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誰が四天王最弱ですって?  作者: もちもち物質
一章:彼は四天王最弱……だった
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18話

 翌日。あづさとギルヴァスは侵食地帯に到着していた。

「傷は開いてない?」

「大丈夫だ、そんなに心配しなくても」

「気になっちゃうのよ。目の前であんなに血を流す人なんて初めて見たんだもの。結構衝撃だったんだからね」

「あー……そうか、それはすまなかった」

「申し訳なく思うんだったら早く完治させて頂戴」

 やりとりをしつつ2人は地面を踏みしめ、歩く。

 ……数歩歩いただけで、あづさにはこの土地の性質が分かった。

「ここ、粘っこいわね……」

「呪われてるからなあ」

 履いている靴は、ローファーではない。以前ラギトが持ってきてくれた服一式の中にあったサンダルなのだが、もしかしたらしっかりしたローファーを履いてきた方が良かったかもしれない。

「全体的にぬるぬるしてるし……」

「呪われてるからなあ」

 地面はどこか粘っこく、湿っぽい。見渡せば、所々ぬかるんだ箇所もある。

 そして何より。

「というかここ、なんで紫色してるのよ……」

「呪われてるからなあ」

 地面が、緑と紫のまだら模様をしていた。

 どう見ても、異常である。

 大量に宝石が採れる鉱山も、謎の生物が生息している森林も、ドラゴンに変身できる男も、何もかもが異世界らしくはあったが……紫色のぬめって粘る地面で、異世界を感じたくはなかった。

「……呪いって何なの?そういう菌類か何か?」

「いや、呪いは呪いとしか言いようがないが……」

 あづさは未知の『呪い』に只々茫然としつつ、分厚い雲に覆われた曇り空を仰ぐのだった。




 呪われた大地が続く侵食地帯には、魔物も多く住んでいた。

 予め聞いていた通り、スケルトンやゾンビといった、元々人間だったような魔物が見られ、他には動くキノコの魔物……おばけキノコ、と呼ばれている、動くキノコが居たりもする。また、ローパーというのだろうか、触手がくっつきあってうねうねと動く謎の生物も居た。

 スケルトンは礼儀正しい性質らしく、ギルヴァスを見かけるときちんと一礼してみせた。ゾンビも似たような行動を取っていたが、こちらは少々動きが鈍く、礼をしているのか傾いているのかがよく分からない。

