最終話『彼女は無力な女の子だった』
降矢あづさは無力な女の子だった。
勿論、あづさが優秀であったことは間違いない。あづさはどこでも優等生であったし、そうあろうと生きてきた。
しかし、努力とセンスによって生み出された人並み以上の能力はあれども、それは未成年の女子1人が持ち得る程度に留まるものであり、魔法が使える訳でもなく、特別大きな権力を持つわけでもなく。
……要は、無力であったのだ。
真弓が死んだ後、あづさは自らの無力を強く悟った。
真弓が死んだ、と聞いた時、真っ先に思い浮かんだのが自殺だった。
……1年前、真弓から相談を受けていたからだ。いじめを受けている、と。
当時のあづさは然るべき機関への相談を勧め、真弓は担任の先生へ相談を行ったらしい。そこである程度、いじめは収まった、と。
しかし、2年生に進級して、またいじめは再燃。1年生の時に担任をしていた先生が異動となったり、学年主任が定年退職になったり、はたまた他のクラスの担任が不祥事を起こして消えたりと、教員側もばたついていた為に真弓についての引継ぎが上手く為されなかったのだろうとあづさには推測できた。
真弓の相談をそれからも受け続けながら、あづさは真弓と同じ高校に進学しなかったことを後悔していた。
真弓よりも学力の高かったあづさは、県内随一の進学校に通っていた。真弓の通う学校はそれより数段、偏差値が低い。
「あづさがわざわざ私に合わせることないよ」と言ってあづさにあづさの学校へ進学することを勧めてくれたのは他ならぬ真弓だったが、真弓の状況は、あづさが1人介入するだけである程度改善できたと思う。もし同じ学校に通っていれば、と、日々思わざるを得なかった。
それでも異なる進路を選んでしまった以上、今更どうしようもなかった。あづさは真弓と連絡を取り続け、然るべき機関にまた相談するように仕向け、真弓を励ましながら状況が改善することを祈った。
……そして夏頃、急に真弓は死んだ。
校舎の屋上から転落死したのだ。
最初に思ったのは、自殺。
あづさの励ましも無意味で、真弓はいじめを苦に自殺したのだと、あづさは最初、そう思って絶望した。
……だが。
充電も忘れて電源が切れていたスマートフォンを再び充電した時、そこで真弓から送られてきていたメッセージをもう一度見て、不審に思ったのだ。
『テストいい点だった!多分学年10位入れる!あづさも今週でテスト終わりだよね?今週末テスト終わったお祝いしよ!』と。
それにあづさも『了解。じゃあいつものとこでスイーツ食べ放題でどう?』と返信している。それに既読がついているから、真弓はあづさの返信を確認していた。
……驕る気にはなれない。だが、それでも……あづさには、真弓があづさに週末の約束を取り付けておきながら自殺するとは、思えなかったのだ。
それからあづさは、真弓の通夜に出て、しかし悲嘆に暮れる真弓の両親に問い詰めることもできず、数日間を過ごし……それから、真弓の両親を手伝って真弓についての手続きを行いながら、少しずつ、真弓の死についての情報を集めていった。
警察は入ったが、学校内の事故だと処理されたらしいこと。学校側は、真弓がいじめを受けていたことを隠蔽しようとしているらしいこと。真弓の両親は真弓が置かれていた状況を知らなかったらしいこと。
……少しずつ集まっていく情報を手繰って手繰って、あづさは高校二年生の夏休みのほとんどを真弓のために使った。
そしてあづさは、知る。
家族でもない『親友』というだけの関係者である、権力者でもないただの女子高生が、手に入れられる情報には限りがありすぎる、と。
では自分以外の誰かの力を借りられたか、というと、それもまた難しかった。
学校側はいじめの隠蔽に必死で、真弓の死の真相にまで手が及んでいない。そもそも、真弓については単なる事故として処理したかったらしい。
