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誰が四天王最弱ですって?  作者: もちもち物質
四章:無謀に鬼謀、謀れよ乙女
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131話

「ということで、今晩付けで地の四天王団に入団してくれたフォグ改めクレイヴよ。皆、よろしくね」

 城に戻って最初に、あづさとギルヴァスはクレイヴを紹介した。

 ……城に居たヘルルート達に。

 彼らは新たな仲間を素直に喜び、足元にまとわりつくようにして懐く。人間の形をした仲間は地の四天王団には珍しい。ヘルルート達は興味津々でクレイヴに寄って集って、思い思いに好き勝手し始める。

 脚に纏わりついてみたり、手を振ってみたり、おずおずと差し出された手の指先をとって握手のように上下に振ってみたり。

 ヘルルート達の歓迎を受けながら、適当にそれの相手をしてやりつつ……クレイヴは、言った。

「……檸檬が好きだといったが」

「ええ」

「人参と大根も好きになった」

 それを聞いてその場の皆が笑顔になったのは言うまでもない。




 それから夕食の席で、30人余りの人間達と数名の魔物達は同じ卓についた。

 ……そして、そこにクレイヴの姿もあるのを見て、傭兵達とシャナンはざわめく。

「あー、ええと。説明が遅くなったが、彼についてだ」

 そこでギルヴァスは、食事を始める前にクレイヴの紹介を始める。

「彼には寝返ってもらった。要は、地の四天王団に入団してもらうことにした。なのでまあ、急にそう言われても難しいとは思うが……警戒しなくていいぞ。彼があづさや俺を刺そうとすることはもう無い……と思う」

 警戒するなって言ったって無理よね、と思いつつ、あづさも頷いて見せた。

 ……刺された本人がこの調子なので、傭兵達は戸惑いつつもなんとなく頷くしかない。一体どうやってこの状況に漕ぎつけたのかは分からずとも、ひとまず大丈夫そうだ、と。

「食後に今後の動きについて協議したい。こちらにつくつもりがある者は集まってくれ。そうでない者は……まあ、聞かない方がいいだろうなあ。うん。その方が逃げ場があるし……」

「そうね。内容を知った上で人間の国にその情報を持ち帰られちゃうとちょっと困るわ。悪いけれど、聞いたら絶対に緘口令を敷かせてもらうからね」

 ギルヴァスとあづさが揃ってそう言えば、傭兵達はざわめいた。

 ここで選択を決定してしまう必要はない。ならば、ひとまず保留で、という意見が多いようであったが、あづさとしてもギルヴァスとしても、それは一向に構わない。むしろ、ここで人間達が既に味方に付くことを決めていたら、それはそれで何か怪しむところである。

 ……が。

「分かりました。なら僕もそちら側に付きましょう」

 シャナンはそう言って、にっこりと笑うのだった。


「……急いで決めなくてもいいぞ?」

「いえ。もう心は決まっています」

 心配そうに言うギルヴァスに笑って返して、シャナンはミラリアに向き直る。

「ミラリア嬢と、長く一緒に居たいので。ご許可は頂けますね?」

「……あの。一応言っておくけど、彼女の所属は地の四天王団じゃなくて水の四天王団だからね?どうこうしたいならこっちに言っても無駄だからね?」

「そうですか。ならいずれ水の四天王様にもお目通りしたいですね」

「えーと……オデッティアはやめておいた方がいいぞ」

「あ、そういえばオデッティア、どうしてる?」

「ラガルを虐めて遊んでいる」

「ああ、やっぱり……」

 シャナンの思い切りがいいことは良いが、どうにも、これからを思うと少々苦しい。

 あづさとギルヴァスは顔を見合わせて無言のやりとりをし、次いでため息を吐き出すのだった。




 そうして傭兵達はそれぞれの客室に戻っていき、食堂にはあづさとギルヴァス、ラギトとミラリアとルカ、そしてクレイヴとシャナン、という7人だけが残った。

 そこでクレイヴは、ようやく彼の持つ情報を話し始める。

「俺がダニエラ様に命じられたのは、まず、魔王を殺すこと。それから、もし勇者が魔物との和平を望んだなら、その時は勇者も殺すことだ」

 少々唐突に、かつ簡潔に始まる彼の話を聞いて、あづさは『ああ、やっぱりね』というような思いで頷く。

 アーリエス4世が『魔王がもし和平を望んできても構わず殺せ』と言っていた理由も、これで分かった。王もダニエラの支配下にあるのだろう。

「どーいうことだァ?和平っていいことだろ?なんで嫌なんだ?あづさを殺せとか無謀なこと言うくらい嫌なのかァ?」

 ラギトはそう言って首を傾げているが……それにクレイヴは、頷いて答えた。

「ああ。ダニエラ様は魔法を独占している」


 あづさとミラリアは納得して頷いた。

 人間の国では魔法があまりにも少ない。それは、魔導書の価格が高く、そして魔導書自体の流通も少なく、そして魔法の道具の研究も少ない、という、不思議な状況から生まれたものだったのだが……それは、『魔法を広めたくない者が居るから』だったのだ。