 そしておばけキノコ達はぴょこぴょこと足元を跳ねまわるばかりで、ローパーはというと、我関せずとばかりにうねうねしているばかりであった。

「統率がとれてないわね……」

「スケルトンやゾンビは人間型の魔物だから、それなりに知能があって統率もとれるんだが……おばけキノコやローパーに一致団結しろというのは難しいものがあるな。ああ」

「しかもこの土地、解呪したからって言ってすぐに利用できるようになるのかしら……」

「それは大丈夫だと思うが。どちらかというと、解呪した後の彼らの住処をどうするかの方が大変だなあ」

「そう?なら、住処のことだけ考えさせてもらうけど」

 あづさは自分に傅くスケルトンを撫でてやってあしらいつつ、周囲を見回して……ふと、言った。

「ここらへんって、日陰、少ないのね。ゾンビやスケルトンって、陽の光に弱いようなイメージがあったんだけど」

 日陰になりそうな場所と言えば、人間が住めそうな程に大きなキノコの下か、奇妙な形をした岩の影、といった程度である。

 あづさは元の世界の知識や印象から、なんとなく『ゾンビやスケルトンは陽の光が苦手そうよね』と思ってみたが、実際はそうでもないのだろうか。

「ああ、それは大丈夫だ。ここら一帯は霧が出る。陽の光もそう届かない。曇ることも多いからなあ」

「あ、じゃあやっぱり、陽の光は無い方が、彼らには嬉しいのかしら?」

「そうだろうな。たまに晴れると、少ない日陰にぎゅうぎゅう詰まっているのが見られる」

「か、かわいそうじゃないのよ……日陰増やしてやりなさいよ……」

 どうやらゾンビもスケルトンも、日陰の方が嬉しいらしい。となると、やはりこの土地一帯は彼らにとってそれほど住みよくないのではないだろうか。

 あづさはふむ、と頷くと、早速、解呪後に魔物達の住処となる場所を確保するべく、頭を回し始めるのだった。




「要は、日陰、よねえ……じゃあ、適当に穴でも掘るんじゃ駄目かしら。竪穴式住居みたいに」

「竪穴式住居?」

「ええ。要は、こういう具合にね……」

 あづさは適当な小石で地面を掻いて、図を描いていく。

 要は、地面を掘って、その上に屋根を乗せる、という方式の住居だ。日本史の最初の頃に出てくることでおなじみの住居だが、ひとまず仮の住居としては悪くないだろう。

 穴を掘るにしても、道具さえなんとかできれば、スケルトンやゾンビ達と協力してなんとかできるはずだ。

 ……と、あづさは思ったのだが。

「成程。この程度の穴ならすぐに掘れるぞ」

 ギルヴァスから意外な言葉が出てきた。

「えっ?す、すぐに?人間が住めるくらいの穴よ?」

「ああ。つまり部屋ができればいいんだろう?とりあえず1つ、この辺りに掘ってみるか。じゃああづさは俺の背中に乗っていてくれ。危ないからな」

 ギルヴァスはそう言うと、ドラゴンの姿に変わった。そしてあづさがよく分からないままギルヴァスの背中に収まった事を確認し、大きく息を吸い込んだかと思うと……。

 轟音。

 地面に向かって吐き出された凄まじいエネルギーが炸裂した。




 粘る大地は、掘削に向いていたかもしれない。砂塵が土埃となって宙を舞うこともなく、ただ、周囲にまき散らされた泥や粘土がばたばたと落ちていくだけである。

 あづさの上にも泥が降り注いだが、それはギルヴァスの翼に阻まれてあづさまで到達しなかった。

 ……そうして泥の雨が収まった後、ギルヴァスは人間の姿に戻って、満足げに頷いた。

「まあ、こんなもんか」

 ギルヴァスとあづさの前には、恐ろしいことに大穴が生じている。

「……な、なんなの、これ」

「ドラゴンは皆、この程度の事はできる。俺はむしろ、弱いくらいだが」

「これ以上強くって堪るもんですかっ!何よこれ!地下2階ぐらいまでできちゃってるじゃない!」

 穴は深く、深さ10m弱はあるように見えた。ほんの数秒でこれほどまでの大穴ができてしまった事実に、あづさは気が遠くなる。

「うーん、これじゃあ住みにくいか。なら階層を区切った方がいいだろうなあ」

 更にギルヴァスは何やらぶつぶつと呟くと、地面に手をついて、じっと穴の中を見つめた。

 ……すると今度は泥岩が穴の断面から生え出て、床を作ってしまったのである。


 それからギルヴァスは、ああした方がいいか、こうした方がいいか、と楽し気に何やら地面を弄り回し、最終的には地下3階まである巨大な地下室ができてしまったのだった。

「……あなた、こんなこと、できたの」

「俺の領地でだけだな。他所じゃこうはいかないが」

「それにしたって……びっくりしたわ。あなたがこんなこと、できるなんて」

「一応これでも、地の四天王なんだがなあ」

 苦笑しつつ、ギルヴァスは地上部分にできた階段を降りていく。あづさも続いて降りていくと、そこはさっきまで何も無い地面だったとは思い難い、しっかりした地下室であった。

 あづさは壁面を触ってみたが、そこにあるのは妙に粘つく泥の触感ではなく、さらりとしてしっとりと冷たい、泥岩の触感である。

「……これ、泥が岩になったの?」

「そうだな。俺の能力だ」

「へえ……あ、もしかしてお城もあなたが造ったの!?」

「そうだなあ。石を積むより、自分で作った方が速かった」

 あづさは只々感嘆しつつ、出来上がった地下室を見て回った。

 ただ何も無い地下室ではあるが、明り取りの窓からは光が差し込み、空気穴もきちんとできているために息苦しくもない。

 そしてなにより、如何にも地下室らしく暗く、ひんやりとして少々湿っぽく、おばけキノコやスケルトンやゾンビにも好評であろうと思われた。ローパーは分からないが。

「……地下室って、なんか、落ち着くわね」

「ああ、君もそう思うか!実は俺もだ。狭くて暗いところはいいなあ」

 出来たばかりの泥岩の床に腰を下ろして、ギルヴァスはにこやかに笑う。

「少し休憩していってもいいか?久しぶりに能力を使ったら少し疲れてしまってなあ」

「構わないわよ。折角だし、ここでお昼ご飯にしましょうか」

 あづさもギルヴァスの隣に座って、持ってきていた食料の包みを開く。

 平焼きのパンと、魔王城の城下町で買ってきたベーコン、そして森林地帯で採れる木の実。それだけの昼食だが、今まで肉類をまともに食べることさえできなかったので、なんとも美味しく感じる。

「はー……早くうちの領地でも畜産したいわね……」

「そうだなあ……」

 2人はのんびりとそう話しつつ、ベーコンの旨味をじっくりと味わうのだった。




 当然のように、侵食地帯の魔物達ともギルヴァスは契約を逐一結んでいった。

 特にスケルトン達は契約に積極的で、ギルヴァスがここら一帯の魔物と契約を結んでいる、と知るや否や、すぐに集まってきて一列に並んで待機し始める有様だった。

 果ては、他のゾンビやおばけキノコ、ローパーといった種族も呼び集めてきて、整列させて待機させる、という有能ぶりを発揮している。

「イベントか人気レストラン前の列みたいね……」

「なんだそれは」

「私が居た国では、こういう風に行列がよくできてたのよ。イベント……ええと、お祭りがあればその会場の前に列ができてたし、人気のお店があったらそこにも人が並んでたわ。特に誰が何を言わなくても、なんか綺麗に並んじゃうのよね」

「几帳面な国だったんだなあ」

「まあ、そうね」


 スケルトン達の誘導によって魔物達はスムーズに流れ、契約は次々と進み、やがて全ての魔物が契約を終了した。

 思っていたよりも随分と早く終わってしまい、あづさもギルヴァスも何やら拍子抜けしたような気分にすらなったが、ひとまず、スケルトンという種族の特性がよく分かった一幕となった。




 城に戻る途中、2人は見覚えのある影を空に見つけた。

「ラギトー!」

 あづさが手を振ると、ラギトもまたあづさ達に気付いていたらしく、その場で滞空する。

「あづさじゃねえか!地の四天王サマも!丁度良かった!ちょっとそこで話さねえ!?」

 恐らく城へ向かう途中だったのだろう。ラギトは城の方へ向かっていたが、用件がすぐ済んでしまうなら、わざわざ城まで来させるのも可哀相だ。

 ギルヴァスはそのあたりの土地に着地して人間の姿に戻る。同じく着地したラギトはギルヴァスに近づいてくると、脚に括りつけてあった筒の中から取り出した巻紙を、無造作にギルヴァスへ放った。

「ほらよ。前言ってたパーティーの招待状だ」

「やった!来たわね!」

「来たなあ……」

 招待状を見て、あづさは飛び跳ねんばかりに喜び、そしてギルヴァスはどこか遠い目をする。

 そんな2人を見てラギトは首を傾げるのだった。


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