学校側がその調子なので、やはり世間をつついてみても、いじめがあったかどうかにだけ問題が終始し、真弓の自殺を疑う者は居なかったのだ。
……様々な機関に働きかけたが、あづさの声を聞こうとする大人は居なかった。
彼女は無力な女の子だった。
自分の限界を知って、あづさは決断する。
ならば自分が証明すればいい。真弓が殺されたことを証明することは難しくても、『あづさが』犯人の罪を証明すればいい。
そんなことのために人生を棒に振るのか、と自問自答しもしたが、結論はすんなりと出た。
……そもそも、真弓の居ない世界で生きる人生に意味はあるのか、と。
真弓以外に取り立てて自分が生きるべき理由も見当たらないあづさだ。こういうことのためにふらっと消えてしまっても、まあ、いいだろう、と。
幸か不幸か、あづさを止める大人はほとんどいなかった。あづさの目的を知る大人は、全くいなかった。
そうしてあづさは、真弓が通っていた高校に、転校したのである。
秋から、あづさは積極的に動いた。
真弓から聞いていた情報を元に、真弓をいじめていた生徒を割り出す。
割り出せば後は早い。彼女らに適当につっかかり、敵視されればいい。
真弓が自殺か他殺か以前に、いじめがあったか無かったかすら曖昧な状況下、殺人どころかいじめの罪についても、犯人達への裁きは特に無かった。
罪に問われることもなかった犯人達からしてみれば、少々萎縮させられたもののむしろそれは鬱憤となっており、その鬱憤を晴らす為の障壁もなく……そして丁度よくやってきたあづさは異物であり、後ろ盾もない転入生。
かくして犯人達は、あづさをあっさりと次のいじめのターゲットにしたのである。
いじめを受けながら、あづさは適度に立ち向かった。
いじめの被害をうまく軽減し、それでいながら証拠となるような写真をひっそりと集め、同時に学業は怠らずに学年一位の学力を保ち続けた。あづさの学力に見合わない偏差値の学校でならば、あづさはほとんどなんの努力もなくずば抜けた優等生で居られた。
いじめの犯人達を煽り、有力な味方は作らず、あづさの非にならない程度に適度に攻撃する隙を与え。
……そうして真弓のことなど何も知らないというふりをしながら、あづさは自らへのいじめをエスカレートさせていき、同時に真弓の周辺の情報を集めていく。
うまく正体を隠して作ったSNSのアカウントで彼女達のアカウントをフォローすれば、外に漏れることをまるで心配していない彼女達の書き込みを易々と覗き見ることができた。
学校中に仕掛けた盗聴器からは、いじめの犯人達の談合を聞くことができたし、そこから、彼女達が真弓を突き落としたらしいことも伺い知れた。
彼女達にとっても、真弓のことは事故だったのだろう。殺すつもりなど到底無く、しかしそれでいて、反省も特にしていない。
真弓の死は無かったことになっていくようだった。
丁度その頃、真弓の死に騒いでいた世間も、年末を間近に控えて真弓のことを取り上げなくなっていった。
世間も学校もあづさと真弓を取り残して、真弓のことを忘れていこうとしていたのだ。
そこであづさは、決断する。
いじめの犯人達の罪を立証することは最早難しい。彼女達の会話の盗聴など証拠にならない。何とでも言い逃れできる。今残っている証拠といったら状況証拠しか無く、やはりこれも幾らでも何とでも言える。今更波風を立てたくない大人が協力するとは思えない。
ならば、真弓殺しの立証は諦める。
ただし、真弓殺しの犯人達には、人を殺した罪への裁きを与える。
そのためにあづさが選んだ道は、真弓殺しの犯人達に、あづさ殺しの罪を犯させることだった。
幸いにも、情報収集のため、転校直前に作ったSNSの公開アカウントがあった。あづさが死んだ後、ゴシップに飢えた報道機関やおせっかい焼きの赤の他人達が調べればすぐに分かるよう、学校名をタグ付けした。