「まあ、確かにね。全員が魔法を使えるっていうのと、世界で自分だけが魔法を使える、っていうのは大分違うでしょうし」

「魔法を使えるのが自分だけなら、反乱分子を抑え込むのも簡単だしなあ。成程……」

 異世界人は異世界の知識を持っているからこそ、この世界で重宝される。ダニエラはそれと同じように、『魔法が使えない世界で唯一魔法が使える存在』を目指しているのかもしれない。

 そうすることで自分の地位を確かなものに変え、自分だけが常に優位に立ち続けられる。どんな圧政を敷いたとしても、反乱する民衆を抑え込むのも簡単だ。魔法を独占する、ということは、そういうことなのである。

「……となると、成程な。ダニエラは魔物の国との和平を望まないわけだ。魔物の国と人間の国が自由に交流するようになったら、魔法の独占なんてできないだろうからなあ」

「まあ、そういう意味では勇者も邪魔、ってことかしらね。力があるわけだし、傀儡にできないなら革命を起こされる可能性が高い……ってことよね」

 もし、単に魔物の国との国交を持ちたくないだけなら、いくらでも他にやりようがあるだろう。魔王だけを殺せば済む話で、勇者まで殺す必要はないのだから。

 ……そう考えたあづさは、ふと、思い至った。

「もしかして、勇者マユミの時もそうだった、のかしら」




「……だろうなあ。ということは、代々王家では魔法の独占のために魔物の国と争い、時に魔物の国を侵略して、そして、もし和平を望む勇者が現れたなら、殺していた……ということか」

 あづさは、痛ましいような思いでギルヴァスの言葉を聞き……そして、俯く。

「……じゃあ彼女はきっと、王家に殺されたのね。魔物の国との和平を、望んだから……」

 平和を望んだものが殺される。

 どの世界でも、同じようなことは起こるらしい。




「ところでよォ、ダニエラって、何歳だ?300歳ぐらいか?」

 ふと、ラギトがそんなことを言う。

「いや、それはないだろう。人間がその年月を生きていたらそれはもう化け物だぞ」

「そうよね。この世界でも人間の寿命なんて100歳くらいでしょ?」

「いいえ、そこまで長くもないですよ。60か、70だと長生きですね」

 皆口々にラギトの言葉を否定すると、ラギトは首を傾げた。

「ンじゃあ、100年前にもダニエラみてえな奴が居たのか?100年前も同じだったんだろ?ン?どーいうことだァ?」

「だから、王家が代々……」

 ……あづさは答えようとして、はたと、思い当たってしまう。

「……ね、ねえ。ダニエラ様って、後妻、なのよね?」

「ああ」

「つまり、王家の外から入ってきた人、なのよね……?」

「そうだな」

 クレイヴの返答を聞いたあづさは、頭を抱える。

「……首謀者って、本当に、王家?」




「……ダニエラの身辺を、調べてみないことには、分からんなあ……」

 やがて、ギルヴァスをはじめとして全員が、難しい顔で唸ることになった。

 ダニエラと王家の繋がりは、どうやら、相当に複雑そうである。




 そうして一団は、今後の方針をまとめた。

 ……人間の国へのUターン。そして目標は、ダニエラ・アーリエス。彼女を誘拐し、今度は彼女から情報を得る。

「待ってなさいよ、ダニエラ。目的も仕掛けも勇者マユミの死の真相も、全部吐かせてやるんだからね」

「あづさ様。拷問なら私にお任せください」

「ええ。頼りにしてるわ、『お姉様』!」

「ふふふ。是非頼ってくださいね」

 女性2人が微笑みあうのを見て……ギルヴァスは少々複雑そうな顔をし、ルカは明らかに心配そうな顔をしながら、2人揃って同じことを考える。

 ……どうやら、ダニエラとやらの命運も尽き果てたらしい、と。


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― 新着の感想 ―
[一言] そんな!必殺仕事人間のクレイヴさんが小粋な冗談を?!あづさ様の懐柔スキルがここまで高かったとは…。 いや、この場合、動く根菜をみて狩猟本能に目覚めた結果、本当に美味しそうに見えてきている…
[一言] ヘルルートたちに懐かれて好きになるクレイヴさん、やっぱりいい人だw
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