力?……ああ!魔力を吸うため、ということか!」

「そう!ヘルルート達がマンドラゴラを植え替えてあげてたみたいに、リビングロックもお引越しすることで魔力を得ようとしてるのよ!」

 成程なあ、とギルヴァスは感嘆のため息を吐きつつ……気づいた。

「……つまり。ファラーシアの装飾品に、リビングロック達が取り憑いたら……」

「ファラーシアの魔力が吸い取られる、っていうことになるわね」

 魔力とは力の源なのである。魔力を吸ったマンドラゴラが元気になったことも然り、侵食地帯に草が生えたことも然り。

 そんな魔力を吸収する装飾品を身に着けていたなら……ファラーシアは、弱るだろう。

 そして、ファラーシアが装飾品の異変に気づいて装飾品を外したとしても、それはそれで良い。守りの魔法が込められた装飾品を外したならば、それはそれでファラーシアの弱体化が望めるのだ。




「ということで。主戦力はラギト達風鳥隊と、安全圏から発射する矢や石、ということになるけれど、それ以外にリビングロックの力を借りてファラーシアの弱体化も行っていきましょう」

「恐ろしいなあ……」

「要は、私達が手を出さないことが重要なんじゃなくて、手を出してることがバレないことと、手を出してないって言い張れることが重要なのよ」

 あづさがにっこり笑うと、ギルヴァスは苦笑しながらも楽しげに頷く。

 ……そしてふと、ギルヴァスは疑問に思うのである。

「……ところで、宝石を『下手な鉄砲』にする、というのは……」

 あづさの言っていた言葉は、どうやら、リビングロック達を使い捨てていく、という意味ではなかったらしい。では、宝石を『下手な鉄砲』にする、というのは……。

「そのままの意味よ。発射する石は宝石ね、っていうこと。宝石をばら撒いちゃうの。あ、勿論、宝石はリビングロックじゃない奴よ?ただ、キラキラしてたら相手の注意を間違いなく奪えるじゃない?そうなったら、相手の動きを鈍らせることに繋がるわ。その分、鉱山の魔力は後で補填しましょう。その時はラギトとかも使って」

「それは……豪勢だなあ……」

 ギルヴァスがぽかんとする中、あづさはいっそう楽しげに笑った。

「対・風の四天王用の戦略よ!宝石だって惜しみなく使って、派手にいきましょう!」




 ……どれくらい眠っていただろうか。ファラーシアが目覚めると、酷く体が怠かった。時計を見ると、もう朝だった。夕方頃に眠ったはずなのに、ずいぶんと長く眠ったものだ。

 ずっと眠っていたからか、頭がぼんやりする。顔がむくんでいる感覚があり、ファラーシアは酷く不愉快になる。

 ファラーシアは、常に美しく居たい。顔がむくむなど、あってはならない。……だが、今は病み上がりなのだから仕方ない。ファラーシアはそう自分を納得させると、頬をマッサージしつつ、喉が渇いていることに気づいた。

 誰かに水を持ってこさせるべく、リン、と呼び鈴を鳴らす。

 ……しかし、いつもならすぐに飛んでくるはずの召使いが、来ない。

 ファラーシアは苛立ちながら、もう一度、強く呼び鈴を鳴らす。だが、誰も来ない。

 数度、呼び鈴が強く鳴って部屋の空気を震わせた。それでも尚静まり返った空気がいっそうファラーシアの苛立ちを募らせる。

「何してるのよっ!ノロマね!」

 怒鳴り声を上げて、苛立ち紛れに呼び鈴を払い飛ばす。乱暴に落とされた呼び鈴は床にぶつかって、激しく剣呑な音を立てた。

 ……だが、それでも城の中は静まり返っていた。

 ここでようやく、ファラーシアは苛立ちの中に違和感を覚える。

 弱い配下が自分を怖がって寄ってこないにしても、それでも、ここまで呼んでも誰も来ないどころか、城内がこんなに静まり返っているのは一体何故だろう。

 違和感がじわじわと恐怖のようなものに変わっていくにつれ、ファラーシアは耐えきれなくなって自分から起き上がる。部屋着のまま、そっと、部屋の外の様子を窺う。

 ……ドアの向こうを覗くが、そこには誰も居なかった。

 ファラーシアはそのまま部屋を出て、城の中を進んでいく。

 だが、誰も居ない。

 遂に耐えきれなくなって、ファラーシアは走り出す。城の中を駆けて、駆けて……そこに誰も居ないという現実を知るのだ。

 そう。

 城の中にはファラーシア以外、誰も居なかったのである。


「……どうなってるのよ……」

 声が震えるのをどうすることもできず、ファラーシアは必死に辺りを見回す。どこにも誰も居やしないと分かっているのに、視線を動かさずにはいられない。

「何で、誰も居ないのよ……!」

 現実逃避に似た混乱がファラーシアの脳内を満たして、何も考えられない。

 それほどまでに、この光景は衝撃的だった。

 自分の配下が誰も居ない。……それが意味するところは1つ。

『配下の裏切り』だ。

 そう分かっているのに、ファラーシアは結論を出せない。何が起きたのか。これからどうすれば良いのか。何も考えられない。そして何も考えられないまま、ファラーシアは、思う。

「……誰の、せい?誰が、やったの?」

 考えたのではなく、思った。ただ、混乱の中、子供じみた逃避の一環。これは誰かのせいなのだ、と。

 ……そしてそれは、眠りに就く前に憎しみを向けていた相手へと、重なる。

「また、あいつが何かしたんだわ!」

 ファラーシアがヒステリックに叫ぶと同時、ファラーシアの感情を表すかのように、ごう、と風が強く吹く。

「何か企んでたんだわ!私に毒を盛って解呪の宝玉を盗んで!それで!今度は配下まで!盗んでいったッ!」

 凄まじい風が荒れ狂う中心で、ファラーシアは狂気めいて虚空を睨む。

「……ぶっ潰してやるわ!今度こそ!魔王軍の恥晒し!勇者に負けて前王を殺されてのうのうと生きてるあのクズを!」


 風の四天王城に、狂気の高笑いが響いた。

 だが、その声に応えるものは無く……結局、ファラーシアが装備を整えて出発したその時も風の城は空虚なばかりで、誰の声も在りはしないのだった。


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