あづさはそれで元の学校の生徒と交流を持ったり、気に入っているアーティストの投稿を保存したり、と、如何にも『ありふれた女子高生が行いそうな生活』を演じるようにした。要は、自分が普通に生きている証拠を残し始めたのである。
日々、生きる気力に溢れた様子を演じ続けた。『学校で嫌なことがあった』と書き込むことはあっても、趣味の世界や元の学校のコミュニティとやり取りをして笑い合い、到底自殺などしそうにない姿を見せ続けた。
それから、学校にも相談し始めた。
優秀な教員と無能な教員の区別はここ数か月でついていた。無能な教員の中でもとりわけ、相談相手に選ぶのはどう考えても悪手であろう、と思われる教員へ相談しに行き……その教員が誤った対応をして問題を大きくしつつ、何も解決しない、上部へあづさの声は届かない、という理想的な状況を手に入れた。
案の定、あづさへの嫌がらせはエスカレートしていく。そしてあづさは『教員への相談実績』を手に入れたので、後は適度に「自分は死ぬつもりはない」ということをアピールしておくだけで学校への対応は終了。
ネット上では、相談実績を手に入れたことをSNS上でそれとなく分かるように公開したり、遂に公開されているSNSにまでいじめの犯人達が攻撃の手を伸ばしてくるという馬鹿な行動を見せ始めたり、それを見たあづさのコミュニティの人間達があづさの状況に勘づき始めたり……と、動きを見せ始める。
そうして一度、火が着き始めたのなら、行動は早い方がいい。
犯人達を逃がす気はない。『まだ逃げられる』と高を括っている内に挑発して、逃げられないリスクを背負い込ませなければならない。
突発的に、衝動的に。理性的に考えさせる暇など与えず。自分達が狙われていることに気づかせず。
犯人達に、あづさを殺させる必要があった。
……そこまでが、あづさの知る、あづさ自身の記憶である。
記憶が消えた12時間の間に何があったかは定かではない。だが、想像は付く。
恐らくその日の朝、学校に到着してすぐか、到着する直前。犯人達と上手く鉢合わせられるタイミングが手に入りそうだということが分かったのだろう。
そこで準備の為に早退したか、はたまた、学校へ行くこと自体を取りやめたか。
……それからあづさは、『自殺ではなく他殺である』という根拠になりそうな書き込みをネット上に残しつつ、関係機関に予め手を回してしっかりと伏線を残しておきつつ、自分を殺した犯人が簡単に推測できるように下駄箱の写真を残しつつ……夕方、犯人達が居ると分かっている時刻に、『今日が提出期限だったから』という理由で志望校調査票を提出しに、わざわざ学校へ向かったのだ。
そこであづさは、真弓を殺した犯人達に、あづさ殺しを実行させたのだ。
ふと、あづさは自分の体が宙に放り出されたのを感じた。
元の世界へ、帰ってきた。
そう自覚して目を開けば、ここ数か月で見慣れた校舎が見える。そしてその景色は、瞬時に遠のいていった。
風を切る。
重力に引かれて落ちる。
ほんの1秒程度のことだ。計算もした。あづさが落下し始めてから地面に叩きつけられるまでに2秒も無い。
その、僅か1秒程度の間にあづさは、色々なことを思い出す。
真弓が居た頃の思い出。小さい頃は、あづさが両親から適当に買い与えられたおもちゃを共有して、真弓の家で一緒に遊んだ。両親が不在のあづさを気遣って、真弓の両親はあづさによくしてくれたものだ。
小学校を卒業して、中学生になっても一緒に居た。あづさの両親の放任はより顕著になり、あづさと真弓は本当の姉妹のように一緒に生活するようになっていった。あづさは特に何にも興味を持てなかったが、真弓が文芸部に入部したいと言ったので、付き合いで一緒に入部した。そこでの日々は、案外楽しかった。
別々の高校に進学しても、やりとりは続いた。近所のことなのでしょっちゅう顔を合わせたし、連絡も取り合った。週末には特に用事もなく会って一緒に図書館へ行ったり、特に目的も無く話したりして過ごすこともあった。
……楽しかったのだ。あづさの今までの人生の楽しかったことのほとんどに、真弓が居た。
真弓が居なくなってから、楽しいことなど無かった。自分の半分が消えてしまったような感覚だった。
あたりまえに在ってそれでいて何にも代えがたい存在が理不尽に消える苦しみが、あづさの世界のほとんどを塗り潰していた。
……異世界での、不思議な日々を迎えるまでは。
異世界での生活はもしかしたら、ご褒美のようなものだったのかもしれない、と、あづさは思う。
頑張ったから、などと驕る気は無いが、褒美を誰かから貰える自負を持てる程度には、あづさはあちこちで成果を上げてきたのだから。
だから……最期に楽しい思い出が少し増えた。そう、あづさは思う。
地の四天王領の奇妙で可愛い魔物達に囲まれて過ごすのも楽しかった。風の四天王領の個性的に過ぎる面々を見ているのは楽しかった。水の四天王領の冷静ながら冷たくはない者達にちょっかいを掛けるのも楽しかった。火の四天王領に捕らえられた時も、今思えばあれはあれで楽しかった。魔王という国の最高権力者相手に渡り合ってみせるのも、この世界ではできないことだった。楽しかった。
真弓のことも分かった。あづさの知らないところで人間でもない相手に恋をされていたなんて知らなかった。勇者になっていたなんて、想像もつかなかった。
そして……お人よしで、自分に自信が無くて、それでいて非常に優しい……真弓にどこか似た性格の竜を連れ出して振り回して、あれこれするのが楽しかった。
楽しかったのだ。
失うことを、惜しいと思ってしまう程には。
……だが、それもこれで終わりである。
もっと上手くやる方法があっただろうか。
自分にもっと力があれば、もっと上手くやれただろうか。
真弓が殺される前に、助けられたのではないだろうか。
後悔は尽きない。
……けれど、それももう終わりだ。
「あーあ、楽しかった」
流れ去った走馬灯の果て、最期にそう呟いて、あづさは襲い来る衝撃を待ち構えた。
「よし、間に合ったな」
感じるはずの衝撃が感じられず、聞こえるはずのない声が聞こえて、あづさははっとした。
見上げれば、自分を覗き込んで笑いつつも緊張と安堵を隠し切れないギルヴァスの顔がある。
「な……え、な、なんで?」
夢でも見ているのか、とも思ったが、見回せばそこは、校舎の横。あづさが転落死する現場になる予定だったその場所である。
そして、あづさを抱きとめているのは、ここに居るはずのない竜なのである。
「うん。すまん。俺も一緒についてきてしまった」
ギルヴァスの言葉にぽかん、としつつ、あづさは思い出す。
……そういえばギルヴァスは、別れの言葉なんて一言も言わなかったわ、と。
しばらく、あづさは放心していた。
直前まで死に晒されていた体の緊張は中々解けず、それは思考についても同じだった。一度走馬灯を流した頭脳は、元通りに動き始めるまでに少々の時間を要するらしい。
「……すまん。驚かせたか」
そんなあづさを見て、ギルヴァスは申し訳なさそうな顔をする。
「そりゃ、驚いた、って、いう、か……」
あづさは最早何と答えたらいいのか分からない。
『どうしてついてきたの』でもなく、『どうして私が死ぬって分かったのよ』でもなく、『あなたどうやってついてきたの』でもない。
それらは皆、聡いあづさにはなんとなく分かってしまった。
ギルヴァスがついてきたのは、あづさが死ぬと分かったから。どうして分かったかは、きっと、頑張って推理したのだろうから。そしてどうやってついてきたか、は……。
「……角、使っちゃったの?」
「ん?ああ。供物に丁度良かったもんでなあ」
……ギルヴァスの頭を見れば、そこには見慣れた角が無い。魔法で隠しているわけでもなく、そこには今、何も無いのだ。
あづさがかつて髪を切って魔法の代償にしたのと同様に、ギルヴァスもまた、角を使ってしまったらしい。
「まあ、君に比べたら安いものだ。この程度」
数百年分の歴史があったであろうものを失いながらもあっけらかんと笑ってそう言って、ギルヴァスはふと、頭上を見上げる。
「……さて。驚かせてすまなかったが、君がやるべきことはまだ、達成できるか?」
ギルヴァスが頭上を見上げて鋭く目を細めるのを見て、あづさは自分が為すべきことを思い出す。
見上げれば、あづさと窓辺で揉み合いになった末にあづさが窓の外へ落下するのに手を貸す形になってしまったのであろう、哀れな犯人達が呆然としているのが見えた。
「……そうだ、私、やり損なったってことよね。なら、すぐリカバリー、しなきゃ……」
咄嗟に冷静に頭脳を働かせて、あづさはそう呟く。すぐにギルヴァスの腕の中から脱出しようとしなかったのは、『突き落とされて転落死しそうになったところをたまたま助けられた無力な女子高生』という仮面を被っている限り、今回の失敗が完全な失敗にはなりえないと判断したからだ。
つまり、まだ、やれる。
まだ、全てが終わったわけではない。
「さて、参謀殿。俺はどう動けばいい?」
ギルヴァスに『参謀殿』と呼ばれたことで、あづさはいよいよ活力を取り戻す。
異世界での不思議な日々。あづさの半分が消えてなくなって空いた穴を埋めてくれた、その日々が。思い出が。無力な女の子でしかなかったあづさを『地の四天王団の参謀』に変えて、再び、動かす。
「そうね……じゃあとりあえずあなたは私に適当な外傷与えてくれる?」
「……えっ」
ギルヴァスは戸惑った様子だったが、活力を取り戻したあづさはもう止まらない。
何せ『地の四天王団の参謀』は、頭が切れることで評判だったのだから。
「それが終わったら隠れてて頂戴。あなたが急に現れたら只の不審者よ、不審者。ここ学校だし」
「……そ、そうか」
「とりあえず、あの高さから落ちて奇跡的に助かったとしたらこのくらい、ぐらいの怪我、お願いね」
「い、いや、それは……」
「早くして。急いで。私、息も絶え絶えに救急車呼ぶんだから!ここで救急車か警察呼ばないと大事にできないでしょ!」
「きゅ、きゅーきゅー、とは……?い、いや、わかった。とりあえず骨……いや、しかし、君を助けるために来たのに自らの手で君を傷つける羽目になるとは」
「あなたができないんなら私がやるわよ!私もなんだか魔法使えそうだしもう一回高いところまで飛んでから落ちれば」
「わ、分かった!やる!やるから頼む!全部幻影でなんとかさせてくれ!決して露見しないように上手くやるから!」
……かくして。
あづさは『不自然ではないが奇跡的なほど綺麗に脚の骨を折って全身に打撲と擦り傷を負った状態』に擬態して、無事、自分の手で救急車を呼ぶことに成功したのであった。学校の中が騒がしくなってきたが、ギルヴァスはあづさから離れる気が無いらしい。
「ちょっと、あなたは隠れててってば」
「……魔法で誤魔化すから、君と一緒に居ていいか」
「……上手くやれるんならそれでもいいけど。でも、あなたが不審すぎたら、あなたが私を突き落とした犯人ってことにされかねないんだからね?そこは頼むわよ」
学校から出てきて悲鳴を上げる教員の声を聞きながら、遠くに救急車のサイレンの音も確認して、あづさは小さく、微笑んだ。
「すまない。こんな四天王最弱じゃあ、居る方が却って心配だとは、分かってるんだが……」
対するギルヴァスは申し訳なさそうにしつつ、しかし、倒れたあづさの傍らで、あづさの手を握って離さない。
離されない手を確かめて……あづさは笑った。
「あら。誰が四天王最弱ですって?」
握られた手を、強く、握り返す。
離されなかった手。自分を離さなかった手を、自分もまた、離すまい、と。
「これからもよろしく頼むわよ。頼りにしてるわ、相棒」
「……ああ、こちらこそ。参謀殿」
勝利のファンファーレか祝福の鐘の如く、救急車のサイレンが響いていた。
これが最終話ですが、あともう1話だけあります。